189.記念撮影とアーツの可能性
「こっちの準備完了だ」
「ソーイチさん、よろしくお願いします〜」
「オッケー、撮るで〜。3・2・1・【ビジョンスキャン】……よし、撮れてるな!」
ノア・タイムスから戻った俺はクランコールにて【ビジョンスキャン】の試し撃ちを提案。すると全てのメンバーが撮影に参加してくれた。
「わぁ〜!ソーイチさん。ありがとうございます!」
「基本的に大きなイベントの後くらいしか記念撮影しないものですが、偶には良いですね」
「でもスキルの仕様上仕方がないとはいえ、ソーイチさんが写ってないのは残念ですね」
「手でフレームを作らないとダメなのが辛いとこやな」
取ったばかりの画像を【5枚刷り】で印刷したものを配りながら、今の撮影の感想を語り合う。その内容はモチョやアマネのように写真撮影という行動にワクワクしていたり、
「ふぅ。実は【心眼(序)】発動中は写真もモノクロにならないか心配だったが、しっかり色ついてるし安心したよ」
「あ!?確かに見えてるままの景色を切り取るなら、その可能性もあったんか。」
「まあ、その心配は杞憂だったけどな」
ユサタクのようにアーツの仕様確認だったりと、多種に渡る感想が面白い。
「これって自撮りとか出来ないんでしょうか?」
「いやいや、腕の構造的にかなり顔の一部写すだけで精一杯やわ」
「う〜ん。スマホみたいに内と外両方にカメラがあると良かったんですけどね〜」
「そうだ!アーツを放つ時の手の位置や向きを逆に変えてみたら、内と外を入れ替える事が出来そうじゃないっすか?」
「うん?手の位置を変えるってこういう事か?」
「そうっす。試しにその方法でアーツ使ってみて欲しいっす」
セキライの言われるがまま、フレームの作り方を変えてみると、なんと内側の撮影に成功してしまった。
「おおおお。自撮り大成功!アイデア出してくれてありがとう!」
「あはは、偶々予想が当たっただけっすよ」
「いや、それでも俺にない発想やったよ」
「えへへ。照れるっすね。でも腕の可動域から考えて、内側撮るのは1人分が限界かもっすね」
「フレームと被写体の距離が自撮り方面やと、腕の長さ分しかないしな。でも写真系アーツ持ってるのに自分だけ写れへんよりは全然マシやわ」
「あっ、そうだ!こうすれば一緒に写れますよ」
「モチョ、ナイスアイデア!」
「ええ!?ちょっ、近い近い!」
セキライのアイデアを褒めていると、モチョとミコトが突然、俺の顔のすぐ横に自らの顔をギュッと寄せてきた。
「ははは、確かにそれなら一緒に撮れるっすね」
「というか、こうしないと撮れないんです。ソーイチさんに接近するのは不可抗力ですよ!」
「確かにそうやけど、不意打ちでくるとドキってするやろ?」
「……ドキってさせてるんですよ?」
「!?!?!?」
「わぁ!モチョ大胆すぎ〜〜!」
妙に色気のあるモチョの言葉に俺の純情メーターがオーバーフロー状態に。
「自撮りが出来るという事は、このアーツは視覚依存ではないという事ですよね」
「色がモノクロじゃない時点でそうだとは思ってたけどな。ただ撮影対象が視覚依存じゃないってのは、戦略の幅がメチャクチャ広がるぞ」
「し、視覚依存じゃないってだけで性能変わるもんなんか?」
「あっ、逃げないでくださいよ〜」
そんなラブコメモードの俺たちを尻目にゼロとユサタクは真剣な顔つきでアーツの性能について話し合っている。俺はモチョ達から逃げるように、その会話に加わった。
「当たり前でしょ。これは腕が届く範囲ならば上下左右前後。どの場所の映像も撮る事が出来るんですよ?」
「メインスキルの枠を【メモ】と【スキャン】の2枠必要とはいえ、このスキルがあるだけで偵察の精度が大幅に上がるんだよ」
「あっ、そうか!物陰から手出して隠れて激写とか、振り返らずに背後を激写とか色々出来そうやもんな」
「後は塀から手を出して撮るってのも出来ますね」
「なんか言葉にすると覗きの変態みたいなやり方やな」
「……やってる事は隠し撮りですからね」
確かに優秀なアーツなのだが、実際の行動は『スマホ隠し撮りおじさん』と同じなので、自分が不審者予備軍になってしまった気分になる。
「おいおい、俺はスパイ映画とかである手鏡で敵を探るクールなシーンを妄想してたんだから、それを変態で上書きしないでくれよ」
「あっ、手鏡か!うん、そのイメージ採用!」
「手でフレームを作るという制約上、動かせる長さも30センチくらいですし、そっちの方が相応しそうですね」
「あれ?そんな短くなるか?」
「上方面は腕の長さをフルで使えますが、左右は逆の腕が胴の長さ分短くなりますからね」
「……ホンマや!あまり伸びへんし腰痛い!」
実際にフレームの型をキープしたまま横に伸ばしてみると、思ったほど伸びない。少しでも距離を稼ごうと体を『C』のようにしてアーツを放つも、距離は伸びない上に無理が祟り腰にダメージが起きてしまった。
「腰が痛いか……。ただでさえゲーマーは腰痛と友達だし、横はダメだな」
「ああ。これじゃあ手鏡以下や。それに横に伸ばした時、想像してたより腕が目立つから隠し撮りには向いてないっぽいわ」
「はぁ〜。これでは凄腕のスパイには程遠いな」
「いやいや、気を落としすぎでしょ!」
宝石と思っていたものがただのガラス玉だと気付いたようなガッカリ感に俺とユサタクは少し凹む。だがゼロは違う感想を抱いたのか、落ち込むのに待ったをかける。
「横は無理でも、背後と上部の撮影は使えそうでしょう?3つの内1つが使えないだけで落ち込みすぎですよ」
「確かに残り2つは無理ではなさそうやな」
「でしょ?後、まだ【ビジョンスキャン】を使い始めて15分弱ですよ?解散してからもアイデアが湧いてくるかもしれませんし」
「そろそろギルド開くから今回は切り上げるけど、アイデア出しは続けるべきやな」
「それに今日の調査隊メンバーからも助言貰えるかもしれないしな」
「おお、確かに住民に聞くのええな!レイヤースライムとか撮る時に、先輩冒険者に聞いてみるわ」
「ええ。それが良いですよ」
残り2つの使い道に、未知の可能性。
少し不満は残るものの、ゼロの発言のおかげで第一回【ビジョンスキャン】の試し撃ち&検証会は希望の残る終わり方をしたのであった。
次回は12月13日(金)午前6時に更新予定です。
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