167.1人のファンと大勢のファン
依頼を受注し、さてアマネの元へ要約新聞を届けに向かおうかと思い外へ通じるドアを開けると、1人の女性プレイヤーが小さな紙を大事そうに持ちながら、ノア・タイムスの入り口に佇んでいた。
(ジョブギルドならともかく、ここで開店待ちって珍しいな)
不思議に思い眺めていると、その視線を感じたのか顔を上げ俺と目が合う。
すると、驚きと歓喜が入り混じった表情で彼女はこちらに駆け寄ってきた。
「あ、あの。もしかしてソーイチさんですか!?」
「お、おう。そうやけど」
モノクロ状態でもわかる、キラキラとした瞳で話しかけてくる姿に圧を感じるも、なんとか返答する。
「わ、私、ソーイチさんの大ファンで、でも昨日目の前で売り切れちゃって超ショックで……それでも整理券は1番を貰って、それでもすぐにでも貰えるように並んでたんです!」
「そ、そうか……」
興奮のあまり、すごい早口で思いつくがままに話し続ける彼女の支離滅裂な言葉をまとめると、
『昨日、目の前で新聞が売り切れた俺のファンが、少しでも早く手に入れるために開店するのを待っていた』
という事になるのだろう。
「俺の記事のために色々と頑張ってくれてありがとう」
「い、いえ……。あっ!サングラス似合ってます!」
「ありがとう。このサングラスなんやけど実は……」
「クランの企画なんですよね!【ユーザータクティクス】のホームページで見ました!」
「あ〜。じゃあもしかして、そこに載ってるグラビアも?」
「もちろん!最高でした」
アバターでの撮影だったとはいえ、自分の写真について、可愛い女性から鼻息を荒げながら最高と言われるのは少し思うところもある。だが、それ以上に『好き』と言う気持ちがヒシヒシと伝わってくる喜びの方が遥かに大きかった。
「あぅ、すいません。自分ばっかり話し続けて」
「いや。作家仕事ってファンとの触れ合いあまりないし、君のダイレクトな気持ち超嬉しいわ。ファンでいてくれてありがとうな」
「ソ、ソーイチさん」
その言葉がダイレクトヒットしたのか、うるうるとした瞳でこちらを見つめて来た。
「しまった。ウチの露店に届け物あるんやった」
「ああ、今日の分の要約新聞ですね!私が行くまでに残ってるといいんですが」
「あ、それなら」
俺は紙を取り出し【コピー】を1枚、呆けた顔で見守る彼女へ差し出す。
「え、ええ???」
「はい、今日の要約新聞。昨日めっちゃ残念な思いしたって言ってたし、特別にプレゼントや」
「え、ええ?あっ、お金払います!」
「別にええよ」
「で、でも……」
純粋なファンサービスのつもりなのだが、彼女的には急展開過ぎて困惑しているようだ。
「1枚くらい大丈夫!でも怒られるかもしれんし、他の事はええけどプレゼントした事は誰にも話したらあかんで」
「は、はい!絶対言いません」
「そかそか。じゃあ、もう行くわ」
「い、いってらっしゃい!」
未だ夢見心地の彼女の視線を背に受けて、俺はアマネの元へ向かった。
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「うわぁ、思ったより人多いな!」
いつもウチが露店を開いている場所に到着したのだが、想像していたより多くのプレイヤーで溢れていた。まぁ、その集団も俺が姿を現すとピシッと整列し道を開けてくれたのだが。
(視線ビンビン感じる。やっぱ並んでんのって、ファンの人達なんかな?)
考えてみれば、俺の初記事が載っている昨日の要約新聞を買いに来たと言うことは、この列を並ぶ大半は俺のファンという事になる。
(というか、俺のファン数って数字の上では知ってたけど、改めて生の行列見るとめっちゃ感動するな)
静かではあるのだが、熱気を感じるファンからの視線を一心に浴び、自分の作品をここまで愛してくれていたのかと胸が熱くなる。
「みんな朝早くからありがとう。すぐに店開けるようにするから、期待して待っててな」
「「「は〜い」」」
少しでも感謝の気持ちを伝えたくて、列の横を通る際に軽く手を振りながら一言告げてアマネの元まで歩いて行った。
「お待たせ」
「いえ、大丈夫です。それより大人気ですね」
「ああ。こんなに集まるとは、ホンマありがたいわ」
2日分の要約新聞を手渡し、開店準備を手伝いながら少し雑談。
「この人数やと新聞足らんかもしれへんな。よかったら開店宣言と部数の発表を俺からしよか?」
「その方が彼女たちも喜ぶかもしれませんね。……では、準備できましたのでお願いします」
「オーケー」
準備万端、開店の掛け声を放つために列へ向き合う。
「お待たせしました。只今よりオープンです。メインの要約新聞は本日分100部、昨日分は200部用意してるで。他にも良いアイテムがぎょ〜さんあるから、是非是非買ってってや」
「「「「わぁあああああ!!」」」」
その宣言と同時に列から歓声が湧き上がり、この日の【ユーザータクティクス】の露店販売は開始されたのだった。
次回は11月19日(水)午前6時に更新予定です。
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