171.群れとの闘いと特殊個体
※計算ミスが発覚しましたので、一部のレベルアップ描写を変更致しました。(25/11/23)
「やっ!ほっ!はっ!見える!見えるぞ!」
飛び掛かってくるスライム集団から紙一重で避けながら、アニメ染みたセリフを言う。
「グッ!もう多いわ!こうなったらグルグル作戦や!」
とはいえ多勢に無勢な現実は変わらない。少しずつ被弾が増えてきたので一度に相手をする数を減らすべく、集団の外側を円を描くように移動し突出してきた敵を一体ずつソルトボールで削っていく。
「はぁっはぁっ。しんどい!思ってたよりキツい!誰や50匹オーバーの敵と戦うって言った奴は!って俺やないかい!」
息を弾ませながら時には避け、時には逃げ出しながらも、1人漫才風の愚痴を吐く。
ー見習い付与魔術師のレベルが8に上がりましたー
ー記者のレベルが6に上がりましたー
ー見習い付与魔術師のレベルが9に上がりましたー
ーソーイチのレベルが15に上がりましたー
ー記者のレベルが7に上がりましたー
群れの総数が減っていく中、レベルアップを知らせる通知が止まらない。
(このペースヤバいな。こんなにサクサク上がるとか、今までやってきたレベル上げってなんやったんや?)
ベビースライムの群れとの遭遇というイレギュラーとはいえ1〜2日分の経験値が10分程度で稼げている事実に驚く。
ースキル【心眼(序)】のレベルが5に上がりましたー
しかもアーツでしか上がらないと思っていた【心眼(序)】まで上がったのだ。
「もしかして通常攻撃やアイテムの投擲も回数に含まれてる?じゃあ、めっちゃデカくした的を用意してボール投げまくったら、MPとか無しで覚えるかも?って痛っ!人が考えてる最中は攻撃辞め〜や!」
【心眼(序)】習得の新たな可能性に意識が向くも、その隙に数匹からボコられてしまう。俺は一旦群れから離れポーションで回復する。そんなハプニングも度々あったが1匹ずつ討伐を重ねる。
ー見習い付与魔術師のレベルが上限に達しましたー
その結果、待ちに待った見習い卒業のアナウンスが流れた。
「ゼェ〜ハァ〜。祝見習い卒業!!群れもほとんど消し飛んだし、ここからは消化試合やな。……って、あれ?」
ここまで多くのベビースライム達を撃破したおかげで【見習い付与魔術師】はレベルの上限を迎えた。そして8割近くの敵を倒した事で、数の暴力に任せた猛攻も収まる。ようやく周囲を見渡す余裕が出来た俺は、ふと周りの異変に気付く。
「なんかドロップ少なくね?確定ドロップの筈やのに殆ど落ちてへんやん」
ベビースライムをソルトボールで倒した場合、スライムの被膜が確定でドロップする筈なのだが、討伐数の半分もフィールドに落ちていないのだ。
俺は襲いかかるベビースライム達をカウンターで処理しながら周囲を観察すると、1匹のベビースライムの異常な行動に気付く。
「うわっマジか。あいつ仲間のドロップ喰いまくっとる……」
他のベビースライム達は突撃からの討ち死に続けている中、我関せずと仲間のドロップアイテムを食べ続ける魔物が1匹。俺はその規格外な存在に対して、群れに出会った時と同様の興奮を覚えた。
「これ明らかに特殊個体やろ……。こんなん絶対に色々と取材させて貰わなあかんやろ」
俺は残ったベビースライム達をパパッと討伐。邪魔者がいなくなった状態で特殊個体の観察を腰を据えて始めた。
「まずはスクリーンショットで記録。うん、敵対状態にならんな。次は見た目の確認やけど大きさ・形は同じ。色はモノクロで違いはわからんなぁ。確認するには心眼切るしかないねんけど……でもなぁ〜……。ハァ〜、さっきレベル上がった事やし一瞬オフにするか」
少しの間葛藤したが、結局は好奇心に負け【心眼(序)】をオフにしてサングラスも外す。
「って違いがわからん!なんで俺は見比べる用に1匹残さんかったんや!?」
だが元の色を薄っすらとしか覚えていなかった為、大きくは違わないとしかわからなかった。俺は半泣きになりながら、再び【心眼(序)】をオンにする。
「ハァ〜。変化わからんし見た目のアプローチは終了!次は【インタビュー】で名前や情報のチェックやけど、さすがに戦闘する事になるよな……」
俺は全てのバフを掛け直した後、特殊個体に対して【インタビュー】を放つ。しかし一瞬こちらに反応しただけで敵対状態にはならず、再びドロップアイテムを食べる作業に戻っていった。
「こいつマジか。アーツ食らってもガン無視で食べ続けるとか、どこまで食いしん坊やねん」
あまりに無関心振りに驚きながらもインタビューの結果を確認する。
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ベビースライムリーダー
大きな群れが生まれた際、集団の中で一番慎重な個体がベビースライムリーダーに進化する。
この個体は仲間がどれほど討伐されようと、生存の為に行動し続ける。
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「呑気に仲間のドロップ喰い続けてるクセに、こいつリーダーなんか!?意外すぎるけど説明を読んだかんじ、仲間のドロップ喰うのが逆転の一手になるって事なんか?」
インタビュー結果を読み込んでいると、通常個体から進化した存在だと知る。さらに無意味のように思える暴食行動も、生き延びる為の戦略のようだ。
「よし!メチャ強キャラに進化してしまうかもやけど、俺も男や。一体こいつがどう変わるのか見届けたるから、ドンドン喰うんやぞ」
自分のデスペナをチップに観察する事を決意した俺は、散らばったスライムの被膜を集め食べやすいようにベビースライムリーダーの前に差し出す。
「50個以上もドロップ食わせたんや。なんも無しだけはマジでやめてくれよ」
祈るように見守っている間にもベビースライムリーダーは黙々と食べ進めていく。そして遂に最後の1個を食べ終えた、まさにその時!
ビギュアアアア!ビギャア!
低く唸るような声を上げ、ベビースライムリーダーは光り輝いた!
「さて鬼が出るか蛇が出るか、お手並み拝見やで」
俺は戦闘に備えてポーションを飲みながら眺めていると、だんだんと光は薄くなっていく。
ビギュアアアア!!!!
高らかに叫び声を上げて現れたのは、数倍にも膨れ上がった透明な肉体と、玉ねぎの断面のように無数の層になった中身が透けている、見た事のないスライムであった。
次回は11月23日(日)午前6時に更新予定です。
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