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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・48

 葬送の鐘が鳴る。村長は教会を見上げる。屋根の向こうは晴れた空だ。雲ひとつない。ああ、でも、きっと晴れていて良いのだ。彼らは悲しみを望まないだろうから。


 今回は、村一番に仲睦まじかった夫婦の葬儀。夫が世を去った後、妻もその手を握ったままこと切れた夫婦。


 若いころに、おそらくはどこかから逃げてきて、ようやくこの村に落ち着いた夫婦。

 村の誰もがあの夫婦に訳があるのだろうと感付きながらも、そっと見守っていた夫婦。

 やがて、妻の家族らがこの村を訪れたが、無理に連れ戻すこともなかったから、村の人たちも危ぶむことなく、夫婦を受け入れた。

 多分、結婚を反対されていたのだろうなぁ、と、そのころまだ村長の息子だった男は思っていた。若さゆえにカケオチしてきたのだろう、と。

 夫は冒険者らしかったし、妻はおっとりしていたから、どこか良家のお嬢様だったのかもしれない。冒険者と良家のお嬢様なら、交際を反対されても無理はない。しかし、二人は仲間の手も借りて愛を貫き通したのだ。よく、夫の仲間らしき人たちも村を訪れていた。とても、仲が良さそうだった。

 妻の家族からも認められたらしく、夫婦はそのままこの村に居ついてくれた。

 良く働き、村の人たちともすぐになじんで……やがて子供ができて、その子供たちが大きくなり、孫もできて、村はますますにぎやかになり。

「……さびしいねぇ」

 それでも、やはり、いつも仲の良かった彼らがこの村からいなくなるのは、寂しくて悲しい。

 晴れた空の下、村長は素直につぶやいた。


「あなたが看取ってくれたのか」

「ああ、私には死期が分かっていたからな」

 ヘレンの言葉に、隣家の奥さんはうなずいた。彼女が死の化身だと知っているヘレンは驚かない。

 喪服のまま、苦笑した。

「苦しまなかったか?」

「それはもちろん。綺麗な老衰だ」

「そうか。運のいい男だ」

 言って、大きく息をつく。

「私より先に逝くとは……パーティーリーダーが真っ先に逝去するとはどういうことだ。一番早死にしそうなレコダや、常に胃痛もちのエッセがまだなんとか生きているというのに」

 どこか憮然としているヘレンの言葉に、死の化身は苦笑する。

「仕方がない。寿命というのはどうにもできん」

「人間には、だろう?」

 暗に、死の化身にならば融通ができたのではないかと言われていると感じ、隣の奥さんは首を振る。

「それを、望む夫婦ではないよ」

「ああ、まぁ、そうだな……」

 そういうズルをしたがらないザーフと、そんなザーフを愛しているレオナだ。確かに、望まなかっただろう。ごく普通にすごし、ごく自然に時が来たことを受け入れたのだろう。

 柩の中の彼らは、とても穏やかな表情で眠っているかのようだったから。


「レオナ様のご遺体はザーフと一緒にこの村の墓地へ」

「いいのかの、エッセ? 神のカケラのご遺体は、ある意味お宝じゃろ? 神殿にとっては特に」

 レコダが言うと、エッセは苦笑した。

「確かにその通りですよ。レオナ様のご遺体は土に還ったりもしないでしょう。奇跡も起こすかもしれない。でも、だからこそ、この村で、ザーフの隣で眠らせてあげたいんですよ」

 神の使いとしてではなく、彼らの友人として、仲間として。

 静かに――愛する人と眠らせてあげたいのだ。

「そうか。そうじゃな」

 レコダはあっさりとうなずき、エッセもそれ以上何も言わなかった。


 葬送の鐘が鳴る。

 静かに、ゆっくりと、人々の優しい想いを乗せて。


 優しい夫婦だったから、きっと悲しみは望まない。

 だから、できるなら笑顔で送りたい。

 ただ――少しだけ、寂しさを感じることだけを許してほしい……。

クライマックス・村の人たち&仲間編。

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