女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・31
初孫は、女の子だった。
レオナが娘を産んだときのように、娘も孫娘を産んだ。
娘婿が手を握って励まし、祖母であるエニフィーユがお産の神レンゲを連れてきたりとなんだか慌ただしかったけれども、とにかく無事に生まれた。
小さな小さな命。愛されるために生まれてきた命だ。
精一杯愛し、護ってやってくれと、ザーフは娘婿に告げた。
娘婿は、真剣な表情で頷いてくれた。
頑張った娘も、泣き出しそうな……けれど幸せで仕方ないと言う様に、微笑んでいた。
時間は、またもや流れる。子供はみんな無事に結婚し、孫も次々と生まれた。
子供たちも子沢山で、いまやザーフとレオナは孫に囲まれる毎日だ。
「おじいちゃん、むかし、戦士だったってほんと?」
「ああ。本当だよ。物置にまだ剣が置いてある。でも、触っちゃ駄目だぞ? 大きくなったら触ってもいいが、今はまだ駄目だ」
孫に昔の話をせがまれることも多くなってきた。
特に、レオナと出会った頃の話を。
「おじーちゃんとおばーちゃんってカケオチしたってほんと!?」
目を輝かせて聞いてくるのは初孫娘。すっかりおませな女の子だ。どうやら娘に聞いたらしい。ロマンチックなことだと思っているのか、妙に興奮している。
穏やかに微笑んで、レオナは孫娘に語る。
「そうよ。おじいちゃんはね、いろいろ迷っていたおばあちゃんの手を、いつも引っ張ってくれたの。だからね、おばあちゃんもおじいちゃんとずぅっと一緒にいようって決めたのよ」
女神の欠片と冒険者。子供たちも孫も、いまだにレオナが女神の欠片だとは知らない。彼女やエニフィーユ、ゼオやエクトが年を取っているように見えないことにも、少々疑問は抱いているようだけれども、直接聞いてくることもなかった。
まぁ、隣に年を取らない魔族が住んでいるのだから、あんまり細かいことを気にしないのかもしれないが。
「おじいちゃん、すげー! あのひいじいちゃんとひいばあちゃんから、おばあちゃんをさらって逃げたんだー、すげー!!」
曽祖父母を凄腕の魔法使いだと信じている孫達は、ザーフをとんでもない腕前の戦士だと思い込んだようだ。
凄腕かどうかは自分ではよくわからない。が、神殿からは逃げ切ったが、エニフィーユとゼオには見つかって、ゼオにはイビられた。エニフィーユが味方してくれたのでなんとかこらえられたが。
エニフィーユまでもがザーフをイビりに回ったら、多分ザーフは神経性の胃炎で倒れていただろう。
当時を思い出しながら、ザーフは笑みを浮かべる。ゼオは、ひ孫が出来たことでさらに丸くなった。孫もひ孫も可愛くて仕方がないのだ。愛してくれて、とてもありがたい。
「いや、ひいおばあちゃんは味方してくれたよ。怖かったのはな、ひいじいちゃんさ。おばあちゃんのことをとてもとても可愛がっていたからね。まだまだ手元で大事にしたかったんだよ。そこにじいちゃんが割り込んだからなぁ。怒った怒った。でもね、それはおばあちゃんが大事だったからだよ」
ゆっくりと、ゼオに悪気がなかったことを教える。まぁ、敵意はあったが、その辺は言わなくてもいい。
「そうしてね、今はとてもみんなを大事にしてくれてる。おじいちゃんも、ひいじいちゃんとは仲良しになった。分かるだろ?」
「うん! たまに一緒にお茶飲んでるもんね!」
天界もなんだか忙しくなってきたようで、最近はゼオやエニフィーユが顔を見せる回数が減った。
どうやら、魔族がちょっとうるさくなってきたらしい。
魔界で何が起きているのか、隣の旦那さんが難しい顔をしているのも見かけたことがある。
とは言っても、相変わらずこの村は平和で、異変も取り立てては起きていない。
平々凡々。平穏が一番だと、孫達とひなたぼっこをしながら、ザーフは思った。
じいちゃんばあちゃん生活をエンジョイ中。




