女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・22
初の子供が生まれてから、十年。
ザーフとレオナは、次々と子宝に恵まれた。
今では三男二女の親である。
仲間たちもそれぞれに落ち着き、平穏な日々が続いている。
先日、隣の敷地に夫婦が引っ越してきた。
病弱らしい夫の養生に、こんな田舎に越してきたようだと、ザーフたちは聞いている。
妻だろう女性が挨拶に来てくれて、応対に出たレオナの言葉に、ザーフは首をひねった。
「まぁ、お久しぶりです。あなたがこんなところに来るなんて、なんて珍しい」
「そちらも息災そうで何より。ずいぶんとたくさん子に恵まれたとか。羨ましい限りだ」
仲間のヘレンのような雄雄しい喋り方をする女性である。レオナの知人のようだが……女神の欠片の彼女の知人。天界の住人であろうか。
「うちは亭主が病弱でな。本当に頼りないのだ。いつも寝込んでばかりで」
「まぁ……それは大変ね。相当お体が弱いの?」
「そうだな。一週間に三日は寝込んでいるような男だ」
「まぁ……体の弱い魔族というのも、大変ね」
……何か聞いたぞ、今。
ザーフはまとわりついてきていた次男を「あとでな」と横によけ、妻のほうに視線をやった。妻はにこにこしている。警戒している様子ではない。
「それにしても、どこでどうやって出会ったの? あなたのような人と、旦那さまのような方」
「うむ。あやつが死にかけたときにな。まぁ、互いに一目惚れというヤツだろう。考えてみると妙な縁だが」
なにやらすさまじい話を聞いた気がしてきた。これは首を突っ込むべきだろうか。そっとしておくべきだろうか。
レオナの知り合いで、旦那が魔族。奥さんのほうも人間ではないのだろうか。
和やかに会話をかわす自分の妻と近所の奥さんに、ザーフはどういう態度を取って良いものかと、密かに悩んだ。
奥さんが辞去したあと、ザーフは末っ子の三男に高い高いをしながら聞いてみた。
「あの奥さん、知り合いか?」
「ええ。古い知り合いなの」
「天界の?」
「少し違うわ」
夫の問いかけに、妻は穏やかに微笑んで、爆弾を投下した。
「死の象徴なの。だから、住んでいるのは冥界」
呆然とするザーフである。それでも三男を落とさなかったのは父親心のたまものか。
実は、このお話、「子育て勇者と魔王の子供」とリンクしております。あちらも見ていただくとちょこっと楽しい、かも?




