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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第63話 フィーナさんとの月夜の語らい②

「レーデリメニアを治める王家の末姫として生まれた私には、この美しい容姿以外に誇れるものが何もありませんでした。反対に兄や姉はとても優秀で……幼い頃は、常に劣等感を抱いていたものです」


 フィーナさんのご兄姉は、とても優秀なのだそうだ。年が離れていることもあり、何一つ敵う気がしなかったという。ゆえに、幼いながらも引け目を感じていた。


 だが、そんなある日。

 王女としての教育の一貫で、城下町にある孤児院の慰問へ向かうことに。少しでも気分転換になれば、という周囲の気遣いもあったのだろう。


 本人としてはあまり気が進まなかったらしい。それまで王宮にこもりっきりで、同年代の子どもとの関わりが薄く、どう接していいかわからなかったから。


 ところが、この慰問はフィーナさんに予想外の喜びを齎す。

 孤児院の子どもたちはとびっきりの笑顔で迎えてくれたばかりか、優しく手を取って遊びに誘ってくれたのだ。


 いつしか、時間を忘れて楽しんでいた。

 気づけば、ただのフィーナちゃんでいられた。


 それ以来、同年代の子どもたちと遊ぶのにすっかり夢中となり、城から度々抜け出すようになったのだとか。堅苦しい作法やしきたりに囚われず、気楽に笑える時間を知ったことで、フィーナさんは型に嵌まらない振る舞いを好むようになっていく。


 やがて幼き姫は成長し、自由奔放な性格で知られながらも、その美貌から国民的人気を博すことになるのだった。


 当時仲良くなった子どもたちも今や立派な大人になっており、フィーナさんのことを『姫様』と呼ぶようになってしまったそうだ。


「そのような経験を通じて、私はすっかり公務嫌いな姫に育ってしまいました。ですが、家族はこんな私でも心から愛してくれています。だから、今回のことは恩を返す良い機会に思えたのです」


「なるほど。やはり自分から、あえて汚名を被る覚悟を決めたんですね……ご立派だと思います。なかなか出来ることじゃありません」


「お褒めいただき光栄です、サクタローさん。けれど、やはり過大評価ですね。今回は、たまたまお役に立てることがあっただけの話なのです。日頃の迷惑を思えば、このくらいなんでもありませんもの」


 だとしても、進んで汚名を被るなんて簡単にできることじゃない。何より、人に悪く思われるのは酷く怖い。


 もちろん欺瞞と受け取る者もいるだろう。それでも、誰かを傷つけようとしたわけじゃない。むしろ自らを犠牲にしてでも守ろうとした。だから、貴女はとても立派なのです――俺はそんな気持ちを素直に口にした。


 しかし、フィーナさんの表情は浮かない。

 どこか迷うような、それでいて申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「少し話はそれますが、この場を借りて一つ謝罪をさせてください……この聖堂の惨状が引き起こされたのは、私が原因かもしれません」


 言って、折り目正しく頭を下げるフィーナさん。

 一方、俺と隣に立つサリアさんは困惑気味に顔を見合わせた。


 この聖堂を荒らした黒幕は、今のところ『ラクスジットの高位の貴族』という線が濃厚だ。時系列からしても、女神教の一行が到着する前の出来事である。


 そもそも、フィーナさん自身はお忍びでの来訪と聞く。どこに原因があるのか、いまひとつ関連性が見えてこない。


「確かに、実行したのはこの国の貴族でしょう。ですが、どことなく陰謀の気配を感じるのです。私が……というよりは、女神教の特使団の来訪に合わせ、この惨事が引き起こされた。そのような気がしてなりません」


 何者かが良からぬ意図を持ち、女神教の特使団の来訪に合わせてこの聖堂を荒らした……もしかしたら、この街の支配体制に楔を打ち込みたいのかも。


 なんにせよ、ろくな考えではない。権力争いがしたいなら、貴族街の中でやってくれたらいいのに。


「先ほどお話したように、私は子どもに救われました。それゆえ深く感謝し、日頃から愛情を持って接しています。にもかかわらず、私が原因で被害が生じた……」 


 それが気掛かりで、せめてもの償いに廃聖堂の掃除を申し出たのだとか。

 なるほど、話の筋がつながってきたような気がする。そのうえで、やはりフィーナさんは悪くないと思うし、あらかじめ予測しろと言うのも酷だ。


 まずもって責めを負うべきは、良からぬ企みのために他人を利用した悪い大人である。


 フィーナさんとしては、真珠の問題が解決したら公爵家へ申し入れするつもりらしい……これ、なるべく早くゴルドさんに相談した方がいいかもしれない。なんとなくそんな気がする。


「なあ、フィーナ。結局、海神の涙はどうやって保管しているんだ?」


 ふとサリアさんが口を挟む。

 言われてみれば、話の流れで後回しになっていたな。真珠を譲るのはいいが、またすぐ劣化しましたでは元の木阿弥だ。安心する意味でも、ぜひ保管方法を聞いておきたい。


「そういえば、説明が抜けていましたね。我が国には『悠刻の籠』という国宝があります。その内部で、海神の涙が付随する祭具を保管していました」


 レーデリメニアが保有する国宝の一つ、悠刻の籠――蓋を閉じている間は、内部の時の流れが極めて緩慢になるという。確たる根拠はないが、経験則としてそう伝えられているのだとか。


 記録によれば、劣化した真珠は三百年も前のものらしい。

 これぞ魔法の道具、といった印象である。他にも、家屋一つ分の荷物を楽々収納できる小袋などが存在するそうだ。


 非常に興味深い……いつか見学させてもらえないだろうか。

 これら魔法の道具の発見場所は、レーデリメニアに存在する迷宮。


 なお、海の階層は未発見。もし見つかっていれば、俺たちがこうして顔を合わせることもなかったかもしれない。


 さて、おおよその疑問は解消した。

 今宵の語らいはこの辺で切り上げるとしよう。うちの獣耳幼女たちがもし目を覚まし、俺たちがいないとなれば大騒ぎするはず。


 温かな紅茶を入れた水筒を手渡し、フィーナさんの寝所を再度整える。それから『おやすみ』の挨拶を告げ、サリアさんと一緒に我が家へ帰還した。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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