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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第61話 耳に届く日本語

ステーキ→ハンバーグに変更しました。

 フィーナさんたちとの会談はひとまず終了となった。

 挨拶をして我が家へ引き上げたら、俺はまずお利口さんにしていた獣耳幼女たちの頭を撫で回す。ついでに、なぜか順番待ちしていたサリアさんの頭もワシャワシャしておいた。


 続けてみんなに飲み物を用意し、居間のコタツでひと息つく。

 そのまま少しまったりしたら、今度はスマホを取り出してメッセージアプリを立ち上げる。


『急遽、真珠が必要になりました。できれば上物がいいです。ただ加工前の物が欲しいので、相談に乗ってくれそうな販売店とかしらないかな』


 そんな文面を作成し、送信する。

 相手はもちろん、幼馴染にして義兄のセイちゃんだ。


 レスポンスは、わずか数秒以内。既読がつくとほぼ同時に、着信のアイコンが画面に表示された。


 コタツから出た俺は、台所テーブルの椅子に腰掛けつつ応答をタップする。みんながアニメを見始めたので、通話だと邪魔しちゃうからね。


『おつかれ、サクちゃん。リバイバルブームなんかの影響で、真珠の需要は少し上がってるけどさあ……一般的な女性なら、ダイヤモンドとかプレゼントした方がウケいいと思うよ』


「いやいや、違うってセイちゃん。単純に真珠を欲しがってる人がいるんだよ。半分人助けみたいな感じかな」


 開口一番、勘違いでダイヤモンドをオススメしてくるセイちゃん。

 確かに、昨今は女性に真珠を送るって聞かないもんなあ……あったとしても、もう少し年を取ってからの話だろう。


 そもそも相手は、異世界のエルフのお姫様だ。一般的な女性と同じ枠に含んでいいのかもわからない。


『まあ、いいけどさ。とりあえず、そういうのに詳しそうな知り合いを紹介するよ。何かと気の利く人だから、サクちゃんも仲良くしておきな』


 セイちゃん曰く、コンサルタントとは名ばかりの便利屋を営む知人がいるらしい。その方であれば、上質な真珠くらいならいくらでも用意できるのでは、とのこと。

 めちゃくちゃありがたい。最悪は、自分で販売店を巡ろうと思っていたところだ。


『ていうか、真珠だったらネットで格安で売ってるけど、それじゃダメなの?』


「うーん……ダメかな。軽く眺めてみたけど、形が歪だったりして色々と安い理由があるみたい。ちょっと事情があって、できるだけ質の良いものが欲しいんだよね」


 ネットを見れば、格安の真珠はいくらでも転がっている。しかし俺が求めているものは、女神ミレイシュへの捧げ物として相応しい逸品だ。


 それに、ただフィーナさんの問題を解決するだけでは足りない。うちの獣耳幼女たちとの縁を作ってくれたお礼の気持ちを込め、出来る限り上質な真珠を用意したいと思っている。金に糸目は……ある程度までは付けないつもりだ。


『ほーん……例の毛髪薬といい、ずいぶんと楽しそうなことをやってるみたいだね? 俺もそろそろ混ぜてよ。あ、そうだ。税理士も近々紹介するから。それと、会社をやるって話は前向きに考えてくれてる?』


 実は先日セイちゃんと再会して以来、一緒に起業しようと誘われている。

 主となる商材は、もちろん例の異世界産の毛髪薬。ただし、そのまま製品として販売するのはどう考えてもマズい。そこで、『成分調査や他の液体で薄めて使えないか検証しよう』という話になっていた。


 セイちゃんからは、具体的なプランの提案も受けている。

 しかし、俺がのんびりしすぎてまったく進んでない……が、日本での生活のことを真面目に考えると、どこかで大きく動く必要があるよな。


 税理士さんの件も、先日の五百万の振り込みに対する援助だ。本当に頼りになる兄貴である。


『そうそう。今度ネットで面白い発表するから、楽しみにしててよ』


「なにそれ、もう気になるんだけど。あ、それでさ――」


 本題が片付いたら、近況報告がてらしばし雑談を楽しむ。

 セイちゃんのしょうもない冗談に一際大きな笑い声を上げて、ふと思う。


 この頼れる兄貴にも、獣耳幼女たちやサリアさんを紹介したい。それだけにとどまらず、異世界の街も案内したい。きっとビックリするだろうし、大はしゃぎしそうだ。


『じゃあ、そろそろ俺は仕事に戻るかな。近いうちそっちに顔を出すから、酒でも飲もう』


「わかった。楽しみにしてる。色々と手配してくれてありがとね。じゃあ、また」


 スマホの画面をタップし、通話を切った。

 次の瞬間、しんとした静けさが台所に満ちる――が、すぐにトタトタと賑やかな足音が上塗りしてくれる。それも三人分だ。


「サクタローさん、おはなしもういい……?」


 エマが、台所の入口からひょっこり顔を見せてくれた。その背後から、リリとルルが同じようにこちらを覗き込んでいる。揃って獣耳と尻尾を揺らす仕草がなんとも可愛らしい。


 俺は椅子から降り、片膝をついて両手を広げた。

 間を空けず、三人は『きゃーっ!』と楽しげな声を上げて懐へ飛び込んでくる。


「おっと、どうしたの? アニメはもうおしまいかな」


「あの、あの、おぼえたのっ!」


 なにやら、大興奮のエマ。リリとルルも、小さく飛び跳ねて『きいてきいて!』と大騒ぎ。


 いったい何を聞けばいいのかな、と俺が尋ね返そうとしたそのとき。三人は顔を見合わせつつ一歩下がり、せーのとタイミング合わせて声を重ねた。


『サクタロー、ありがとう!』


 急にどうしたのだろう。お礼だったら、いつも言ってくれて……あれ、ちょっと待て。いま日本語だけが聞こえてきたような?


 もしかして、三人が覚えたのって――あまりの衝撃に、俺は思わず固まってしまう。しかも、それで終わりじゃなかった。胸の奥がじんわり熱くなるような嬉しい驚きが、直後に控えていたのである。


『エマだよっ! フェアリープリンセスみたいにかわいい!』


『リリは、おりこうさんでかわいい!』


『ルルちゃん、かわいい!』


 立て続けに三度、日本語が俺の耳に届く。

 エマ、リリ、ルル。三人は弾けんばかりの笑顔を浮かべ、順番にとっても素敵な自己紹介をしてくれたのだ。 


 これはもう、断じて聞き間違いなどではない……どうやらこの子たちは、アニメを通じて日本語を習得してしまったのだ。短い文章とはいえ、なんて賢いのだろう! 


 天使なうえに頭まで良いなんて、尊いが天元突破しそうだ。否、したッ!

 何より、俺の名前を呼んでくれた。我が子に初めてパパと呼ばれたなら、きっとこのような温かい気持ちを抱くのだろう。


 俺はまた両腕を広げ、獣耳幼女たちを思いっきり抱きしめた。

 日本語は先ほどの自己紹介だけで、すぐ異世界の言葉に戻ってしまった。それでも、嬉しくて堪らない。


「わあっ! サクタローさんあったかい!」


「ねぇ、サクタロー! さっきのあってた?」


「ルル、かわいい?」


 それぞれに返事をしながら、獣耳ごと頭を撫で回していく。

 三人とも可愛くて仕方がない。きっと俺は、この子たちのためなら笑顔で死ねる。もっとも、うんと長生きして思い出を山ほどつくるつもりだけど。


 なんにせよ、今日は記憶に残る特別な日となった。日本語を覚えたメモリアルデー。晩ごはんは、大好評だったハンバーグにしようかな。みんなに聞いたら大賛成だった。


 と、そこで。

 エマの亜麻色の髪の毛越しに、立ちつくすサリアさんの姿が見えた。


「何を喜んでいるのか、まったくわからん……私だけ仲間外れなんて、ずるいっ!」


 そういえばサリアさんは、俺たちと違って日本語を認識できないんだっけ……こちらとしてもかなり寂しい。彼女は共に暮らす仲間で、今や家族も同然なのだ。


 大人と言ってもいい年頃の女性が本気でダダをこねるのはアレだけど、一度フィーナさんに相談してみてもいいかも。なにせミレイシュ様の巫女だ。


 とりあえず、獣耳幼女たちと一緒にサリアさんを慰めておいた。その流れで、今度ファストフード店へ連れて行くと約束してしまったが、彼女が機嫌を直してくれるなら安いものだ。


 その晩は、やはりみんなでハンバーグを食べた。日本語を覚えたメモリアルデーなので、肉のおかわりもありだ。たくさん食べて、たくさん笑って、とても幸せなひとときとなった。


 そして夜も更け、獣耳幼女たちが寝静まったころ。

 俺とサリアさんはそっと居間を抜け出し、廃聖堂へ移動する――フロアへ足を踏み入れた途端、欠けた屋根から注ぐ月光を浴びるフィーナさんの後ろ姿が目に入る。


「あら、こんばんは。良い夜ですね」


 こちらに気づくと、彼女はくるりと振り返る。続けて、淀みなくカーテシーでのご挨拶。月の光と持ち前の美貌が相まって、この世のものとは思えないほどの美しさを湛えていた。


 真珠が手に入るまではここで寝泊まりすると言っていたのだが、本当に実行するなんて……意外と根性のあるお姫様なのかもしれないな。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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― 新着の感想 ―
はじめまして、木兎と言います。よろしくお願いします m(_ _)m毎回、更新を楽しみにしてます。 いつもエマちゃん、リリちゃん、ルルちゃんとサリアさんの可愛さに癒され毎回楽しく読ませてもらってます! …
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