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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・44

こ、こっちの更新を忘れておりました……!(滝汗)

「離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる」

 さきほどからずっとそうつぶやいている姉神ユユノの横で、妹神ミミユが乾いた笑みを浮かべているのは、仕方のないことだろう。

 ユユノが想いを寄せていた相手、太古の魔王ニドヘグが、なんと普通の人間と結婚してしまったのだから。

「お茶、飲みます?」

「いただけたら嬉しいのね~、ごめんなのよ。おねーちゃんがこんなんで」

「いえ、いいんですよ」

 失恋したユユノを連れ戻すために降臨したミミユも、どことなく疲れている様子。

 まぁ、ここ数か月恋愛だけでなく結婚まで司っていたので、大変だったのだろう。だが、これでユユノが天界に戻って、元の仕事に戻るのならば、ミミユも恋愛の神様に戻る。


 と、思ったのだが。


「離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる離婚の神様になってやる」


 結婚の神様、ちょっと発狂気味。

 さきほどから虚ろな目でそれしか言ってない。正直、怖い。ザーフはお茶を出しながら、小声でミミユに話しかけてみた。

「……ミミユ様?」

「はいなのね」

「……離婚の神様って」

「いるのよ? ちゃんと」

 いるのか。ザーフは神様関係に疎いので良く知らなかった。物事の分だけ神様がいる、というのは仲間の神官エッセや、妻のレオナから聞いてはいる。頭には入っていなかったけれども。

「いるんですね……で、ユユノ様がなれたりとかは」

「しないと思うのね。というか、無理なのよ。おねーちゃんはそもそもラブラブカップルを作るのが好きで、それで結婚の神様になったのね。いまさらニドヘグを離婚させるために離婚の神様になんてなれっこないのよ」

 人の幸せな結婚を見るのが好きな神様のようだ。それがどうしてこうなったのだろうという状態である。

「人の幸せを作るのが好きなのよ。別れさせるのは好きじゃないのね。そういうのが好きな神はもういるし」

 いるのか。いや、いるから離婚の神様なんてもんが存在するのだろう。おそろしい。


「ミミユ、ユユノ、ケーキを焼いたのだけど、食べる?」

 と、レオナがケーキを持ってきた。ミミユが目を輝かせる。

「いただくのね~、嬉しいのよ~」

 ユユノはまだ虚空を見つめて呟いている。いつからこの状態なのだろうと心配になってきたザーフだ。

「……ユユノ様? 大丈夫ですか?」

 声をかけると、ぐりん! と勢いよくこちらを向いた。怖い。

「男なんてみんなそういうもんなの!?」

「え」

「既成事実作って結婚しちゃえばこっちのもんだとかおもってんでしょ!?」

「いえあの」

「心の底から女のことなんて心配してないくせにー!!」

「ええええ」

 結婚の神様としてはものすごい問題発言である。どうした結婚の神。

「神様だって幸せになりたいのよ!! 好きな相手と一緒に居たいのよ! 何が悪いの!! あたしだって幸せになりたかったのよー!!」

 胸倉掴まれてがっくんがっくんゆさぶられた。見た目は小柄な女性なのに力は結構強い。ぐらんぐらん揺らされて、ザーフは船酔いってこんな気分なのだろうかと思った。

「ゆゆゆゆゆユユノ様」

「あんな男のどこが良いのよ!? ニドヘグのばかぁああああ!! 神様になって一緒に天界でのほほんと暮らそうって千五百年前から言っているのにぃいいい!! どおして一緒に幸せになってくれないのよぉおおお!!」


 暗転。


 ※※※


 ユユノの暴走は、ザーフが意識を飛ばしたところで、レオナの投げたティーソーサーがユユノの後頭部に直撃して収まった――というよりは、収めた。

「ユユノ」

「痛い……」

 目を回しているザーフにひざまくらをして、レオナは背後に炎を燃やしている。

「私の旦那に八つ当たりしないでちょうだいね」

「ご、ごめんね」

「私じゃなくて、ザーフに謝ってね。あとで。ちゃんと!」

「はい」

 しゅんとするユユノに、ミミユが苦笑いする。

「おねーちゃん」

「なによ」

「レオナの前でいうと、失礼なのよ」

「何が」

「男の人がどうのこうのってお話ね」

 ずず、と、お茶を飲み、また笑う。

「レオナの旦那さん、レオナが神様でも構わないって結婚した人なのね。おねーちゃんだって喜んで祝福してたのよ」

 にこにこと、嬉しそうに。

「神様の幸せを、願ってくれる人なのね。一緒に幸せになろうって言って、しかも実行している人なのよ。貴重なのね」

 微笑む妹神に、姉神も苦笑する。

「そうね。ごめんね、レオナ。私たちに幸せになりたいって願って祈る人は多いけど、神様の幸せを祈ってくれる人なんて一握りだもの。あなたの旦那様、素敵よ」

 素直にレオナに謝って微笑み――結婚の神様は教会のほうへ視線を向けた。

「……あいつ……レオナの旦那みたいな良い人なら問題ないけど……ニドヘグを泣かせたらとんでもない思いをさせてやる……」

 いまいちまだ想いを昇華させられないらしいユユノである。


「とりあえず、離婚の神様を目指すのは止めてあげてね。ミミユが過労で死んじゃうわ」

「…………うん。ノッコス(=離婚の神様)に泣きつくだけにしておく」

「本気で離婚させそうだから、それは止めたらいいと思うのよ、おねーちゃん……」


 ※※※


 気が付いたら、嫁の膝の上だった。ミミユもユユノも姿が見えない。

「あれ?」

「大丈夫? あなた」

 と、嫁が心配そうにこちらを見下ろしている。

「お、あ、大丈夫。あれ?」

「振り回され過ぎて目を回したのよ……ごめんなさいね、ユユノも謝ってたわ。迎えが来たから、あなたの目が覚める前に天界にもどっちゃったの。そのうちお詫びの品でも送るって言ってたわ」

「別に気にしなくていいのに……いやぁ、俺も年取ったなぁ。あのくらいで目を回すなんて」

 言いながら起き上る。少しくらっとしたが、それだけだ。もうなんともない。

「ユユノ様は大丈夫そうだったか?」

 あのままの状態で戻ったのなら、本気で離婚の神様になりかねないと心配するザーフに、レオナは微笑んだ。

「大丈夫よ」

 あなたのおかげでね、と続けられた言葉に、ザーフは意味が分からず首をひねるだけだった。

のほほん夫婦、最強。更新しないですみませんでしたー!!

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