180.依頼内容と【ビジョンスキャン】
「うんうん。私から依頼したものであっても、一旦考えるその姿勢。先程の説教は無駄にならなかったようだな」
「ええ。美味しい依頼だとは思いますが、依頼書すら見せてもらってないですからね」
即答の返事が貰えなかった事を逆に喜ぶラクレスの顔に、俺は試されていたのだと気付く。
「ははは、試すのはこれくらいにしておくとして、肝心の依頼書をお見せしようか」
そう言ってラクレスは机から1枚の依頼書を取り出した。
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【特殊個体の調査】
ベビースライムリーダー及びレイヤースライムの調査及び検証
予定日時:陽の月2週目海の日 9時〜18時
※12時・15時にそれぞれ30分の補給・休息時間を設ける。
開始場所:冒険者ギルドの第3会議室
必要技能:【インタビュー】
推奨技能:【スキャン】Lv7
【報酬】1万ゴールド 800AGP 400BGP 400CGP
※【スキャン】Lv7以上をセットしている場合、それぞれ100ポイント追加
※ドロップアイテム 1種類に付き1つ要提出 残りは調査員で山分け
※レイヤースライム討伐1匹毎にそれぞれ50ポイント追加
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「拘束時間9時間……。殆ど開門してる間ずっとって事ですね」
「ああ。3時間毎に30分の休憩は設けているが、過酷な事に変わりないな」
「なるほど、二つ返事で受けずに正解でしたよ。ただ報酬のポイントが3種類頂けるのはありがたいですね。てっきりAGPしか貰えないと思い込んでました」
「ああ。新種の魔物の調査の場合、ウチ以外にテイマーギルドと司書ギルドとの合同依頼にする事が決まってるのだよ」
「ああ。情報を記録する司書と、魔物知識が重要なテイマー。内容を考えたら当然ですね」
3種類全てのポイントが報酬に含まれてる原因が疑問だったのだが、その理由を聞いて納得する。
「今回の依頼の様に、幾つかのギルドが合同で募集するものが上位ランクになれば増えてくる。渡り人の中でも有望株なソーイチ君も、いつかは恒常的に受ける事になるかもしれないな」
「あはは、期待に添える様に頑張ります。ところで話は戻りますが、今回の依頼について何点か質問してもよろしいでしょうか?」
「ああ。なんなりと質問してくれたまえ」
「ありがとうございます。では最初は……【スキャン】Lv7ってだけで、何故報酬がここまで上がるんですか?」
聞きたい事は山ほど浮かぶが、とりあえず自分のスキルに関係する所から質問してみる。
「それはな、Lv7になると【ビジョンスキャン】というアーツを覚えるからだ」
「【ビジョンスキャン】ですか……。今までは【スキャン】はレベルが上がっても、機能解放オンリーやったのに、今回は新しいアーツを覚えるんですね。一体どんなアーツなんですか?」
「それはだね、こうやって両方の親指と人差し指をカギ括弧状にしてアーツを放つと、その範囲の風景を保存する事が出来るんだよ」
ラクレスは指で「 」の形を作りながら説明する。
「ふむ。これは我々が使うスクリーンショットという能力をアーツ化したみたいですね」
「うむ。君達は【念話】といい【ビジョンスキャン】といい元から持っている能力が狡いよなぁ。っと、愚痴は置いといて、その能力と違いこのアーツでは写した風景を【コピー】系スキルで印刷する事が可能なんだよ」
「おお〜。という事はスクリーンショットと違い、この世界の住民とも切り取った風景を共有できる。その力を使いベビースライムリーダーやレイヤースライムの姿を共有するって訳ですね!」
「その通り、流石に察しがいいな」
スクリーンショットでは、プレイヤー間でしか共有できない問題を解決するアーツの存在とその使い道の豊富さに思わず声が大きくなる。
「ははは、ありがとうございます。図鑑や新聞に載せる事を考えると確かに必須のスキルですね」
「うむ。もし【ビジョンスキャン】を使えるものが居なかった場合、貴重な魔道具を持ち出す必要が出るのでのう。ソーイチ君が覚えてくれてるとありがたいんだが……」
こちらをチラリと見つめるラクレスに、苦笑いしながら自分の状況を話す。
「残念ながら僕の【スキャン】が現在6ですよ。ただ頑張れば明日までに7に上がれるかもしれません。その場合、追加ボーナスは貰えるのでしょうか?」
「そうだな……。出発前に会議室でミーティングを行うので、その時までに上がっていれば大丈夫だ。ただし、渡り人の持つ睡眠ボーナスとやらで上がったものは含まないから、その点は留意してくれたまえ」
「了解です!絶対にスキル上げて見せますから期待していて下さい!」
「あはは、受注前に意気込みとは気が早すぎるな」
「そうでした……。では、積極的に受注する為にも、質問を再開しますね」
「うむ。ドンと来なさい」
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その後は調査隊のメンバー構成から始まり、探索場所に報酬の分配ルールなど細かい所まで質問を重ねたが、ラクレスは嫌な顔一つせず、全て真摯に答えてくれた。
「色々と答えて下さり、ありがとうございます」
「これくらい大した事ないさ。それよりどうかね?」
「ええ。この依頼は僕にメリットが大きすぎるものですし、喜んで受注させて頂きます」
「そうか。引き受けてくれてありがとう」
嬉しそうにラクレスが頷くのを横目に、俺は依頼書にサインを記す。その瞬間、俺は調査員の一員として参加する事になったのだった。
現在仕事が修羅場中(-。-;
次回は多分12月3日(水)午前6時に更新予定です。
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