第二十五話 幸せな時間ですね。旦那様?
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あれからも、本題に入ろうとするたびに、上手くはぐらかされている。
そうこうするうちに、そんなに言いたくないのなら、ムリに聞き出すこともないかと思い始めてしまった。どうしてこうも、聞き出さなければいけないと思い込んでいたのかと不思議に思えてきてしまったくらいだ。
「さ、行こう?」
公爵家の夫人として、最高にめかしこんで美しく化粧もしてもらい私は詐欺レベルできれいになっている。それを見た、リーフェン公爵は「ごめん……。ルティアがローブがないと出掛けられなくて良かったと初めて本気で思ってる」と失礼かつ不穏なことを言い出した。
今日は、陛下に謁見のため出かけることになった。半日もつローブを着込む。そして、予備にもう一つ。さらにもう一つ。
――――泊まり込むつもりですか?
「念のためだ」
リーフェン公爵はこともなげにそう言ったけれど、五枚もあったら一年間のアイシュタール公爵家の予算に近いものがあるんですが?
陛下が餞別に持たせてくれたローブ。周りからは、着の身着のままで追い出された愛されない姫に見えたかもしれないけれど、私自身はあまりのその価値に震えた記憶がよみがえる。
「大丈夫……。念のためだから。一応半日で帰ってくるつもり。だって、今度一緒に出掛ける分がなくなってしまう」
「えぇ……」
「ああ、でももっと遠くには、魔力を持たない人間ばかりの村があるらしいね。そこを領地にして引っ越すのはどうかな?」
国家の英雄。国王以外では誰よりも力を持つアイシュタール公爵家の当主様が不穏なことを言い出した。それもいいかもしれないけれど、と一瞬思ってしまったけれど、こうなった幼馴染は私が止めるしかない。それは良くわかっている。
「この屋敷が気に入っているの……。せっかく植えた花も、もうすぐ咲くのが楽しみだわ」
「そうだね……ルティア。――――ごめんね」
たぶん、そのごめんねには、たくさんの意味が込められている気がした。
そういえば、相変わらず私と一緒の時は魔力を抑える魔道具をつけて過ごしているリーフェン公爵。ローブを纏ったのを見届けて、その魔道具をミスミ騎士長に外してもらっていた。
あなたが、犯罪者向けの魔道具を公爵につけた共犯者でしたか。
ミスミ騎士長をにらみつけると、たぶんその意味が分かっているのに逆に笑顔を返される。
そういうところ、昔から食えない人ですよね……。
私はローブを纏ったまま、今度はリーフェン公爵を睨みつけた。
すると、鼻と鼻がくっついてしまいそうなほど、リーフェン公爵が顔を近づけてきた。
「これさえあれば、ルティアとずっと見つめ合っていられるね? 俺といる間、いつもそのローブを纏っていられるようにすればすべて解決する」
「は? いくらかかると思っているんですか」
「うーん。それの素材を手に入れた時にほかの素材を手に入れたから、むしろプラスなんだよなぁ……。まあ、ちょっと手に入れるのに命がけだけど」
「だめですよ」
ニヤリと笑った公爵は、私に口づけする。これは、魔力を返すためではないただのキス。
「ね、これを纏って今夜俺と一緒に過ごそう? 俺の……奥さん?」
これから、王宮に出かけるのに、せっかくの化粧が落ちてしまうじゃないか。
それでも、私はうれし涙を止めることがどうしてもできなかった。
一章完結です。ここまでご覧いただきましてありがとうございました。
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