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女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・12.5

「いい加減になさい」

 顕現した母神エニフィーユ(の欠片)に、夜の神エクト(の欠片)はふくれっつらになった。

「しかし母上。あのような人間に姉上を任せるなど、不安でなりません」

 シスコン極まれり。

「欠片と言えど神。一片ゆえに限界があるとはいえ、実りを与えることに変わりない。人間は弱く醜い。いつか姉上を利用して傷つけるに違いありません」

 エクトの物言いに、母神はきっぱりと言い切る。

「婿殿はそのような人間ではありませぬ。お前のような、うっとおしい義弟が居候をしても、家族が増えて嬉しいと呟くような御仁じゃ」

 レオナがはっとして、それから嬉しそうに微笑んだ。

「まぁ、お母さま、ザーフの独り言を聞いていらしたの? 他の方に言わないであげてね? あの人、恥ずかしがるわ」

 とてもとても嬉しそうな娘の言葉に、母神も愛しげに微笑む。

「よい方を見つけたの、ディオレナ」

「ええ。本当に。でも、お母さま、こちらでのわたしの名はレオナです。わたしの仲間達が、わたしのために考えてくれた名前です。ですから、どうかレオナと」

「あらあら……そうじゃの。そのような理由であれば、ほんに大事にしなければならぬ」

 幸せそうに笑いあう母と姉を見て、息子で弟は頬を膨らませた。


「……人間は信用できません」

「うじうじとうるさいのぅ。いい加減忘れぬか。お前が愛した人間の娘は、ほかの男に嫁いでいったのじゃろうが」

「………………関係ありません」

 長い沈黙の後に小さな声で呟かれた言葉に、レオナは心配そうな表情になった。

「エクト、あなた……」

「関係ありませんっ。母上、とにかくぼくは姉上の子が無事に生まれるまでは戻りませんからねっ!」

 エクトは逃げるように家から出て行った。追いかけようかと腰を上げたレオナを、エニフィーユが引き戻す。

「放っておいてよろしい。少し頭を冷やさねば。全く、安寧を与える夜の神が、あのように情けない有様でどうするのか」

「お母さま……何があったのですか?」

「うん? いやいや、アレが気にかけていた娘がいたのじゃが、他の男に嫁いでいったようでな」

「まぁ……」

 母神はふうとため息をつく。

「つい先日のことなのじゃ――」


弟神、実は何かあった模様です。

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