女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・25
時間は流れる。世界は止まることがない。もっとちっぽけな、人すら止まらないのだから。
そんな世界の中で、レオナの外見は変わらない。神の欠片である以上、彼女もまた、人ではないのだ。
が、しかし。
「まー、レオナちゃんはいつまでも若くて綺麗ねー」
「ほんと、うらやましいわー」
この村の人たちはどこまでもそんな小さなことは気にしなかった。
なにせ、老けないのはレオナだけではない。おとなりのご夫婦もまた老けない。
しかも、旦那が魔族であることまで公表済みだったりする。
魔族が住むことに関して、この村はどこまでものんきだった。
「いいじゃない。おとなしいなら」
「魔族ったって悪いことしないなら人間といっしょだろ。末永くよろしくな」
……何故にここまでのんきなのかと言うと、村の大半が温和な友情の神・ティノスを信仰しているから、らしい。
世界に生きているもの皆友達。そんな神様。
まぁ、怪しまれないのは助かる。こんなに警戒心がなくて良いものかとも思うが、この穏やかな村を護るためならザーフはいつでも剣を握る。
彼らに警戒心がないのなら、その分、世話になっている自分が護ろうと。
レオナもまた同じ心境である。欠片であるために、彼女にある力は大きなものではないけれども。
「ねぇ、ザーフ」
「うん?」
「幸せだわ。でも、ちょっとゼイタクを望むなら、あなたや子供たちと一緒に年を取ってみたかった」
レオナの微笑みに、どう返してよいものかザーフは迷う。どうしたらいいのか分からなくて、軽口に逃げた。
「……ゼイタクだなァ。世の女性は年なんて取りたくないって言うと思うぞ」
「ふふ。そうね。でも、一緒に年老いて、同じように世界を去りたいと思うこともあるの」
彼女は変わらない。その姿は年月が経過した今でも若く、美しい。
ザーフは年を取っていく。子供たちも成長していく。その中で、彼女だけが変わらない……。
「置いていくことはないさ」
妻の肩を抱いて、ザーフは力強く言う。
「子供たちは成長して親離れしていっても、俺はレオナといつまでも一緒にいるよ」
若い日に誓った。彼女と共に生きていくと。
「ありがとう、ザーフ」
彼女も誓った。彼が天命を終えるまで、地上にいることを。
天命が終わっても、彼の魂と共に在ることを。
「素敵ね」
女神の欠片は幸せそうに微笑む。子供たちの騒ぐ声を聞きながら。
「未来を願うのは、素敵だわ。ザーフと会わなかったら、一緒にいたいと願える人と居られるのがこんなに幸せなことだと知らないままだったのね」
「いや、まぁ、俺もレオナに会わなかったら、どっかの冒険の途中でのたれ死んでいたかもしれない。まさか女神の欠片とカケオチすることになるとは想像もしてなかった」
「私も考えてもいなかったわ。一緒に逃げてくれって言われるなんて思わなかったもの」
「いや、だってさ――」
「……また父さんと母さんがノロけあってるよ……」
「あー、この万年新婚夫婦め。子供の前でいちゃつくな恥ずかしい」
「はいはい。見てないで掃除掃除!」
「あたし外に洗濯物干してくる」
「……おれ、畑見てくる」
らぶらぶ、のほほん。




