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――お菓子屋さんを出る際、出口付近にあったカラフルな〝ジュース〟。それがどうしても飲みたくなってしまい、ダダをコネ始めたシーダさんを鎮めるために、初めにあげたおこづかいの予算外ではあったけれど、安かったということもあって、私はそれを全員に買ってあげることにした。
ちなみに、
シーダさんが選んだのは、透明だけど甘い炭酸ジュースで、
ファナさんはオレンジ味の炭酸ジュース。
私は神界ではわりと有名なショウガ味の炭酸ジュースで、
そして最後にリムルさんは、余ったおこづかいも使って選んだ、一番高い、アイスが乗ったメロン味の炭酸ジュース。
――である。
……何か、〝自分たちの名前にすごく似ている〟気がするな~? な~んて思ったけれど、まぁ気のせいだろう。
って、そんなことよりも、だ……そのジュースを飲んでいた時のこと。リムルさんが突然、こんなことを言い始めた。
「……ねぇ、エルさん? これって……〝自分たち〟で作れないの?」
結果が、現在――
「――はい、では皆さん? これから〝トウのコンポート〟というジュースを作りたいと思います。準備はいいですか~?」
――神王・ウォーダン様の神殿。私の部屋。
リムルさんの一言から始まったのは、〝オリジナルのジュース〟作りだった。――と言ってももちろん、子どもといっしょにでも作れるような、簡単な物である。
私は食堂から材料を分けてもらった後、部屋に戻って準備し、全員に手を洗わせてからそう確認すると、「はいは~い! エルさんしつも~ん!」――とそこにさっそく質問が飛んだ。
私は声がした方向を振り向くと、手を挙げていたのは、神殿に戻ってきてようやく枷を外すことが許された、リムルさんの姿だった。
リムルさんは一度手を引っ込め、自分の目の前に置かれたトウを持って続けた。
「とうのこんぽーと? っていうか、そもそもこの〝とう〟って何なの? 何か、ピンク色の〝お尻〟みたいな形をしてるけど……本当においしいの、これ?」
「ん? ああ、トウのことですか? もちろん美味しいですよ! ――このトウという果物は人間界でも一応栽培はされているそうですが、神界で特に栽培が盛んに行われているものなんですよ。果肉はとっても甘くて、しかも良い香りがすることで有名です。皮の上からでも分かりますので、よかったら嗅いでみてください」
どれどれ……言われて、リムルさん、さらにはファナさんとシーダさんもいっしょになってトウの匂いを嗅いでみる。すると……
「「「ホントだーっ!!!」」」
見事に三人揃って同じ言葉。私はそれがおかしくって思わず笑ってしまう。
「ふふふ♪ そうでしょう? 今回はこれを使って、〝コンポート〟……つまりはお砂糖や水といっしょに〝煮る〟料理を作っていきたいと思っているんですよ」
「え……果物なのに、煮ちゃうの?」
今度はファナさんから質問が飛んだ。私はそれにもすぐに答える。
「はい、そうですよ? 人間界にだって……ほら、この間皆さんに買ってきてあげた、焼きリンゴとかあるじゃないですか? 何でも、というわけではないのですが、果物は火を通すと甘くなるんですよ。ですので、心配なんかしなくても、きっとファナさんにも気に入ってもらえると思いますよ?」
「ああ、そういえばリンゴだって焼くもんね! そっかぁ! よかったぁ~」
「ねぇねぇねぇ! そんなのどうだっていいから、早く作ろうよ! 早くしないとゴハンの時間になっちゃうよ!」
おっと、そうでしたね。……時刻は、〝十七時半〟……シーダさんの言うとおり早く作らないと、ゴハンを食べそびれちゃいますね!
そう思った私は、さっそく調理を開始することにした。
「では、改めまして……まずは、このトウの皮をむいてください。あ、手で簡単にむけますので、まだナイフ(※刃は付いていない。食事の際に使う方のナイフ)は使わなくても大丈夫ですよ! それが終わったら、このようにナイフで切れ目を入れて、中に入っている大きな種を取り出します。……とりあえずはここまでやってみましょう!」
は~い! 大きな返事をして、三人はいっしょうけんめい作業を開始した。
「えっと、皮をむいて……お姉ちゃん、これくらい?」
「ん? どれどれ……って! まだ細かいのがいっぱいついてるじゃない! 全部取るの!」
「で、それが取れたら今度はナイフで……あ! ホントだ! でっかい種が入ってる! あたしこんなの初めて見た!」
……うん♪ 順調のようですね!
私は全員が種まで取り終わったのを確認してから、次の作業を始めた。
「次は、まな板の上でこのように細かく切ってください。安全にできるように今回は刃の付いていないナイフで切っているので大量に汁が出ますが、出た汁は私が魔法で集めますので、安心して切ってくださいね? 全員分切り終ったら、今度はそこにお砂糖と水を入れて煮始めますので」
「わかりました! ――あ、でも……エルさん?」
と、今度はファナさんから質問が飛んだ。
何ですか? 私が聞くと、ファナさんは、キョロキョロ、と周りを見回しながら続けた。
「うん……あの、煮るって……いったいどこで煮るんですか? ここにはカマドとか、暖炉もないですよね? まさかお部屋の中でたき火をするわけにもいかないし……どうやって煮るんですか? まさか、魔法で一気に、ボワーッ! ……って?」
「え? ああ、なんだ。そのことですか。それなら……」
す……私はキッチンに設置された、真っ黒な台の方向を指差して話した。
「あそこにある、黒い台でできますよ?」
「黒い台……? あそこでたき火をするんですか?」
いえいえ。違いますよ~。私はさらに、テーブルにすでに用意していた鍋を持ち上げ、その鍋の〝底〟をファナさんに見せながら話した。
「――実は、このように、神界にある調理器具のほとんどには、〝専用の魔方陣〟が描かれているんですよ」
魔方陣??? 首を傾げるファナさんに、私は補足を付け足した。
「はい。あの台の下には、外側からは見えないのですが、同じように魔方陣が描かれていまして、鍋の底に彫り込まれている陣に反応して熱くなる仕組みになっているんですよ。ちなみに燃料などはちゃんと入れる場所がありまして、〝マナ〟を含んだ鉱石などを使いますね」
「へ~! なるほど~! そんな仕組みに……」
「ねー! そんなのどうでもいいから早く作ろうよ~! ボクもう切っちゃったよ~?」
え? 気がつくと、本当だ……汁が飛び散ってかなり悲惨な状況にはなっていたものの、すでにシーダさんはトウを細かく切り終っていた。
……まぁ、テーブルはあらかじめきれいにしておきましたし、火を通すから……大丈夫ですよね?
そう思った私は、「早いですね! さすがです!」とそれをホメ、魔法を使って飛び散った汁も含め、細かく切った全てのトウを鍋の中に入れた。それから残りの二人にも話す。
「はい、では同じように切りましょう! 後は、とろとろ、になるまで煮て、冷ましてジュースで割れば完成ですよ! ゴハンを食べ終わったらここに戻ってきて、デザート代わりにみんなで飲みましょう!」
「「「は~い!」」」
――その後、〝オリジナルジュース作り〟は何ごともなく終わり、私たちはそれを冷ましたまま食堂へと向かった。




