195.BランクパーティーVSレイヤースライム①
メンバー達が鬨の声を挙げてから群れの9割がスライムの被膜に変わるまでの時間、わずか1分。たったそれだけの時間で50匹近くのベビースライムが居なくなってしまった。しかもクロードはベビースライムリーダーの護衛をしているので実質4人だけでである。
「うわぁぁぁぁ、マジか……」
「ふふん、口は悪いが俺の仲間はスゲェだろ?」
「あ、ああ。正直目で追い切れないんやけど、凄くスゴイって事だけはわかったわ」
売れっ子の小説家だという自負を持つ俺が、初めて花火を見た少年の様な語彙しか浮かんでこない。
「うわっ、コイツ報告通り仲間の皮喰ってやがるぞ!?」
「げぇ〜、分かってても何か気持ち悪〜い」
「ソーイチさん、よくこれ見て全部喰い終わるまで待ってたな……。事前情報無しだとしたら、俺は見つけた瞬間にソルトボール投げてたと思うぞ」
「ははは。そこは渡り人特有の好奇心って感じやな」
「マジかよ、渡り人って変態なんだな……」
俺達に玉砕覚悟で襲いかかる群れの同志を尻目に、仲間達のドロップを淡々と食べるベビースライムリーダー。その姿にドン引きするクロード達だったのだが、話をしている内に次第と渡り人(というか俺)の方がおかしいと気付いてしまったようだ。
「まあ渡り人が変人やからこそ、レイヤースライム含めて新発見したんやしそこら辺は勘弁して。それよりスライムの被膜結構散らばってるし、時短の為に集めてあげようや」
「……それもそうだな。リーダーに当たらないよう、群れの中心で戦闘したからあっちこっちに落ちてるもんなぁ」
「ところでソーイチさんが出会った群れより大きいなら、途中で進化する可能性ありますよね?」
「あっ、確かにありえるかもな。進化の瞬間を激写できるように、発動姿勢で構えとくわ」
フルールの指摘を受けた俺はリーダーから数歩離れた距離で、アーツ発動の前段階のポーズをキープしながら、進化する瞬間を待ち続けた。
「そうだ。ミーティングでも話していた事だが、今回の戦闘では各形態での攻撃方法や防御性能など色々と確認したい。俺はソーイチの護衛をしてるから、各メンバーは倒しきらない程度に相手してやってくれ」
「確かに最初で最後の遭遇って可能性もありますしね。とりあえず魔力を付与する時は1MPだけにしておきますね」
「ああ、その辺の判断は任せる」
もそもそとベビースライムリーダーがスライムの被膜を食べ進める中、待ち時間の間に行動を再確認するクロード達。その慎重さに感心しながら、俺も自分の役割を声に出して共有・確認していく。
「クロード、俺も確認しときたいねんけど、今回のバトルではまずは撮影。それが終わったら、【コピー】で印刷からの行動をメモしていく流れで合ってるよな」
「ああ。俺がしっかりと守って行くから、落ち着いて取り組んでくれ。あっ、それと余裕があればレイヤースライムの攻撃した瞬間の撮影も頼む」
「おっ、それええな。バシバシ撮るからみんなも大振りの攻撃誘って頂戴」
「は〜い、ってソロソロ食べ終わるみたいですよ」
「ホンマや。これで不発ってのは勘弁してくれよ〜……。おっ光った!」
「いよいよ本命のお出ましだな!みんな気を引き締めろよ!」
「「「「了解!!!」」」」
進化の条件は、一定数ではなく群れ全てのスライムの被膜を喰い尽くす事だったのだろう。前回より2割増のスライムの被膜を喰い切ったベビースライムリーダーは、ようやく進化の兆しを見せる。俺はその姿を画角に捉えながら、撮影と印刷をこなしていった。
「まずは小手調べで、とりゃ!……おお、手加減したとはいえノーダメージか。報告通り、コイツの物理耐性は異常に高いっぽいな」
「【ファイア】【ウォーター】【ストーン】【ウインド】低級魔術で試しましたが、どれも被膜1枚剥くだけみたいです!」
「【ストーン】で皮を剥けるって事は、魔術由来なら、物理でも良いっぽいな」
「ぐっ、中々強い酸攻撃だな!中級レベルの魔物に匹敵する威力だぞ!」
「【ヒール】【ヒール】。うん!酸攻撃はおよそ80ポイント、状態異常は特になさそうです」
「20枚目突破!そろそろ第二形態へ移行しそうです」
「聞いたか、ソーイチ」
「あ、ああ。登場から攻撃動作まで全部印刷してるし、行動もメモ終わってる!いつでも第二に移行してオーケーや」
一手、また一手とレイヤースライムとの攻防が進む中、攻撃速度や威力に予備動作、物理・魔術の防御性能と、どんどんとその生態が丸裸になっていく。
(魔物の生態調査って、ここまでシステマチックに検証していくんやな。これ見てたら前回に俺の検証が、雑というか荒いというか、行き当たりばったりやったってのが身に染みて分かるわ)
俺が心の中で反省と感心を同時に考えている間にも、検証は進んでいく。そして、
「30枚突破!レイヤースライムに変化の兆しが」
「オーケー。撮影の準備に入る」
レイヤースライムは大きく弾み、調査は第二形態をむかえる事となった。
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