187.3つのど忘れとランクアップの保留
ー司書のレベルが9に上がりましたー
ーソーイチのレベルが16に上がりましたー
印刷作業を開始してから10分と少し、あっさりと司書とキャラのレベルが上昇する。
(よし、計算通り【メモ魔】外しても、キャラと司書は上がったな。これで【記者】の上限も上がったし、ST・MPも満タン。印刷は一旦切り上げて、ホーム帰宅でジョブチェンジ&森へ伐採に行くかね)
実は少しでもレベルアップまでに枚数を稼ぐ為にあえて【メモ魔】を称号から外し、獲得経験値を下げていたのだが、レベルが上がれば外す意味も無くなる。
俺は作り上げた紙束をまとめた後、称号の変更や伐採の為に作業室を出た。
「コビー。レベル上がって満タンになったSTを使い切ってくるわ」
「おめでとう。作業の続きする時は直接作業部屋に行って大丈夫だから、僕がいなくても気にしないでね」
「オーケー。じゃあ行ってくるわ」
コビーのアドバイスを聞いてからホームへ帰宅。ジョブとスキル・称号を変更して【ノア東部の森】へ転移した。
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(ああ〜。木こりのプリセット設定ド忘れするとか……。とりあえずSTとMP使い切ってから新しいプリセットの登録やらなあかんな。ってうわっ)
ノア東部の森へ転移すると同時に、片っ端からアーツを放つ。だが俺の頭に浮かぶのは、スロットの空きがあるにも関わらず、伐採用のスキルプリセットの登録をしていなかった事についての自責の念だ。
予定以上に手間取った己の情けなさに内心でブツクサと愚痴を吐いていると、木陰に潜むベビースライムを踏みつけてしまい戦闘が開始。俺はピョンと体当たりする敵を慌てて避け、返す刀でソルトボールを投げつける事でなんとか倒す事が出来た。
(あかん、ノンアクのベビー種しか出んとはいえここはフィールドや。どんなイレギュラーがあるとも限らんし、今は伐採に集中せな)
重大な事故が起きる前に自らの緩みに気づけた俺は、雑念を捨て伐採作業に集中。その結果65本の木材と5体の魔物の撃破。更に【見習い文武両道】と【見習い木こり】のレベルを1つずつ上げる事に成功した。
(これでSTは使いきった。次はジョブ変えて、印刷機モードに戻るかな)
心の中で予定を確認した俺はジョブチェンジをする為に、ささっとホームに転移する事にした。
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「いや〜、いつの間にか師弟システムのクールタイム明けてたとはなぁ。ホームで休んでたフワフワに契約のお願いされへんかったら、数時間分の経験値や熟練度が損するとこやったわ」
ホームに戻った際、休憩中のフワフワと遭遇。彼女から師弟システムの申し込みをされたおかげで、師弟システムの再契約の為のクールタイムが終わっている事に気付けた。
そのお礼という訳ではないが、今回はフワフワと契約を5日分と長めの契約を結んでおいた。
「はぁ〜〜〜。立て続けにミス連発とか弛みまくってるな!これを取り返す為にも【ビジョンスキャン】覚えるまでここから離れへんぞ!」
そう意気込み作業を再開。その結果、作業を終える頃には印刷した新聞は1,000枚を超え、
ースキル【瞑想】のレベルが7に上がりましたー
ースキル【休憩】のレベルが6に上がりましたー
ースキル【待機】のレベルが6に上がりましたー
ースキル【大陸語】のレベルが8に上がりましたー
ースキル【心眼(序)】のレベルが6に上がりましたー
ースキル【スキャン】のレベルが7に上がりました。これによりアーツ【ビジョンスキャン】を習得致しましたー
と、目的の【スキャン】含めて6つもスキルのレベルを上げる事が出来た。
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「おや?今回の依頼を報告すると、冒険者ランクがDに到達するね」
「おお!マジか!」
時刻はただ今21時前。現実で夕食を食べる為に少し早めに作業を切り上げ報告に向かうと、コビーから嬉しい知らせが告げられる。
「早速ランクアップの手続きお願いするわ」
「無理無理。ウチで出来るのはポイントの付与まで。正式にランクアップするには冒険者ギルドじゃないとダメだよ」
「ええ!?もう冒険者ギルド閉まってるやん。せっかくポイントは到達したのに昇格出来んとか……。このお役所仕事の抜け道ってないん?」
これを逃すとランクアップは明日になってしまう。既に別プレイヤーがランクアップ済みなので最速に意味はないが、なんとかならないかと少し粘る。
「ないね。ホームや称号の効果で転職出来ても、新ジョブ解放は教会でしか出来ないように、ランクアップの手続きもそう決まってるもんなんだ。残念だけど明日の朝一に手続きしてきなよ」
「そうするしかないか……。はぁ〜あ、こんな事ならレイヤースライムの報告に行った時に、討伐依頼の達成報告も併せてするんやったわ」
「恒常依頼なら行く度に報告は常識だよ」
「やっぱそうなるよなぁ。明日いっぱい討伐する予定やったし、ついつい横着してもうたわ」
「まあ、これも経験。多少のミスは成長の種だよ?」
「この数時間でド忘れで3つもミスしてるんやけど、これも糧になってくれるかな?」
「……あぁ〜、うん!なるさ」
「ははは……ありがとう……」
スキルプリセットの登録忘れに、師弟システムのクールタイム。挙げ句の果てにはギルドカードのポイント管理まで見落としてしまった。その事実を伝えると、励ますコビーの声と顔が少し引き攣る。
俺はその善意に力無い声でお礼を伝える。そして依頼の終了手続きを淡々と済ませた後、肩をガクっと落とし半泣きになりながら、現実世界へ帰ったのであった。




