179.必要な説教と調査隊
「……以上がベビースライムリーダー及び、レイヤースライムの生態や出現条件などの情報になります」
「ああ、ありがとう。長く話して喉も渇いただろう。お茶でも飲んで一息つきたまえ」
「お気遣い感謝致します」
時折頷くギルドマスター相手に長々と話し疲れた俺は、アイスティーを少し飲む。
「まず本題に入る前に一ついいだろうか?」
「はい、なんでしょうか?」
休憩も終わり次の議題に入る前、少し引き締まった顔付きでラクレスが話始める。
「今回の功労者たる君に言うのは忍びないのだが、発見に到るまでの行動。特にインタビューカードからベイビースライムの意図が予想される中、被膜の捕食行動を止めるどころか逆に促進するというのは、些か軽率だったと言わなければならない」
「申し訳ございません、実は仲間からも同じ事を言われました。正直に申しますと、あの時の自分はソロであるにも関わらず、完全に知識欲の奴隷と化していたのだと、今は思います」
フワフワに指摘されて以降、自分でもヤバすぎる行動だったと自覚していたので、その苦言に只々反省するしかない。
「うむ。君の溢れんばかりの知識欲はレイヤースライムの発見などプラスの要素もあるので、一概には間違いとも言えない。だが欲に飲み込まれずにフォローする策は考えなければならないのはわかってくれるかね」
「ええ。もし自分が敗北してしまった場合、あの魔物が野放しになっていたでしょうからね」
「うむ。あの時取れる策といえば、渡り人全員が持っている【念話】の様な力。あれで仲間達の応援を呼びつつ、被膜の捕食ペースを遅らせるなどがあるな」
「本当に仰る通り過ぎて、我が身を恥じるばかりです」
「ソーイチ君には溢れる知識欲に加え、失策を指摘してくれる仲間もいる。今回の行動は初回というのと発見の功績を慮り、これ以上のお説教は無しにしておこう。次からはただ進むのではなく、立ち止まって一考する事も忘れないでくれたまえ」
「はい!!」
一歩間違えば住民や町に被害が及ぶ可能性もあった失策に対し、ラクレスからのある種優しすぎる忠告に、俺は真摯に向かい合い返事をした。
「ふぅ。偉大な発見を讃える前に、お説教をしてしまい済まないね。マスターの立場的に言っておかないと駄目だったんだ」
「いえ。賞賛しかされなかったとしたら、町を守るギルドに対して疑念を持ったかもしれないので、逆に安心しました」
「そう言ってくれると助かるよ。……では前置きはこれまでにして、本題に入ろうか」
「はい、よろしくお願いします」
今回の報告に対してギルドの長がどう考えているのか?それを真剣に聞く為に姿勢を正しメモの準備を行う。
「まず出会いの元となったベビースライムの大群なのだが、本当に50匹以上居たのかね?」
「ええ。経験値から逆算して、間違いありません」
「そうか……。おそらく間引き不足と出現数のバランスが狂った所為だろう。そして私の勘だが同じ様な群れはまだまだ存在するだろう」
「ええ。私もそう思います」
「となると、何かのきっかけでレイヤースライムが別途発生する可能性も出てくる。そう考えるとソーイチ君の戦闘記録は未来の冒険者の命を救ったとも言える。先のお説教と矛盾するが、本当にありがとう」
「ただの結果オーライですよ。それより今後、ギルドとして、レイヤースライムの情報はどう取り扱う予定ですか?」
俺は本題とも言える疑問をラクレスに投げかける。
「そうだな……。レイヤースライムは特殊個体の中では珍しく、発生条件も判明している。ここは再現性があるのか調査する必要があるだろう」
「確かに今回限りのイレギュラーって場合もありますしね。追加の検証は必要でしょう」
「わかってくれるか。それなら……」
俺のデータだけで『はい、この件終わり』となれば、予期せぬ行動などで住民に被害が出る可能性があるし、発見者として責任を感じてしまう。
そんな心を読んだのだろうか?ラクレスは俺の目を見てある提案を出す。それは、
「レイヤースライムの検証の為、明日の午前9時より調査隊を出そうと思うのだが、発見者兼【インタビュー】要員として参加してくれないかね」
ギルドマスター直々の調査隊参加のお誘いであった。
「ええ!?俺が調査隊にですか?」
「ああ。凄腕の冒険者を用意するので、道中の安全や戦闘は任せても大丈夫だ。更に報酬もなるべく多く用意するつもりなのだが、参加してみないか?」
「う〜ん。悩ましいですね……」
護衛付きでベビースライムの群れやレイヤースライムの経験値を稼げそうな依頼に思わず飛びつきたくなるのだが、レイヤースライム発見の時と同じミスをしない様、一旦アイスティーを飲み考えるのだった。
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おそらく次回は12月2日(火)午前6時に更新予定です。
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