女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・12
嫁・実りの女神の欠片であるレオナのおなかは、かなり大きくなってきた。
毎日毎日、誰か彼かが彼女のおなかを撫で、元気に育つようにと願ってくれる。
もちろん、夫であるザーフもそうしたいのだが。
「姉上、お加減いかがですか。雑用なら僕がしますから」
……シスコン義弟、夜の神エクトの欠片が、夫が近付く隙を与えない。
「ありがとう、エクト。でもね、少しは動かないと、難産になると聞いたの。だから、家のことくらいはしないとね」
「ご無理はしないようにしてください。おなかの子のためにも」
「ええ。本当にありがとう」
「……畑にいってくる……」
内心で泣きながら、仕事道具をかついて畑に向かうしかないザーフであった。
新婚のはずだ。そんでもって、初めての子供が嫁のおなかにいて、今最高に幸せのはずなのに、義弟が居候しているので、嫁とマトモに話もできない。
正直、寂しい。
「……うーん……こういう形で苦労するとは……」
彼女が神の欠片と分かっていて愛した。想いがかなわずとも、彼女を護ろうと思った。
彼女が想いに応えてくれてからは、どんな困難があろうとも彼女を護って愛していくと決めた。
神の欠片の彼女が、幸せにこの世界で生きていけるように。誰にも彼女の力を利用させるような真似はさせない。追っ手がかかろうが何者かに狙われようが、はねのける気概を持っていたつもりだ。
が、彼女の身内(?)に苦労するとは。
「……結婚って、大変なんだな……」
畑の作物を収穫しながら、しみじみと呟く。
これが人間の身内なら、いろいろと考えて穏便に済む方法を選ぶが、相手は神。しかも、嫁の親は主神と母神。
ちょっと機嫌を損ねたら、大災害に繋がる。
うかつなことはできないのだ。
「嫁姑問題じゃないだけマシかなー」
話に聞いただけだが、かなり壮絶らしい問題を思い浮かべ、ザーフは苦笑。
ザーフは天涯孤独で、身内はいない。身内同然の仲間はいるが、血の繋がった身内はいなかった。
今は、家族ができた。
「うん。ま、にぎやかでいいよな」
それがたとえこちらを敵視している義弟でも、家族は家族。
レオナを気遣ってくれていることはありがたい。エクトがレオナのことを大事にしているのは確かなことなので、素直に感謝しておこう。
大根を引っこ抜きながら、そう考えた。
瞬間、ゴロガラゴロゴロ!! と雷鳴が轟き、稲光が落ちた。
……家の方向である。
「……お義母さん、かな?」
また降りてこられたのか、と、ザーフは微笑んだ。
娘の初産が心配なのだろう。
「俺たちって、幸せだなぁ……」
のんきにそう呟いた。
のほほん。そしてお姑さんまた降臨?




