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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・26

 時間は、さらに流れる。

 長女が、恋人を連れてきた。


 結婚を考えている相手を紹介され、ザーフは正直に顔を引きつらせたが、前例(義父とか)があったので、かろうじて反対はしなかった。しごくマトモで真面目な男だと感じたからである。

「娘をよろしく頼むぞ」

 と、なんとか口にすることが出来た。


 ところが、駄々をこねたのは義父・主神ゼオだった。

「結婚するなど百年早いわ!!」

 いきなりドアを開けて怒鳴り込んできた義父に、雷光が直撃。何年経とうが母神・エニフィーユのゼオへの扱いは変わっていない。ゼオの娘愛に孫愛が加わった分、厄介になったような気もする。

 しかし家族は慣れたもの。うろたえていたのは長女の恋人で、婿になる男だけだった。

「あ、あの、あれは」

「あ、いいの。いつものことだから。今入ってきたのはおじいちゃんなの。で、おばあちゃんがちょっと怒っただけ。話したでしょ?」

「ええと……すごく強い魔法使いのおばあちゃん?」

「そう」

 娘と婿の会話に苦笑しながら、ザーフはレオナと一緒に義父を奥の部屋に回収した。


 孫達は祖父母のことを神と知らない。レオナが普通の人間として育てたいと望んだからだ。

 そういうわけで、祖父母は強力な魔法使いだと思っている。いきなり現れていきなり消えたりする不可思議さは、ザーフの仲間の魔法使い・ヘレンも同じなので、不思議に思っていないのである。

 必要があれば真実を話すつもりでいたけれど、幸いそんな話が必要になることも今までない。

 時々職権乱用する義母については、おばあちゃんも変な知り合い多いね、で済んでいる。

「お義父さん、大丈夫ですか」

「お父様、大丈夫?」

「うむ、大事無い」

 ゼオもいつも妻の雷撃をくらっているため慣れているのか、復活が早い。何事もなかったかのように立ち上がった。

「しかし婿よ、情けないものだな。可愛い娘がどこの馬の骨とも分からぬ男にたぶらかされておるのだぞ。昔取った杵柄で、剣を振り回して追い返すくらいはするべきだ。なんならわしが天罰を当てても良い」

 昔ザーフに威圧をかけたことがある主神、懲りてない。途端、家の外で爆音が響いた。

「……お父様、そんなことをおっしゃるからお母様がいらしたわよ」

「う、うむ」

「天罰など止めてくださいましね? あの子が選んだ男性です、信じてあげて」

 レオナが言ったとき、ドアが開いた。ノックもなしに入ってきた、ちょっと帯電している義母・エニフィーユがにこやかな――ただし眼が笑っていない笑顔でゼオを見る。旦那をにらみつけたまま、彼女は言い放った。

「レオナ、婿殿、少々席を外してもらいましょう」

 怒っているのか、はたまたシツケなのか。ザーフには判別できない。ゼオがこちらを見た。

「待て。婿、お前はここに」

「婿殿、夫婦の会話に横槍は無用ですよ。さ、レオナ、婿殿を連れて行きなさい」

「はいお母様。ごゆっくり」


 閉じられたドアの向こうで何が起こっているのか、多分知らないほうが良い。


 ザーフはほがらかに娘の恋人に笑いかけた。

「今日は夕飯を食べていくと良い。一杯飲もうじゃないか」

 多分、君はきっとこれから微妙に苦労するだろうから、せめて俺だけは味方になってあげよう。

 初めての孫にできた恋人。

 君の敵は祖父だけじゃない。

 今夜はきっと、叔父も来る。もしかしたら今後、いろいろ来るかもしれない。

 娘を可愛がってくれているのは、祖父母や叔父だけではないのだ。生まれるときに見守ってくれた人とか神とか、育つのを慈しみ愛してくれた神とか隣の奥さんや旦那とかもいるから。

 

 ザーフは思う。

 頑張れ青年。でももし娘を泣かせたら、まず真っ先に俺が敵になるけどな!


結局お義父さんと同レベルの親父(笑)

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