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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・49

 目の前に立つ主神ゼオに、死の化身は怖気づくことなく向かい合う。

「……娘が、世話になった」

 ゼオは知っている。婿ザーフが死ぬと同時に、死の化身が娘レオナに『死』を与えたことを。

 そうでもしなければ神のカケラが『死ぬ』わけがないからだ。

 ゼオは知っている。

 娘は婿と一緒に世を去ることを選んだ。女神のカケラであるレオナは、下界を去ることによって天上の本体、実りの女神ディオレナと合一した。

 人の世界で暮らしたレオナという存在は、その瞬間に『死』んだのだ。

「礼を言われる筋合いはない。私は親友夫婦の望みをかなえた。それだけだ」

 以前、親友夫婦に問いかけたことがある。

 その問いに、彼らは迷わず答えた。

 だから、死の化身は応えた。


 ただ、それだけ。

 ――それだけが、無性に寂しい。数多あまたの死を与えてきた死の化身でも、そう思う。

「だが……寂しいな」

「そうか。死の化身のそなたでも、そう思ってくれるか。ならば、婿と娘は果報者だ。まごうことなく幸せな一生を過ごしたということだ」

 ゼオはどこか悲しげに笑う。死の化身は同じ思いをしているだろう天上の神々へと想いを向ける。

「……エニフィーユどのは?」

「妻は天上だ。降りては来ぬよ。天気を見れば分かるだろう」

 今にも雨が降りそうな空。晴れ間はどこにもない。悲しみだけが色濃く空にとどまっているように。 

 雨にはならぬのは、母神が泣くことをこらえているためか。

「いずれ、エクトも天上に戻る。子も孫も心配要らぬほどに成長したのでな」

「そうか。地上から神の気配が薄くなるな」

「今までが異常だったのだ。婿と娘の周りに神の気配が多すぎた」

 苦笑するゼオは、自覚していたようだった。

 娘だけでなく、娘を幸せにしようと努力する婿も、可愛くて仕方なかったのだと。そうして、婿と一緒に幸せに過ごす娘を、神々の誰もが応援していたのだ。

「幸せな夫婦だったな」

「それは間違いない。見ていて、本当に和む夫婦だった」


「……義理の息子を失うというのも、わりとこたえるものだな」

 残念だと言いたげに、ゼオは言う。

「そうか。そうだろうな……」

 死の化身も同意する。愛娘の婿候補が遥か彼方に飛ばされたことを思うと、今のゼオに似た気持ちになる。

「寂しいな」

「うむ」

 頷き合う彼らの前に――稲光が炸裂する。

「お、うむ? どうした、妻よ――お?」

 ゼオが眉を寄せる。母神・エニフィーユは一人ではなかった。威厳ある母神の横に、華奢な姿が、ある。

「おや、ディオレナ」

 死の化身が、親友の名を呼ぶ。

「お久しぶり……というのもおかしいわね。私のカケラがずっとそばにいたのだもの」

 実りの女神・ディオレナが穏やかに微笑んだ。


クライマックス・神様サイド。

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