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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・37

 義弟・エクトが遊びに来た。

 姉であるレオナ(=実りの神ディオレナ)と同じように、かけらが下界に降臨しっぱなしな夜の神。

 妻とは円満で、孫までできて、祖父生活を満喫している仲間である。

「末の孫がただれた女性関係を形成していると聞いたが本当か? 本当に姉上と貴様の孫なのか? 姉上一筋の貴様の血を引いていると思えないぞ」

 茶を手に真顔で言う話ではない。ザーフは渋い顔を作った。

「……それ、どこ情報なんだ?」

「決まっている。天界だ」

 相変わらず、ザーフの家庭状況は天界での楽しみになっているらしい。魔王の件が落ち着いたので、神々、またもやヒマになったようである。ほかにやることはないのかと、小一時間は問いただしたい。

「ミミユ様か?」

「それもある。が、それだけでもない。知っているだろう」

「うん、知ってるけどな……」

 知っているけれど聞きたくない。分かっているけれども思い知らされたくない。微妙な爺心である。

「あと、別にただれてない。ミミユ様の加護で異常にモテているだけで、孫本人は自覚してないからな。女性と深いお付き合いをするほどの意識はまだない」

 とのザーフのフォローを、エクトは一刀両断した。

「甲斐性なしか。ますます貴様の孫と思えんが」

「いや……甲斐性なしってわけでもないと思うが」

 エクトも孫を持ったせいか、ザーフに対する態度はかなり丸くなっている。レオナと一途に添い遂げようとしているところは認めてくれたようだ。

 認められるまで三十年ほどかかったが。


「……孫のただれた女性関係に困っているのなら、婚約者でも決めてやったらどうだ?」

「だからただれてないって。婚約者?」

「うむ」

 エクトは茶菓子に手を伸ばし、一つを咀嚼して飲み下してからまた口を開いた。

「決まった相手がいないから、女性に囲まれているのだろう。ならば、決まった相手をあてがってやればいい」

「……まぁ、それも一つの案かもしれないなぁ……でも、誰を婚約者として指名すればいいのか」

 候補者が多いだけに困る。この小さな村の中だけ候補者はすでに三人……四人、五人?

 隣家の幼女まで入れたら五人。入れたらダメな気もする。幼女は駄目だろう。幼女は。将来性を見越してもアウトな気がする。主に、年齢の差で。

「うちの孫はどうだ」

 義弟はしれっと言い切った。

「年ごろの孫がいるぞ。僕が言うのもなんだが、可愛らしい。文句の付けどころがないくらいに可愛い娘だ」

「……ああ。うん。可愛いんだろうな。でもな、エクト。それ絶対身内びいきも入ってるから」

「なんだと? 僕は身びいきなどしないぞ。客観的に言ってうちの孫娘は可愛いんだ」

 いや絶対身内びいきだ。ザーフは確信している。だって義弟はスジガネ入りのシスコンだ。甥っ子姪っ子も可愛がってくれているくらいの身内びいきだ。ザーフとレオナの孫に至るまで可愛がってくれている。ありがたいが、完璧に身内びいきだ。

「まぁな。俺もさ、エクトの孫なんだから可愛いと思うよ。絶対可愛いと思う」

 が、身内びいきでは負けていないと自負できるザーフである。

 俺の子供はかわいい。孫だって可愛い。義弟の子供だって可愛いのだから、孫だって当然可愛いだろう。何言ってんの今更。当たり前だろうが――と、本気で思えるくらいには、義弟のことだって好きなのだ。

 愛する妻の弟である。どんだけイビられようが嫌いなわけがない。


「そうだろうそうだろう。うちの孫娘は可愛いんだ。まだ悪い虫がつかないうちに相手が決まるのなら言うことはない。それが姉上と貴様の孫ならなおさらだ。身元がしっかりしているからな」

「そうだなぁ……それもテだなぁ……あの子がどう思うか聞いてみようか。孫に好きな娘ができるのが一番いいんだがなぁ」

 好きな相手がいて、その相手と結ばれるのが一番良い。愛しているレオナと駆け落ちしたザーフは心底からそう思う。愛した女性と紆余曲折がありながらも結ばれたエクトも同じ気持らしい。もう一つ茶菓子を平らげてから訊いてきた。

「孫には初恋の相手とかいないのか?」

「うーん、聞いたことがない。ミミユ様もあの子に関しては恋云々の報告をしてきてないから……まだ初恋とか考えたことはないんじゃないか」

「遅いな。貴様があの年頃には姉上とカケオチしていただろう」

「してたよ。俺は決断するのだけは早いからな。仲間たちも後押ししてくれたし」

 しれっと認める。考えることは苦手だったけれども、大事な決断だけは非常に判断の早いザーフなのだ。

「若かったなぁ。勢いだけで生きてた気がするよ。でも、後悔はしていない」

 レオナと今も過ごせている。年を重ねて静かに生きている。いずれ自分は寿命が来るだろう。それはもう遠くない未来だ。レオナは一緒に居てくれるだろう。最後のその時まで、自分のそばにいてくれる、愛しい女性。


「俺は幸せだよ」


 レオナと過ごせて幸せだ。愛する人と過ごせる毎日を、孫にも知ってほしいと思う。

「孫にも幸せになってほしいんだ。とりあえず、いろいろと考えてはおくよ。でも、今のところは様子見かな」

「そうか。貴様がそういうのならそうしたほうが良いのだろう。ま、孫娘を嫁にと言うのなら相談してくれ」

 気持ちはありがたいので、素直に礼を言っておく。

「ありがとう。でも、その娘さんには意中の男はいないのか?」

「……いない、と、思うが……いない。はず。うん……ミミユにちょっと聞いておこう。あいついつ顕現するかな……」

 エクトが渋い表情になった。一緒に住んでいるわけではない孫娘の恋愛事情にまでは詳しくないのだろう。こちらで勝手に婚約だのと言っても、その孫娘に意中の相手がいるのなら、根本的に可能性が無い話になる。

 勝手なことだ。思わず苦笑が漏れた。ついつい余計なことまで考えてしまう。爺は孫が心配で、それ以上に可愛くてしょうがないのだ。

 愛しているから、しょうがない。

 あきらめておくれ、可愛い孫よ。

 じいちゃんは、君たちが愛しくてしょうがないのだから。


孫の話は次にも続く。違う孫ですが(笑)孫、多いので。

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