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 ――そして、遂に〝災厄の時〟はやってきた……。


 ――穴だらけの会議室。

『おう、きたか。入れ』

 扉をノックすると、すぐに神王様の声が聞こえてきた。それに私は、「失礼します!」と大きな声で応え、扉を開けて三人といっしょに部屋の中に入ると……当然ではあったけれど、そこには各世界を納められている、〝三人の王〟の姿があった。

「……エル殿、私も一応冥界のお「――大変お待たせいたしました。〝予言の子〟・エル。並びに、ファナ、シーダ、リムル……全員到着いたしました」

「……無視なんです「――うむ。悪かったの、急に呼びつけたりなどして……ほれ、そこの神王のすぐ脇に置いてある紙が〝誓約書〟じゃ。と言っても、妾たちから見れば、頭の固い連中を〝安心〟させるためだけの、ただの〝紙切れ〟にすぎんのじゃがの? ……そこに名前を書いてくれ」

「ありがとうご応えたのは、部屋に入って真正面。中央のいつもの席に座る霊王様だった。

「本当にあり見れば、私から見て部屋の右側……同じくいつもの席に座る神王様の隣に、一枚の紙が置かれていた。

 私はそこに、「失礼します」と一言置いてから誓約書を手に取り、文面に目を通す……と、そこに書かれていたのは、半ば予想どおり……夕方、外出する際に私が上級兵たちと交わしたような討論を文章化し、もしそれに反することがあった場合は、という……言っては悪いかもしれないし、仕方がないことなのかもしれないけれど……まさに〝自分の身を護る〟ためだけの〝保険〟……いや、〝保身〟そのものだった。

「……ま、あんまり深く読まねぇこったな。気を悪くするだけだぜ?」

「神王様……」

 見上げると、ふん、と頬杖をついた神王様は続けた。

「いいからさっさと書いちまえよ。どーせんなもん、霊王の言うとおり〝紙切れ〟も同然なんだ。いざとなったら俺たちが何とかしてやるからよ?」

 それに、と反対側の席に座っていた魔王様も話す。

「それさえ終わっちまえば、俺様たちの今日の仕事はやっと終わりなんだ。早いこと終わらせて、お前らが作ったとかいうジュースを飲ませてくれよ」

「……承知いたしました。では…………」

 誓約書の隣に置かれていた羽ペンに手を伸ばし、私は欄の一番上に名前を書き入れた。

 それから、後ろにいた三人に向かって話す。

「――では、皆さんも同じように名前を書き入れてください。……あ、順番は一応予言のとおりに、私に続いてリムルさん、ファナさん、シーダさんの順番でお願いします」

 はーい。応えた三人は、私の言ったとおり、順番にそこに名前を書き入れた。

 そして、シーダさんが書き終わった――瞬間だった。誓約書は、ふわり、と宙を舞い、霊王様の下へと飛んで行ったのだ。

 どうやら、というまでもなく、誓約書にはすでにそういう魔法がかかっていたらしい。

 霊王様は手元に届いた誓約書を確認すると、うむ、と頷いてから話した。

「間違いなく……これで頼みごとは終わりじゃ。ご苦労じゃったの」

「いえ。私たちはただ名前を書いただけですので……」

 あ、それよりも……と私は、後ろにいた三人のことを一瞬だけ見て、すぐに続けた。

「さっそくですが、私たちの作ったジュースはいかがですか? よろしければ皆様にお注ぎいたしますが?」

「む? おお、そうじゃったの」

 じゃが……と、なぜか霊王様は申しわけなさそうな表情で応えた。

「……せっかく持ってきてもらったところ悪いのじゃが、妾は遠慮させてもらおうかの? 腹の子……エインセルのこともあるしの?」

「あ! こ、これは気配りが足りず、すみませんでした! 以後気をつけます!」

「じゃから、いちいちそんなにかしこまらんでもよいと言うておるのに……まぁよい。それより、お前たちもせっかく持ってきたのにすまんの? 代わりに皆で飲んでくれ」

「あ! 私は全然気にしませんから!」「ボクも!」「あたしも!」

「かかか! 相も変わらず良い子らじゃのう!」

 では、良い子ついでに……霊王様はあごで神王様と魔王様を差し、続けた。

「こやつらに注いでやってくれ。妾はその感想を聞いて味を想像することとしよう」

「「「はーい!」」」

 元気に返事を返した三人は、それから手に持っていた道具を役割として……つまり、ファナさんがコップを配り、リムルさんが鍋を持ち、シーダさんがそれを注ぐ……と、見事な連携でそれを完了させた。

 瞬間、おお! と神王様たちから歓声が上がった。

「〝トマトジュース〟か! しかも〝血の色〟のように〝真っ赤〟じゃねぇか! こりゃあ鮮度バツグンだな!!」

「俺様こういうの結構好きだぜ? なんつーか、〝生き血をすすってる〟みたいでカッコイイからな!」

 ――そう。そこにあったのは、みんなといっしょに作っていたからもちろん知っているけれど、トウのきれいなピンク色からは〝かけ離れた深紅の液体〟だった。

 それは神王様のおっしゃるとおり、〝トマトジュース〟や〝血〟のように見えたし、魔王様のおっしゃるとおり、それを飲む姿を想像すると、まさに、〝生き血をすすって〟いる……よう…な…………

 ……。

 ……。

 ……。

 ……あれ???

 ごしごしごしごし……私は両目を擦って今一度それを、よ~~~~~っく! 見てみると、そこにあったのは……

 ――〝トマトジュース〟のように〝赤く〟、

 ――〝生き血〟のようにどこまでも〝深紅で、

 ――トウのピンク色からは〝遥かにかけ離れた〟、


 そんな、〝謎の液体〟だった…………。







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