女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・24
結婚して十数年、夫婦仲は良く、子供たちも元気に育ってくれている。
何の不満もない、平穏で幸せな日々。
「幸せだなぁ」
子供たちが遊んでいるのを見ながら、ザーフは思う。
「幸せね」
レオナもまた、笑顔だ。
「羨ましい」
お隣の旦那さんが言う。夜、たまに奥さんと遊びに来るのだが、奥さんはレオナとしゃべくり、旦那はザーフと喋る。数年経っても身体は丈夫にならず、となりの夫婦にはまだ子供もない。
奥さんがよく留守にするため、なかなか子供が出来ないようだ。死の化身としての仕事があるので、ちょこちょこ冥界に戻っているらしい。もっとも、旦那が病弱でよく寝込むのも原因の一つだろう。
「いつも奥さんといられていいなぁ君は。うちなんてさ、嫁が忙しすぎてさ、新婚のときだってロクにいちゃいちゃできずにさ……あああ、ザーフのところが羨ましいなぁ、子供も元気だし」
「そのうちあんたにだって子供できるよ。あんたは病弱でも奥さんは元気だろ。励めよ」
「子供欲しい。可愛いのが欲しい。元気で可愛くてひねくれてて魔族そのものな子供欲しい」
「いやそれはどうだろ。というか、こんな村の中で魔族そのものな子供ってありがたくないぞ」
魔族そのものなお隣の旦那は、病弱のあまり暴れることも出来ないらしい。力はかなりある魔族と聞いたが、暴れる元気がないとのこと。何よりである。
隣の旦那(=茶飲み友達)退治に剣を持ちたくない。
「平穏が一番だよ」
とのザーフに、隣の旦那はこそっと訊いてきた。
「……そうか? ハーレムとか良くないか?」
「おい」
「よりどりみどり、いいと思わんか?」
「あのなぁ」
ため息をつきつつ、言い返そうとしたザーフの視界に、隣の奥さんがフォークを投げたのが見えた。
隣の旦那の側頭部に、綺麗に刺さるフォーク。
「すまんな、うちの馬鹿が戯言を」
「いや、いいけど。いいのか、これ」
しれっと詫びる奥さんに、視線で床を示す。床に倒れ伏した旦那は呻いている。
「妻のいる前で友人の旦那に妙なことを吹き込むこいつが悪い。しばらく反省させる。放っておいてくれ」
子供たちが寝ていて良かったと、ザーフもレオナも思った。
「体弱いんでしょう? いいの、放っておいて?」
「構わん。死ぬほどではない程度に手加減はしている」
にやりと笑う奥さんは、さすが死の化身といった迫力を宿している。美人なのに怖い。
「……こんなに綺麗な奥さんがいるのに、変なこと考えるなぁ」
呟くザーフに、奥さんは微笑した。
「レオナ、君の旦那は口が巧いな。自覚はなさそうだが」
「ふふ。ザーフは思うことを正直に言葉にしているだけよ。とても素敵でしょ?」
「そういうところに惚れたのか」
「そうかもね」
いたたまれない会話になってきた。聞いていて非常に恥ずかしい。
「あー、俺、茶を淹れなおしてくるよ。それとも酒のほうが良いかな?」
「いや、茶で構わない。すまんな」
ザーフは台所に逃げた。女同士の会話というのは、どうしてこう、男が聞くと恥ずかしいのだろう。
はーれむってオイ。そして、隣の奥さん、怖い(笑)




