女神に惚れた人間と、女神が愛した人間と・9
怖い。
目の前で、これでもかとしかめっ面をしている義父。
ザーフは笑みを浮かべることもできなかった。とりあえず、お茶を運んできたものの、義父は口をつける様子もない。むしろ、娘に手を出した婿が淹れた茶など飲めるか、と、オーラで述べている気がする。
「お父様、喜んでくださらないの?」
悲しそうなレオナの言葉に、主神・ゼオ(の欠片)はあわてた。
「そのようなことはないぞ。喜んでおる。可愛い娘が子を為したのだ。喜ばしいことではないか」
「では、何故そのような怖いお顔をなさっているの?」
「…………男親はいろいろと複雑なのだ」
おじいちゃんになることは嬉しいようだが、なんかこう、素直に喜べないようである。
もし娘が生まれたら俺もこういう父親になるのだろうか。
ザーフはなんとなくそう思った。
レオナのおなかはまだまだ目立たない。
仲間も皆気にしてくれていて、しょっちゅう様子を見に来てくれているし、村の人たちもとても良くしてくれている。
そんな中、主神であり、父神であるゼオ(の欠片)がまたもやご光臨。
以前は母神エニフィーユに止められたはず。異常天候を起こすような動揺をしておきながら、若夫婦の家を訪れた父神は、なんということはないと言いたげに、涼しい顔を装っていた。
装ってはいたけれども。
「お父様。まだ生まれるには早いですわ。人間の子供は十月十日かかりますのよ?」
「ぬ? 神の子なら一月もかからぬだろうが」
「わたしとザーフの子供は、人間ですわ」
「お前の子だ。神であろう?」
「……どちらでも良いですけど、まだ生まれてきません。産着をこんなに持ってこられてもまだまだ着られませんわ」
「む、そうか? うーむ、ギャレオンを急かしてきたのだが」
はた織りの神を急かして作ったらしい産着の山。多分、百着はある。はた織りの神は相当働いたようだ。
「こちらもまだ使いませんわ」
「む? しかし子供用のベッドは要るだろう?」
「必要ですけど、まだ生まれていませんもの。あと、こんなに大きいと家に入りません」
「シグレットを急かしたのだが」
木工の神を急かしたらしい、子供用のベッドは、大人が充分横になれるサイズだった。小さな家に住んでいるザーフとレオナには、ちょっと邪魔になる大きさだ。
「この半分の大きさで充分ですわ」
「……そうか。では、持って還ってシグレットに作り直させよう」
主神、傍若無人。
娘&初孫可愛さに暴走しているようである。
おとーさん、職権乱用&暴走中。




