女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・36
末の孫が生まれたとき、いろんな神がお祝いに来てくれたのはいつものことだ。
が、そのときだけはいつもとちょっと違った。
ハプニング万歳な神様が、いたずら心で何かしてくれたのだ。
恋の女神・ミミユ。桃色な恋の空気が大好きな神様が、なんか孫に加護を与えたらしい。
多分、それが原因だ――末の孫がやたらと異性に縁があるのは。
第一候補。同世代のイトコ。
素直になれない女の子。でも彼に対してだけはたまにちょこっとだけ素直になることもある。
第二候補。おとなしい幼なじみ。
内気でおとなしいため、なかなか本心を伝えられない。いつも彼の前では顔を赤くしている。
第三候補。村長の娘。
わがまま三昧で育てられたため、常に上から目線。そのために本心を伝えられないこと多し。
村の中でだけでこれである。ほかにもいろいろと恋の秋波を送っていた娘はいたらしいが、イトコと村長の娘の結託で蹴落とされたとのこと。
おとなしい幼なじみはおとなしすぎて論外あつかいされたようなので、今のところはまだ蹴落とされてはいない。
――とかいう情報を思い出しながら、ザーフはお茶を口に含んだ。
ミミユ。えらいことをしてくれたものだ。孫がモテるのはいいが、本人が無自覚なため、あまり意味がない。
まだ若いため、これだけまわりに女の子がいても、本命を決める以前に、好きな娘もいないようだ。
何よりも先に魔王退治の旅に出るような熱血漢で、しかしとても優しい孫だ。魔王を退治することしか考えていなかっただろう。色恋など二の次三の次だったに違いない。多分きっと、旅の間にもいろいろと出会いがあったはずである。仲間という娘がついてきているのも、孫に惚れている可能性が非常に高い。
ずずーっと茶をすすり、ザーフは思う。
隣の旦那の目指すハーレムとやら、うちの孫が作るかもしれん。
まぁ、周りの女性が許せばの話だが。
「レオナ」
「はい、あなた」
「うちの孫はモテるなぁ」
「そうねぇ。モテるみたいねぇ」
「でも嫁さんとまでは考えてなさそうだよな」
「そうね。ひ孫はまだ見られないかもしれないわね」
いつまでも若く美しい妻は、しみじみと言う。
「ミミユも余計なことをしてくれたわねぇ……」
「普通でいいのにな……」
「そうね。普通で良いのにね……」
ほかの孫たちはごく普通に生きている。普通に相手を見つけて普通に結婚した。
末の孫だけ波乱万丈。むやみやたらとハプニングに恵まれた人生を送っている。
普通でいいのに。
女神のカケラと結婚した普通でない男は、ため息をつく。
「普通でいいのになぁ」
「そうね。普通でいいのにねぇ」
顕現した女神のカケラも、ため息をつく。
普通でない夫婦は、ただひたすらに子供や孫たちに平穏な人生を望んでいた。
「普通でいいのになぁ」
「普通でいいのにねぇ」
ミミユの加護は、いつまで続くのだろう。
女性に囲まれている孫をみながら、普通じゃない夫婦はのんびりとお茶をすすった。
勇者にフラグがたつのはそういうわけだ! フラグをクラッシュするのは本人の資質でしょうかね(笑)




