178.冒険者ギルドと理性のある鬼
「あら、ソーイチさん。いらっしゃいませ」
「ああ。ちょっと報告したい事があってな。詳しくはコレ見てくれへん」
「こ、これは!?しょ、少々お待ちください!」
ルーカスから託された紹介状を受付嬢に差し出したのだが、その効力は絶大だった。彼女は紹介状を片手にすごい速さで奥へと引っ込んだ。
「ええ〜……」
「……あちらの受付嬢がソーイチさんを待たせたまま奥に引っ込んでしまい、本当に申し訳ございません!あの様子だとしばらく時間が掛かるかもしれませんので、待合室でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、カウンターの前陣取るとか、邪魔になるもんな。オーケー、その部屋で待たせて貰うわ」
慌てて奥に引っ込んだ受付嬢に置いて行かれた俺は、カウンターの前に1人残されて呆然と立ち尽くしていると、申し訳なさそうな顔をした他の職員から謝罪を受け、その後待合室へと案内をされる。
「スゴい焦りっぷりやったね」
「ええ。ルーカス様からの紹介状は中々ない為混乱してしまったのかもしれません。お詫びとなるかわかりませんが、どうぞこちらをお召し上がり下さい」
「お気遣いありがとうございます」
そう言って退室する職員を見送った後、お茶とお菓子(クッキーの様なもの)を食べながら1人思想に耽ける。
(このクッキー、素朴な甘さで美味いな……。って、あっ!そういえば今日の14時からお菓子持参でフレンに会いに行くってアポ取ってたやん!バタバタしてたからすっかり忘れてた!)
頬張った菓子の甘さが脳髄に染みた事で、2日前に取材した際、次の来訪を約束していた事を思い出す。
(今の時間は……12時過ぎか。まだ2時間弱あるけど手土産がない!流石にラッピング無しの果実はあかんよな……。う〜ん、無駄になるかもしれんけど、用意だけお願いしとくか)
そう考えた俺はユサタクにコールを入れ、現状の報告と差し入れの準備を要請しておいた。
(ふぅ。とりあえず行動だけはした。後は流れに身を任せるか)
報告前から気疲れした俺は椅子に深く腰掛け、ギルド職員が呼びにくるのを待ち続けた。
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「ソーイチさん、お待たせしました。例の報告の件について準備が整いました」
「ああ、フレン。今回は取り持ってくれてありがとう。すぐに向かうわ」
「ええ。ではご案内します」
機密になるのか少しぼやかした内容で呼び出しに来たのは、目下俺を悩ませるフレンだった。俺は先ほどまでのドタバタは一切顔に出さず召集に応じ、フレンの後を着いて行く。
コンコンコンコン
「ソーイチ様をお呼びしました」
「ああ。入って貰ってくれ」
今まで入ったどの部屋よりも奥にある部屋に案内された俺は、勧められるままに入室する。
「では、そちらの椅子に座ってくれ。フレン君もありがとう。業務に戻ってくれたまえ」
「はい。それでは失礼します」
その言葉に頭をぺこりと下げ、退出するフレン。俺も勧めに従い席に座りながら、部屋の主に視線を向けた。
(こりゃ思った以上に大物っぽいな。質の良さそうな服着てるし、それに……)
大きなデスクに座るのは、おそらく50代半ばの男性。彼の装いはフォーマルで洗練されているが、それでも鍛えられた身体だと察せられるほどの体格をしていた。
(キチっとしてるのに圧がスゴいな。まるで理性のある鬼って感じのキャラしてるわ)
内心とてつもなく失礼な評価をしていると、彼は机に向けていた顔を上げ話し始める。
「待たせてすまないな」
「いえ、お忙しい中お時間を取ってくださりありがとうございます」
「ルーカスの紹介状を読んだら、忙しいとは言えないさ。それよりも、はじめまして。俺の名前はラクレス。冒険者ギルドのギルドマスターを任されている者だ」
「はじめまして、渡り人のソーイチと言います。まさかトップとの対談になるとは思いませんでした。お会いできて光栄です」
思わぬ大物に驚く心を隠しながら、慣れない敬語で応対する。
「はは、今ギルドで一番暇してるのが俺だっただけだ。それより未発見の魔物の発見や出現等の情報を持ってきたとの話だが……」
「ええ。2体の魔物の内、特にレイヤースライムの情報は一刻も早く報告した方がいいと考え、本日伺った次第でございます」
「ふむ。魔素流入開始や大討伐に加えて、アースの町解放と予定が濁流の様に流れる中、未知の魔物の詳細な情報は金貨よりも貴重だ。とりあえず出会いから順番に話して貰えるか?」
「わかりました。ではベビースライムの大きな群れを発見した所から……」
俺は本日3度目となる、レイヤースライムに関連する情報を順を追って話し始めた。
明日から6連勤が決まり、毎日投稿が途切れるかもです(-。-;とりあえず、次回は12月1日(月)午前6時に更新予定です。
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