女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・13
「――と、いうことみたいなの」
レオナから話を聞いて、ザーフは眉間にしわを寄せた。
「それはつまり、俺とレオナの逆ってことか……」
人間のザーフは、紆余曲折あっても、女神の欠片のレオナと結ばれた。
しかし、レオナの弟神エクトは、人間の女性と結ばれなかった、と。
それはなおさらザーフが憎らしくなろうものである。大好きな姉を取った男であり、人間と神の恋愛を成就させたのだから、さらに憎らしさ倍だ。
そういう理由があるのなら、エクトの態度にも納得がいく。
「……その女性って、どこの誰なのかは……?」
「わたしは分からないけれど、お母さまならご存知かもしれないわ。でも……尋ねるのもエクトに気の毒で」
「だよなぁ……」
エクトはまだ戻ってこない。どこかですねているのかもしれない。
「んー……」
ザーフはしばらく考え込み、呟いた。
「駄目だ。やっぱり俺は頭を使うことは向いてない。ここはあれだ、行ってくる」
「え、どこへ?」
「仲間たちのところ。ついでに顔を見てくるよ。向こうから来てくれることはあっても、こっちから行くことはあまりなかったし」
ザーフはもともと頭を使うことが非常に苦手なのだ。腕っ節と判断力には自信があるが、思考することが苦手なのである。人生全て、脊髄反射な男なのだった。
「あと、話によっては少し留守にするかもしれないから、その場合はヘレンに来てもらうことにする」
「分かったわ」
夫が突然言い出したことにも動じずに、レオナは頷いた。
「出かけたのですか!? 身重の姉上を置いて!?」
戻ってきたエクトは、ザーフが出かけたことを聞いて目じりを釣り上げた。
「ええ、ちょっとね」
「初めてのお産で不安な姉上を置いていくなど……何を考えているのだあの男はっ!?」
「いろいろ考えたみたいよ」
ほわほわと、レオナは幸せそうに微笑む。
「ザーフが何を考えたのか、話してもらわないと分からないけれど……でも、あの人がこうと決めて動いたのなら、きっと良いほうに向かうから」
ザーフを信じきっているレオナの言葉に、エクトは苦い表情になった。
「姉上……何故そんなにもあの男を庇うのです?」
「経験上からよ。ザーフが一生懸命になるとね、物事は良いほうに向かうの」
笑顔のまま断言するレオナは、愛し信じるという幸福に満ちていた。
旦那、ちょいとお出かけ。




