女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・35
待ちかねていた――この時を。
目の前に転移してきたそいつを見て、夫妻は獰猛な笑顔を浮かべる。
「好き勝手してくれたな……貴様のせいで妻に死ぬほど殴られたぞ!」
と、元魔王。
「お前のおかげでせんでもいい仕事を山ほどしたぞ……多大な迷惑をこうむった」
と、死の化身。
大魔王を名乗る魂は、凍りついた。
「「覚悟はいいな?」」
「良くないです」
「「問答無用!!」」
「ソレ聞いた意味ねえよ!」
……もっともである。
遠い王都で、レコダは「ついでに良い仕事をした」と、にやりとしていた。
にっこりとほほ笑むレオナとザーフに、末の孫は引きつった。
「え、えーっと、あの、じいちゃん、ばあちゃん……」
「おかえりなさい」
「おかえり」
ただ、それだけを告げる。孫は一瞬道に迷った子供のような表情をして……それから笑った。
「……ただいま」
「おう。無事で良かった。父さん母さんも心配していたぞ。後でちゃんと顔を見せに行きなさい」
「う、うん。ごめん。あのさ、その……」
彼の左右に現れた少女と、双子と変な魔物。レオナは恐れもなく屈んで双子と目線を合わせた。これがお隣さんの子供たちか。可愛らしい子供たちだと思う。確かにお隣のご夫婦に似ている。男の子は奥さんに、女の子は旦那に似ていた。生まれたころに一度会ったきりだから、もうこんなに大きくなったのかと感慨深い。
「こんにちは。はじめまして。おばあさんはね、君たちのお母さんのお友達なのよ。お父さんから聞いているかな?」
「……うん、きいてる。かーちゃんのともだちでしょ?」
男の子がおずおずと言う。孫の手をしっかりと握りしめて。
孫はちゃんと双子の面倒を見ていたようだ。なつかれているのがよく分かる。この末の孫に関しては、今まで浮いた話も聞いたことはなかったけれども(天上に監視員=覗き常習犯の恋の神がいる)きちんと子守は出来ていたのだろう。
「え、ばあちゃん、この子らの親知ってんの!?」
と、孫は驚いている。まぁ、知らなかったのだから無理はない。ザーフは苦笑しながら口を開く。
「知り合いも何も、昔からずっとお隣さんだ。奥さんはばあちゃんの親友だし、旦那さんはじいちゃんの友達だぞ」
「「「え……ええええええーー!?」」」
孫と、隣にいた少女と魔物が絶叫。まぁ、そうだろう。
「もっとも、魔王になってからは音信不通だったけれどな」
「…………そ、それは一体どういうことなんですかっ!?」
少女が叫ぶ。ところでこの娘は孫とどういう関係なのだろう。旅の仲間としか聞いていないが、ひょっとして彼女だったりするのだろうか。もし彼女だったのなら、いろいろなところから覗き魔……もとい、報告が来ていておかしくないのだが、今のところは何も聞いていないので、そういう相手ではない可能性もある。
あと、連れている大きな獣型の魔物もどうするのかを考えなくては。エッセの話では、おとなしいらしいから、放っておいても良いとは思う。なんだかお城で可愛がられていたとも聞いた。お城で愛されているのなら、送り返したほうが良いのかもしれない。でかい魔物のくせに先ほどからこちらを恐怖のまなざしで見ているのは何故なのだろう。よく分からない。別に武装もしていないのに何故だ。
そこんところも聞いてみよう。とりあえずはまぁ、お茶を飲みながらでも。
「立ち話もなんだし、中へ入ろう。お茶を入れるよ。いろいろと話も聞きたいしな」
長い話になりそうだ。そのうちに義父も義母も来るだろう。ひょっとしたら義弟も来るかもしれない。
ああ、息子夫婦も呼ばなくては。孫のことを大層心配していたのだから。
お湯を大目に沸かしておいて良かった。
ややこしくてくそ長い話をしなくてはいけない。
面倒だが、孫たちが無事に帰ってきたのだ。それだけは確かに嬉しい。
さぁ、話をしよう。茶菓子も用意して、小さな双子が飽きないようにしてあげなくては。
孫帰宅。強制的に(笑)




