158.実験切り上げと新たな実験

『ユサタク、ヤバイことに気づいた！』

『どうした？今度こそトラブルか？』

『ああ！暇つぶし出来なくなってる！』

『……うん？』

地獄から逃れるために、ちょうど集計作業が終わったユサタクにヘルプコールを送る。

『暇つぶしって、どういう事だ』

『いや心眼発動中ってサブビジョン映らへんやん？つまりサブスク見れへん訳。という事は残り時間、俺はこの拷問椅子に縛られた状態でモノクロで歪んだ農地を眺め続ける事になるんよ』

『うわぁ、キッツ〜……』

はじめは頭にはてなマークが浮かんでいたが、詳しく説明していくにつれ理解したのかげんなりとした感想が返ってくる。

『そう、キツいねん！少しの時間やったら経験のためにするのも悪くないけど、10時間やで！？そんな長時間やったら狂うっちゅうねん』

『この実験ってサブスクでの暇つぶしが大前提だもんな』

『せやろ？というわけで、ユサタク。他のメンバー使って演劇でもやってや』

『なんでだよ！？耳栓と視力落ちた状態じゃ碌に楽しめないだろ？』

『じゃ、じゃあチャップリンみたいなサイレント系でなんとか……』

『引きこもりのゲーマーにそんな特技を期待するなよ……』

『あかんか〜。面白そうやと思ったのになぁ』

サイレント劇は面白そうだと思ったのに、やはり難しいのかと残念に思う。

『う〜ん。協力してくれたメンバーには悪いが、ここで実験終了にするか？』

『えっ、それアリなん？』

『だって心眼さえあれば、【瞑想】のレベルなんて自動で上がるだろ？だから【瞑想】強化実験の目的は達成済み、これ以上やる意味無いんだよ』

『たしかに……』

『だから実験はここで切り上げる。そして新しく【心眼(序)】の取得条件の検証をした方が効率的にも良いだろう』

『なるほど。俺は農地を10時間見続ける拷問から解放されて、メンバー達は【心眼(序)】ゲットで強化ってわけか。ええやん！もう終わりにしよ』

『よし、じゃあみんなに伝えてくるから、少しだけ灰色の世界を満喫しててくれ』

クランコールで説明作業をするユサタクを横目に、言われた通りこのモノクロな農地を満喫する。

少し経つとユサタクとゼロが近寄って来て、耳栓や拘束具を外してくれた。

ソーイチ：ふぅ、封印解除ってか。

ユサタク：バトル物なら特殊BGMが流れるシーンだな。

ゼロ：馬鹿なこと言ってないで、終わりの挨拶お願いしますよ。

ユサタク：そうだな。みんな、集まってくれ。

そのコールでユサタクの前に集まるクランメンバー達。

ユサタク：ええ〜、この度ソーイチの新スキル発現したことで、【瞑想】レベルアップの実験は一定の成果が出たと言えるだろう。よって時間はまだ10時間程余っているが、今回の実験は終了する」

ソーイチ：みんな協力してくれてありがとう！

パチパチパチ！！

外部に情報が漏れない様にクランコールで行われた閉会宣言。それを聞いた他メンバーから大きな拍手が巻き起こる。

ユサタク：はい、拍手ストップ！次の案件があるから、話を聞いてくれ。

ユサタク：……静まったようだな。

ユサタク：では、これからの予定を説明する。

ユサタク：実験が終わり疲れていると思うが、次はスキル取得と検証を兼ねた、【心眼(序）】についての実験をしようと思う。

ユサタク：先程サポートチームに頼んだ結果、補助効果なしだが3脚のキャスター付き椅子を用意できた。定員3名、誰が参加するべきか相談して決めてくれ。

その発言にウンウン考えるメンバー達。その中で最初に発言したのはフワフワである。

フワフワ：まず前提として町中でのMP・STの消費が可能なメンバーに限られますし、それに当てはまるメンバーをリストアップするのは如何でしょう？

ソーイチ：そうやな。STは全員農家ジョブついてるから置いといて、MPだけに絞れるな。

ゼロ：では付与魔術師であるフワフワとリーダーは確定でいいでしょう。

ソーイチ：あれ、4職目【見習い付与魔術師】にしてたんや。

ユサタク：ああ。実験の集計で今日一日は町中に籠るつもりだったし、町中でレベル上げできる様に選んだんだ。

ソーイチ：なるほどな。って、ごめん。話続けて。

ついつい余計な質問をしてしまった事に気づき、さっと引き下がる。

ベイクドモチョチョ：残り1名、どうします？残りは生産系ジョブの持ち主からだと思いますが、結構いますよね。

ミコト：あっ！そういえば【種化】があるじゃないですか！あれならジョブを入れ替えずにMPも消費できますよ！

ソーイチ：そういえば、そんなスキルあったな。全然使わんからすっかり忘れてたわ。

ユサタク：【農家】はSTしか消費できないという固定概念のせいで盲点だったな。よし！【種化】スキルを所持してる者は手を上げてくれ。

「「「「はい！」」」」

その問いかけに半分くらい手が上がる。

その後は各々のステータスを確認、現在の残りMP・STや、キャラレベルが上がるまでの経験値量などから絞っていく。

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ユサタク：それでは【心眼(序）】取得実験のメンバーは、俺・フワフワ・ミコトの3名に決まった。残りのメンバー達はターン毎の集計や移動など、諸々の協力をよろしく頼む！

こうして熟慮の結果、この3人が選出され新しい実験が開始されたのだった。