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7-7


 ――それから、十分後。


「――そういえばエルさん? さっきの銅貨に描かれてる〝オジサン〟って……誰? 神族のエライ人???」

 私とリムルさんのチームはだいたい選び終わり、余ったお金で何か買える物はないかと探していると、突然リムルさんがそんなことを聞いてきた。

 どうやら、渡された時からずっと気になっていたらしい。遠くの棚から飛んできて、私の手の中にある銅貨を覗き込んできた。

「ああ、これですか?」

 私はそれがもっとよく見えるように、摘み上げてリムルさんに見せながら話した。

「実は、ここに書かれているのは、神王様がまだ〝大人だった頃の姿〟であるらしいんですよ」

「えっ!? これ、神王なの!!?」

 まっさか~? 疑るリムルさんに、本当ですよ! と肯定した。

「実際に神王様本人に確認したことがあるので間違いありません。らしい、と言ったのは、私自身が一度も大人の姿を見たことがないからなんですよ。……まぁ、当たり前と言えばそうなりますけどね? 何しろ神王様が大人の姿だったのは、今から千年も昔のことになりますし」

「……へ~? あの銀色ツンツン髪のお坊ちゃんが、こんなシブくてカッコイイ感じのオジサンに、ねぇ……?」

 ……どうやら、未だに信じられないらしい。ん~??? とリムルさんは目を細めて、銅貨とにらめっこしていた。

 私はそれを見て、ふふふ、と笑ってしまう。――と、その時ふと思い出して、リムルさんに聞いてみた。

「ところでリムルさん? この〝無敵ニガニガ玉〟とか、〝冥界行きトウガラシ〟とか、本当に買うんですか? これって、所謂〝バツゲーム〟用のお菓子ですよ? しかも、かなりキツイ感じの……」

「え? ――ああ、それ? いやほら? だっていっつも普通に遊んでるだけじゃつまんないでしょ? だから、負けたら一個食べる、みたいなことにすればおもしろいかな~? って思って?」

「な、なるほど……」

 ……確かに、それならお互い嫌なはずだし、全力で遊べることになりますね? リムルさんが自分が負けた時のことを考えているのかどうかは不明ですけど…………。

 何てことを考えていると、そこに――

「エルさ~ん! リムちゃ~ん!」

 お会計がある方から、ファナさんたちの声。私は振り向いてそちらを見てみると、シーダさんの手には……一目で分かる。紙袋から溢れんばかりの大量のお菓子。完全に質より量を選んだ結果が抱きしめられていた。

 そして、ファナさんはというと……おや? あれは……。

 見覚えのある……というか、神界ではよく見る〝ソレ〟。私は思わず目をとらわれていると、いつの間にか近くにきていたファナさんが、じゃ~ん❤ とうれしそうに、私に〝ソレ〟を見せつけてきた。

 〝ソレ〟とは、

「エルさん見て見て! ほら! 私〝雲〟買ったんだ!」

 ――そう。〝雲の素〟という粒の大きいお砂糖を熱魔法で溶かし、小さな穴の空いた金属から風魔法で勢いよくそれを噴出させて作るお菓子、正式名・〝雲飴〟だった。

 〝雲〟と略して言うところ。どうやら雲飴は人間界にもあるらしい。……あれ? でも、魔法を使える者がほとんどいないはずの人間界で、いったいどうやって雲飴を作っているのでしょう???

 何かそういう道具でもあるのかな? そんなことを考えながら、私はファナさんに笑顔で答えた。

「ふふ、良かったですね、ファナさん。店員さんに作ってもらったんですか?」

「うん❤ あのね、こう……ブワァ~! ってね? すごかったの!」

 それは良かっ……ん? というか、この興奮の仕方……やはり、人間界では何か別の方法で作っているようですね?

 どうやらファナさんは魔法で雲飴を作るところを初めてみたらしい。きゃーきゃー、ずっと騒いでいた。

 しかし、反対側のシーダさんは、

「……お姉ちゃん何がそんなにうれしいの? 雲って雨を降らせるやつでしょ? ……雨に味なんてないから、それも絶対おいしくないと思うよ?」

 おやおやぁ? ……こちらはどうやら知らない様子だ。

 ……あ、もしかして、大きなお祭りなどがあった日にだけ他の世界の露店が出ていて、それをファナさんだけ食べたことがある、とかなのでしょうか?

「食べてみなきゃわかんないでしょ!」

 と、私が勝手に推理をし……あ、あれ? さっそくハズレましたね? ファナさんの口ぶりからすると、ファナさん自身も食べたことがな……い? のでしょうか???

 くてん、と横に倒れた自分の首を私は元に戻すことができない……仕方なく、そのままのポーズで見守っていると、雲飴を一心に見つめていたファナさんが呟いた。

「……ちょ、ちょっとだけ……食べてみようかな? ……いい? エルさん?」

「え……あ、はい? ボロボロ、食べカスが落ちてしまうような物はダメですが、それなら少しくらいは……」

「……じゃあ」

 ごくり。つば……というか、息を呑みこみ、ファナさんは目をつむって、雲飴にかじりついた。

 ……何で目をつむったのでしょう??? 私が思うが早いか、刹那――

「甘~い❤ おいし~❤❤❤」

 歓喜の声。ファナさんは幸せそうに頬に手を当て、口の中に広がる甘さを堪能していた。

 そして、もう一言……

「私、〝神さま〟になっちゃった……❤」

 …………?????

 ……雲飴を食べただけで、なぜに、神に……???

 …………分からない。

「え!? 甘いの!? お姉ちゃん、ボクにもちょっとだけ食べさせて!」

「え~? ちょっとだけだよ? ……はい」

「ありがと~! ――パク。……ホントだ! 甘い!!」

「でしょ? ――あ、これでシーダも〝神さま〟だね!」

「そうなの? やったー!」

 …………わ、分からない……。







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