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――お菓子専門店【お菓子の家】店内。
「「「す……すっご~~~いっっっ!!!!!」」」
そこに一歩、足を踏み入れた瞬間だった。三人から割れんばかりの歓声が上がったのだ。
……まぁ、それも無理はないかもしれない。なぜなら、前後左右、上下まで。見渡す限り広がっていたのは、お菓子の山、山、山……それも一種類や二種類だけのはずもない。
何十……いや、ヘタをしたら何百だろうか? カラフルな、まさに〝虹色の星〟をちりばめたかのような、そんな夢の光景が広がっていた。
ふふふ♪ 驚く三人の姿を見て私は思わず笑顔になり、同時に心も踊ってしまった。……もしかしたら、自分がまだ子どもだった頃の姿をそこに重ねて、懐かしくなってしまったのかもしれない。昔は本当にお母さんによく連れてきてもらったな~。
「ねねね! ねぇ、エルさん! 早く買おうよ!!」
――と! いつまでも昔のことで、しみじみ、なんてしている場合ではありませんでしたね!
見れば、いつの間にか猛獣は三人に増えてしまっていた。ギラギラ、も三倍に増えてしまっている。
う……これはお金がいくらあっても足りない予感が……そ、そうだ!!
自分のお財布に危機を感じた私は、急いで三人を近くに呼び集め、話した。
「――はい、では皆さん! これから皆さんには〝おこづかい〟をあげますので、手を出していてくださいね~?」
〝おこづかい〟??? 首を傾げながらも、腕を伸ばしてきた三人の手の上(※リムルは枷のせいで手が動かないため、手の甲)に、私はお財布から一枚ずつ銅貨を取り出し、置いた。
すると、さっそくファナさんから声が上がった。
「五百……〝N〟??? エルさん、Nって何ですか?」
「ん? ああ、それは〝ニーベルン〟と読むんですよ? 神界では人間界とは違い、硬貨や紙幣といったお金は全て、このニーベルンという名前で統一されているんですよ。――ちなみに今皆さんに渡したのは〝五百N〟……それだけでも安いお菓子を選べばたくさん買えますし、逆に高いお菓子は一つか二つしか買えません。――皆さん、どれを買うか……慎重に選んで決めてくださいね!」
「なるほど、〝量〟を選ぶか、〝質〟を選ぶか……ってことだね?」
「そうですね。または、〝半分ずつ〟選ぶという選択肢もありますが……あ、リムルさんは枷のせいで持って選んだり、お金を払ったりはできないと思いますので、私がお手伝いしますので安心してくださいね? それと……」
チラリ、と私はシーダさんの方を向くと……〝やはり〟、と言うべきか? シーダさんは銅貨を見つめたまま、固まってしまっていた。
思ったとおりですね……それに気づいた私は、シーダさんの前にしゃがんで話した。
「シーダさん、お金の計算……できますか?」
「……」
ふるふる……首は横に振られた。やはり、まだできないらしい。それを見てファナさんは、ポン、と手を叩いた。
「ああ、そっか……そういえばシーダにはまだ、お金を持たせておつかいに行かせたこと、なかったっけ? 余計なものまで買ってくると悪いからって……」
「……うん。お姉ちゃん一回も行かせてくれなかったんだもん。ボク、文字とかは書けるようになったけど、計算は指の数までしかできないよ?」
指の数……つまり、〝十〟までが今のシーダさんの限界値ということですね? ……限界値の〝五十倍〟もある今の買い物では、到底その力は足りないと……。
では、シーダさんも私といっしょに――そう言いかけた、その時だった。「だいじょうぶ!」ファナさんが声を上げた。
「シーダはお姉ちゃんといっしょに選ぼ! そうすればちょうど二人ずつに分かれられるし、エルさんも大変じゃなくなるから、みんなゆっくり選べるでしょ?」
おお! さすがはお姉さんですね!
頼もしいその意見に賛同した私は、みんなに確認をとった。
「それでいきましょう! ――皆さんも反対意見はありませんね?」
「「「は~い!」」」
「ないようですね! ――では、お菓子選び開始です!」
わ~い❤ 私の合図と共に、三人は各々気になるお菓子が置いてある棚へと走って行った。




