女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・16
「お帰りなさい、ザーフ」
帰ってきた夫を、女神の欠片・レオナはにこやかに出迎えた。二週間ほどの留守にも怒った様子はない。
「ただいま。遅くなってすまない。ヘレンもありがとう。あ、これ、みやげ」
留守中の妻の面倒を見ていてくれていた仲間のヘレンに、無造作に布袋を差し出す。ごとごとと音がすることから、硬いものが入っていることは間違いない。ヘレンは受け取り、鷹揚にうなずいた。
「うむ、どういたしまして。みやげをすまんな。で、なんなんだこれは?」
「ああ……ヒドラの骨。ドラゴンサーバントにでも使ってくれ」
「おお。それはありがたい。そろそろサーバントを増やしたいと思っていたんだ」
魔獣の骨を使った魔法で召使いを使うヘレンには、ありがたい土産だろう。妙齢の女性に対する土産にはどうかという品だが。
「おい、姉上には土産はないのか!? 長らく留守にしておいて貴様!」
「あ、レオナ、レオナにはこっち」
激昂する義弟エクトを華麗に受け流しておいて、ザーフは妻に綺麗な髪飾りを手渡す。
「綺麗。ありがとう、ザーフ」
「どういたしまして。あんまり高価なものじゃないけど、レオナに似合うかと思ったんだ」
仲良し新婚夫婦である。エクトが鼻を鳴らした。
「……ふん」
「私にまで土産をすまないな、ザーフ。で、ヒドラと戦うようなことをしてきたわけか。何故私を呼ばん? 魔法使いの力が必要だっただろうに」
ザーフの持ってきた土産で、彼がどこかで強敵と戦闘してきたと感じ取ったヘレンである。強敵が相手ならば、仲間である彼女の力も必要だっただろうに、ザーフはヘレンを呼ばなかった。
「ああ、でも、前にヘレンが付与してくれたアイテムがあったから。それでなんとかなるなぁと」
「……ああ、アレか」
ヘレンはあっさり納得した。魔力や魔法を付与するのが大得意な彼女なのである。
「どなたも怪我はなかったの?」
レオナの心配そうな言葉に、ザーフはにっこりと笑顔を返す。
「大丈夫大丈夫。エッセとレコダが一緒だったから」
高位の神官エッセが同行していたから、怪我をしてもすぐに癒える、と。
「一緒だったのか。それはさぞかしエッセが苦労したのだろうな」
何かを感じ取ったヘレンが同情の呟きを洩らす。
「そんなことはどうでもいい! 一体貴様どこで何をしてきたのだ!? 身重の姉上を置いて、遊びまわっていたのか!?」
空気を読まずにエクトが声を上げた。
「ああ、うん。リリーさんに会ってきた」
「っ!?」
声をなくしたエクトに、レオナがきょとんとした。
旦那、帰宅。何をしてきたのかなー。




