女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・29
時間が流れる。ザーフの髪にも白髪が、顔にはシワが目立ってきた。レオナは相変わらず美しい。
子供たちも独り立ちして、それぞれが近所に住んでいる。
お隣の夫婦も相変わらず。子供が欲しいと嘆きつつ、夫は寝込み、妻は忙しそうにしている。
仲間たちもおのおの結構出世したようだ。
神官エッセは司祭に出世し、神殿内をうまく治めている。魔法使いヘレンは弟子を取り、師匠としてびしばし鍛えている。盗賊レコダは……まぁ、元気だ。いろんな意味で。
昔の相棒である大剣の手入れをしながら、ザーフは思い出す。
レオナと出会ったときのこと、彼女に恋をしたときのこと、恋が愛に昇華して、想いが通じなくとも一生彼女を護ろうと思ったときのこと。
彼女に想いが通じたときのこと……思い出すだけで甘酸っぱい。照れる。
俺も若かったなぁ。いやほんと。
後ろなんて見たことなかった。前だけを向いて走った。後ろには頼れる仲間たちがいて、護らなければならない彼女がいた。
今、彼女は隣にいる。護られるだけでなく、ザーフを支える妻として、子供たちを護る母として。
うん、幸せだ。
剣の手入れを終え、ザーフは鞘にしまう。
最後の冒険を終えてからも、何度か剣は握った。
畑を狙うゴブリンを追っ払ったり、村の近くに現れた小さな怪物を退治したり。
その程度だ。
世の中は平和で、穏やかだ。
ずっとこんな毎日が続けばいい。
――と、思っていた数日後、事件は起きた。
「お父さん、お母さん、ついにおじいちゃんとおばあちゃんになるね」
結婚した娘が、にこやかに言い放ったのである。
孫が、できた。
大事件だ!




