182.モチョの好みと思春期メンタル
「あ゛ぁ〜、疲れた〜」
「お帰りなさい、ソーイチさん。報告はどうなりましたか?」
ラクレスとの会談を終えホームに戻った俺を、ワクワクした目をしたモチョが出待ちしていた。
「語れる内容はメチャクチャあるけど、ある意味一番ビビったんは、報告相手が冒険者ギルドのトップやった事やな」
「わぉっ!スゴい大物ですね!一体どんなキャラでした?」
「そうやなぁ……。50代くらいの男性で服装はキチッとフォーマルな感じ。でも野生味が溢れてるというか、ワイルドさも秘めたイケおじって感じやったな」
「イケおじ……。グヘヘ……イイですねぇ〜」
ラクレスの印象を答えた途端、モチョの顔面が少し壊れる。
「ええ〜……。モチョからそんな奇声出るとは、年上好きなんか?」
「ええ!5歳から30歳上までが私の守備範囲!もちろんソーイチさんもストライクゾーンど真ん中ですよ」
「そ、そのヨダレと奇声を聞いた後で言われて喜んでええのかもわからんけど、とりあえずありがとう」
少し人前にお出し出来ない顔付きでラブコール語るモチョに、少し後退りしながらなんとかお礼を言う。
「ムフフ〜」
「…………」
「……一体この空気はなんなんだ?少し気味が悪いぞ?」
「あっ、助かったぁ〜。モチョにギルドマスターについて語ってからこの調子やねん」
「うん?ギルドマスターって、どう言う事だ」
「実はな……」
少し変な空気感の中、怪訝そうな顔をしたユサタクが登場。俺はモチョに聞こえない音量で、彼女が壊れた経緯を伝えた。
「それはモチョにイケおじ関連の話を振ったお前が悪い」
「いやいや!モチョのストライクゾーンとか知らんよ。と言うか馴染んでる様に見えるかもしれなけど、まだ会ってからリアル時間で1日と少しやで!?」
「あっ、確かにそうだな。8倍速の世界だと時間感覚狂っちまうな。まぁ今回のでモチョの地雷ワードが分かっただろ?次からは気をつけるんだな」
「ハァ〜〜〜。……出来たら他メンバーの地雷原も後で教えて」
「あはは、機会があればな」
「言う気無さすぎな返事どうも!」
長年の付き合いから教える気が無さそうだと分かる口振りにユサタクに、イラっとしつつ皮肉で返す。
「さてと馬鹿話はこれくらいにして、ソーイチはこんな所で油売って大丈夫なのか?もうすぐフレンとの約束の時間だぞ?」
「あーっ、そうですよ!手土産のクッキーやプチタルトも用意完了してますよ!」
「確かに時間やし行かなあかんよなぁ。でもなぁ……」
「なんだ?フレンと顔を合わせるのが嫌なのか?」
「そんな事はない。ただ、聞こうと思ってた【開拓者】関連の話、既にギルマスに相談&解決済みなんよ」
「あらら、じゃあ会う理由無くなっちゃったんですね」
事情を話すとモチョは納得した様に頷く。一方ユサタクは、
「いや、理由が無くなったからってドタキャンするのはダメだろ?」
と、至極真っ当なツッコミを入れる。
「なあ、ソーイチ。フレンはお前がギルマスと会った事は知ってるのか?」
「ああ。部屋に案内してくれたの、フレンやからな」
「それじゃあ説明すれば納得するだろう。お前はモチョの作ったお土産とフルーツ持って、いつもお世話になったお礼ですと言いながら会いに行けばいいんだよ」
「確かにそうやな。用事が無いと女性に会いに行き辛い思春期メンタルがつい出てしもたわ」
「あはは、お前にしては不義理な態度だと思ったが、そんなしょ〜もない理由だったのか!」
「ははは、なんか可愛いかもですね」
「我ながら情けないな……。はぁ〜、時間無いし、早速向かうわ」
「ああ、しっかり事情と日頃の感謝を伝えるんだぞ」
「いってらっしゃいです」
こうして2人に後押しされ、手土産片手に再び冒険者ギルドへ向かった。
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「ごめん、こちらから面談の約束したのに、実質破棄みたいな形になってしまって……」
「いえ、ギルドマスターへの報告の時点でこうなる予感はしてたので大丈夫です。それに差し入れもこんなに一杯頂けるなんて……」
「ウチの料理担当が腕を振るったスイーツやし、喜んでくれたら嬉しいな」
「私含めて、みんな喜ぶに決まってます!今からオヤツの時間が楽しみですよ」
「あはは、是非とも味わって頂戴」
ユサタク達との会話の後、フルーツやスイーツをバスケットに詰め込みフレンへ差し入れと謝罪を行ったのだが、向こうは手土産のスイーツに夢中な様子だ。
「ところでマスターから話は聞きましたが、面白い提案なさるんですね」
「ははは、ぶっちゃけると誰も使っていないジョブを試したかったってのが大きいけどな。あっ、でも依頼受けたら真面目にこなすから、それは安心して」
「普段の【ユーザータクティクス】の皆さんの働き振りを知ってるので、仕事についての心配はしてないですよ。それに【開拓者】関連の依頼を発注出来るとなると、町解放で取れる戦略の幅が広がりますし、ウチにもメリットはありますから」
「そう言って貰えると助かるわ」
マスターはノリ気だったが他の職員達は違うかもと心配してたのだが、どうやろ杞憂だったみたいで一安心。これで心置きなくレベルを上げる事が出来そうだ。
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「……って事があってな」
「まあ、そうだったんですね」チラ
急な予定変更に理解してもらえて気が楽になった俺は、しばらく近況報告などの雑談をしていたのだが、時間を気にするフレンに気付く。
俺自身も【スキャン】や【見習い木こり】のレベル上げに加え、ギルマスとの会談結果の報告など予定がみっちり詰まっているので、お互いの為を思い帰宅を決意した。
「おっと、ついつい長居しちゃったな。差し入れも渡せたし、これで失礼するわ。フレン、渡したお菓子独り占めしたらあかんよ」
「そこまで食い意地張ってないですよ!頂いた差し入れは、しっかりと分けますから!」
「ははは、それなら安心や。それはさておき、ギルマスからの依頼のためにも、午後も張り切って行くわ」
「ええ、頑張ってくださいね〜」
こうして帰り際にフレンを少し揶揄ってから、俺は冒険者ギルドを後にしたのだった。
次回は12月5日(金)午前6時に更新予定です。
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