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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・28

 ついに娘が結婚することになった。

 とうとうこのときがやってきたのだと、あいさつに来た娘の恋人を出迎えたとき、なにやら感慨深い思いがするザーフである。

 自分は挨拶などできなかった。なにせ恋人の父親は主神で、地上にいなかったのだから仕方ない。

 そのうち向こうから欠片が降臨してくれて、ようやくアイサツできたが、それとて受け入れてもらえたわけでもなかった。

 過去を思い出すと、娘の恋人は恵まれていると思う。

 なにせ、義父になるであろうザーフはちゃんとした人間で、交際に反対することもなく、むやみやたらとイビることもないのだから。


 ただし、苦労しないというわけでもない。


「怒ってるの?」

 娘は心配そうに問いかける。両親は問題なくニコニコして恋人を受け入れてくれているというのに、心配の種が同席しているからだ。

「怒ってなどおらぬ。可愛い孫娘よ、誤解だ」

「でも、おじいちゃん。顔が怒ってる気がする」

「怒ってはおらぬ。気のせいだ」

 孫可愛さに祖父ゼオ(主神)がまた降臨。しかも娘の恋人が挨拶に来たのを見計らって降りてきた。間違いなく邪魔するつもりだ。

「お父様」

 さすがに温和なレオナも注意しなくてはと思ったようだ。可愛い娘が愛しい人と結ばれるというのに、自分達のときのようにイビられてはたまらない。子供たちは祖父と母を神と知らないのだからなおさらである。

「真面目な人なのですから、邪魔などお考えにならないようにしてくださいね」

 娘の恋人が真面目な人間で、問題のない相手であることはすでによく分かっている。いろいろ調べてくれる人とか神とかがいたからだ。素行調査はばっちりなのである。

「しかしな、娘よ。これからどうなるか分かるまい。どうするのだ、浮気などされたら」

「しません」

 しないだろう。浮気心の神がちょっかいでもかけない限り、娘の恋人に浮気など許されないし、させないはずだ。

「分からんぞ。可愛い孫娘が泣かされて戻ってきたらどうするのだ!?」

 過保護だ。ありがたいが、困る。ザーフは頭を掻いた。舅は妻に任せておこう。

 そのうち、レオナはラチがあかないと見たのか、ゼオを隣室に連れて行った。


「あーあ、じいちゃん怒られるぞ。そのうちばあちゃんも来るよな」

 と、三男が呟く。その言葉も終わらぬうちに、外で稲光が閃いた。

「来た。いらっしゃーい、おばあちゃん!」

 と、次女が祖母エニフィーユを迎えにドアを開けに行く。開けた先にはいつも麗しい祖母が立っていた。雷光をまとっているので、微妙にお怒りモードだ。知っている次女も適度に安全な距離を保って祖母に話しかけている。

「なんかおじいちゃんがお姉ちゃんの恋人イビってるから、お願い、止めて、おばあちゃん」

「おお、わらわの孫達は今日も可愛いこと。安心おし、ばばはそのために参ったのじゃ」

「ばあちゃん頼もしいなぁ……」

 と、次男。何かに憧れているようだが、魔法使いに憧れるならともかく、祖母自体に憧れるのはちょっと待って欲しいザーフだ。

「いらっしゃい、お義母さん。すみませんが、お義父さんをお願いします。レオナと一緒に隣室です」

「お邪魔するぞよ婿殿。ゼオはわらわが仕置きするから、安心なさい」

 凄みのある微笑。さすが母神である。エニフィーユは娘の恋人にちらりを視線を向け、薄く笑って隣室に入っていった。


「……に、睨まれたような気がするんですけど……」

 怯えたのは娘の恋人だった。

「あ、あの、おれ、その、嫌われたんでしょうか……?」

 おずおずとザーフに聞いてくる。ザーフは笑顔になった。

「大丈夫。今じいさんに対して怒っているだけで、君に対してどうこうじゃないよ。そもそも、あの人に嫌われたら、君はこの家に入ってこられない」

 にこやかに告げる。

「なにせ、うちの妻の両親は凄腕の魔法使いだからね」

 隣室から轟音が聞こえてきた。愛のオシオキが炸裂したのだろう。

 屋根に穴が開いていないといいがと、一瞬思ったが、義母がすぐに大工の神を派遣してくれるので、まぁいいかとも思った。過去の経験からして、ザーフもあまりうろたえなくなってきている。

 年を重ねたせいもあるのだろう。

「あの、音が……」

「うん、気にしなくていい。細かいことを気にしすぎると不幸になるぞ」

 にこやかに忠告しておく。実は細かいことでもないけれども、気にしすぎてもらっても困る。神の孫だからと娘に対して退かれてしまうと、娘が可愛そうだからだ。

「大丈夫だ。お義母さんの『アレ』はじいさんに対してしか行われない。俺が保証する」

 親指を立てておいた。その点では絶対だ。エニフィーユのオシオキは、ザーフや子供たちには向けられたことがない。

「そ、そうですか」

 ちょっと引きつった笑顔だが、なんとか納得してくれたらしい。

 レオナも隣室から出てきた。何もなかったかのように爽やかな笑顔である。彼女はいつでも綺麗だ。

「さ、それじゃあ夕食にしましょうか。みんな、手伝ってね」


 ささやかな宴会が開かれて、その日から、また一人家族が増えた。


ダダこねじいちゃん、オシオキばあちゃん。

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