おまけ#6-2
「うんとねぇ? すっごく〝柔らかくて〟、〝気持ちよくて〟……あと、〝いい匂い〟がするところかな?」
……。
……。
……。
――ばっしゃーん!!
あ……ファナさんが〝倒れ〟……!!?
「ファナーーーッッ!!?」
リムルさんが慌てて湯に潜り、ファナさんを救出した。
ゴホゴホ! とほんの少し湯を飲んでしまったようだったけれど、命に別状はな――
「えへ…えへへへへ……だいじょうぶ。シーダは、まだそんなこと知らないもん……シーダは、ずっとかわいい……〝何にも知らない〟、私のかわいい弟だもん……〝おっぱい〟とかそんな、冥王さまみたいに〝変態〟になんか……〝変態〟になんか…………」
……べ、別状はあったようですね。〝心〟に…………。
ファナ、しっかり!! とリムルさんは何度もファナさんを揺さぶったけれど……しばらく帰ってこられそうにはなかった。
……仕方がない。と私は、ここにいる唯一の〝大人〟として、ファナさんを説得することにした。
「……ファナさん。いいですか? よく聞いてくださいね? シーダさんも今はまだ小さな子どもですが、いずれは立派な大人になるはずです。そうなるにつれ……当然、〝男性〟として女性の身体に〝興味〟が出てくるのは当たり前のことなのです。だから――」
「――ねぇ? エルさん? 〝きょーみ〟って何?」
コラ! とリムルさんがシーダさんを怒った。
「今エルさんが大事なお話ししてる最中なの! 黙ってて!」
「え~! でも〝きょーみ〟って何のことなのか知りたいんだも~ん!」
ふふふ、と私はそれに笑顔で答えた。
「シーダさん。つまりはそういうことです。〝知りたい〟っていうことが、〝興味〟なんですよ? ……シーダさんは、女の人の〝おっぱい〟に〝興味〟があるんですよね?」
「え? ……べつに?」
……え?
…………。
ああそっか! と私は慌てて説明した。
「あのですね? 〝興味〟というのは、〝知りたい〟っていう意味の他に、〝触りたい〟とか、そういう意味もあるんですよ。……シーダさんは〝おっぱい〟を〝触りたい〟んですよね?」
「??? べつに?」
……へ???
「どういうこと……?」
首を傾げるシーダさんを見て、リムルさんが唸った。
「……〝おっぱい〟自体は〝大好き〟で、でも〝興味〟はなくてべつに〝触りたい〟とも思わない……う~ん……???」
ねぇ、とリムルさんは改めてシーダさんに質問した。
「シーダは〝おっぱい〟の、どういうところが〝大好き〟なの? もう一度説明してくれる?」
「え? いいけど……えっとね? 〝柔らかくて〟、〝大きくて〟、それで〝いい匂い〟がするところ」
……今度の説明では、〝大きい〟、という言葉が入った。
リムルさんはそれを踏まえてさらに聞く。
「えっと……じゃあ、ということはエルさんみたいに〝大きいおっぱい〟が好きなの?」
「え? 好きだけど……でも、〝お姉ちゃんのおっぱい〟の方が好きだよ?」
????? ……ますます意味が分からなくなってきた。
……〝大きい〟のは好きだけど……まだ、ほんの少し膨らんできたばかりの、ファナさんの〝おっぱい〟の方が好き……とは、どういうことなのだろう?
リムルさんはさらに追及する。
「じゃあ、エルさんとファナの〝おっぱい〟の大きさが、〝同じ〟だったら……どっちが好きなの?」
「お姉ちゃん!」
……即答だ。
「じゃ……じゃあ、ファナの〝おっぱい〟が、あたしと同じくらい、まだ〝ぺったんこ〟だったら……エルさんとどっちがいい?」
「お姉ちゃんだってば!」
……そ、即答だ。
……ということは……え? どういうこと???
堪らず、私は聞いた。
「あの、シーダさん? じゃあ、〝柔らかい〟のと、〝大きい〟のと、〝匂い〟……どれが一番重要なんですか?」
「え? んとねぇ……やっぱり〝匂い〟かな?」
〝匂い〟……シーダさんは俗に言う、〝匂いフェチ〟とか……言うやつなんでしょうか?
「ねぇ? シーダ?」
あまりの意味不明さに逆に帰ってこれたらしい。ファナさんが聞いた。
「私の〝おっぱい〟の〝匂い〟が……そんなに好きなの? 何で???」
「え? だって〝似てる〟から……」
〝似てる〟……?
誰に? そう聞こうとした、瞬間だった。シーダさんはようやく〝答え〟を言い放った。
「――お姉ちゃんの〝おっぱい〟の〝匂い〟ってね? 〝お母さんに似てる〟んだ!」
「「「!!!?????」」」
お……〝お母さん〟!?
――まさかッッ!!?
驚く私たちに気にすることなく、シーダさんは続けた。
「あのね? ボクとお姉ちゃんのお母さん、ボクが一歳くらいの時に病気で〝死んじゃった〟んだって。だからボク、お母さんの〝顔〟も覚えてないんだけど……〝おっぱい〟を飲んでた時の〝匂い〟だけは憶えてるんだ! だからね? それにすっごくよく〝似てる〟お姉ちゃんの〝おっぱい〟がボクは一番好きだし、エルさんのはほんの少ししか似てないけど……でも、抱っこされると、〝大きくて〟、〝柔らかくて〟、〝お母さんに抱っこ〟されてるみたいなんだ! だから、二番目に好き!」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
「……シーダさん。ちょっと、その辺に座って待っていていただけますか?」
「え……べつにいいけど……どうしたの、エルさん?」
いえ、ちょっと……そう呟きつつも、私は二人に〝視線〟を送った。
こくん、と二人はすぐに頷き、何も言わず、シーダさんからは遠く離れたお風呂の端に、私たちは集まった。
それから、私は状況をまとめた。
「……つまり、こういうことですね? ――シーダさんが〝男性〟として成長し始めた、と勝手に思い込んでいた私たちの心の方が、〝穢れて〟いたと? お母さんに対するあんな純粋な思いを持つ小さな子どもに対し、私たちは大人の、〝ねじ曲がった〟、〝邪な感情〟を押しつけていた……と?」
「「……」」
こくん……二人は再び頷いた。
それから、各自反省を述べる……。
「私……シーダのお姉ちゃんなのに……一番シーダのことを〝信じて〟あげなくちゃならないのに、シーダのことを〝信じて〟あげられなかったんだね……ごめんね、シーダ…………」
「……冥王のことをさ? あたしたち〝変態〟とか何とか言ってるけどさ? 結局、あたしたちもそれと〝大差なかった〟んだね……ごめん。シーダ…………」
「――〝秩序を守ることを使命〟とする神族の一人が、こともあろうにあのような幼い子どもの感情を、大人の〝穢れてねじ曲がった邪な感情〟で踏みにじろうとは……すみません、シーダさん…………」
……ごめんね、シーダ…………。
……ごめん。シーダ…………。
……すみません、シーダさん…………。
……。
……。
……。
「…………行きましょうか?」
こくん! ――力強く頷いた二人と共に、私たちはシーダさんの方へと戻った。
「――あれ? お話し終わったの?」
「「「…………」」」
そして、私たちは〝両手〟を大きく広げた。
「え……?」とシーダさんはそれを見て首を傾げたけれど……関係ない。私たちは各自、シーダさんに向かって話した。
「――さ……さぁ! シーダさん? 〝大好きなおっぱい〟ですよ! いくらでも、ぎゅっ、ってしてあげますので、どうぞいらしてください!」
「し……シーダ!! ほら! 〝大好きなお姉ちゃんのおっぱい〟だよ!! お姉ちゃんがいくらでも〝抱っこ〟してあげるから、こっちおいで!!」
「ほ――ほらシーダ! あたしのはまだ〝ぺったんこ〟だし、〝匂い〟も似てないかもしれないけど……と、とにかく〝がんばる〟から!! こっちおいで!!」
「え……え゛……!!?」
ずいっ!! ――私たちは、さらにシーダさんに迫って言った。
「シーダさん❤」
「シーダ❤」
「し…シーダ❤」
「……いや、あの……その…………ッッ!!」
た、たすけてぇぇーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!
「――あ! 待ってください! シーダさん!?」
「――シーダ!? どうしたの!? お姉ちゃんの〝おっぱい〟だよ!!?」
「――えっと……と、とにかく待てーーっっっ!!!」
――この日、シーダさんは私たちに散々追い回されて、遂にはほんの少し、〝おっぱい〟が〝怖く〟なってしまったとか何とか……本当に、すみませんでした。シーダさん……。
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?????
――冥界のとある地、冥王の城。
「――ふっぐうううぅぅぅぅ……!! あうあぅあうぅ!! ぐくぅぅううぅぅぅっっっ!!!」
……私は、泣いていました。なぜかは……分かりません…………。
ただ、〝一つ〟だけ、確かな〝想い〟がありました。
それこそが――
「――いいなぁ~……〝子ども〟っていいなぁ~!! 私も、神王様のように〝子どもの姿〟になれたら、あんなことや、こーんなことも……ッッ!!!」
…………。
……なぜ、突然こんな〝想い〟が生まれてしまったのか? 私にも分かりません。
しかし、そんな〝想い〟を抱えたまま……私は独り、ただずっと……〝泣き続け〟ました。
?????
おまけ #6,シーダは〝おっぱい〟が……好き……??? 終わり。




