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6-23 六話目終わり。




 ――医務室。

「……ふむ。やはり何度調べても〝分からん〟な……魔法以上の〝奇跡〟……そう結論づける他ないの?」

 医務室のベットの上で、ぐったり、するあたしの隣……一度は〝死〟すら宣告された弟は、あろうことに、霊王さまの診察を受けながら、むしゃむしゃむしゃむしゃ、信じられないような量のゴハンを食べていた。

「……あ、あの……それで? 霊王さま……シーダはもう……?」

「む? ……ああ、まぁ……〝死んだ〟後のこの食欲は異常ではあるとは思うが……まぁ、このシーダのことじゃしな。いつもと変わらんということは、もう〝大丈夫〟じゃろう」

 …………よ、よかった……!!

 安堵の大きなため息をついたあたしは、それからベッドに沈んだ。……そのまま、整理しきれていなかった頭の整理をする。

 あの後……弟が目を覚ました後は本当に大変だった。

 まず霊王さまが慌ててあたしたちを医務室に運ぶように言い、そこで改めて身体中を診察。

 そこで、お腹すいたとダダをコネる弟を静かにさせるため、ファナは食堂に行って大量のゴハンを用意したけれど……足りず、今は追加のゴハンを取りに行っている状態。

 神王とエルさんは、壊れた訓練場の修理の指示や、今回の騒動のまとめという作業を行い、

 魔王と冥王はまとまったそれを、魔法を使って人間界以外の全世界の役所へ伝達。その上で今後の対策を練るとか何とか……。

 ……。

 ……今回、あたしは本当にみんなに迷惑をかけてしまった。

 あとに残ったのは、これだけ大変な作業の山、山、山…………はっきり言って、みんなに会わせる顔がない。――その証拠に……特に、あたしはここに運ばれてからもう数十分も経つというのに、未だに弟の方をしっかりと向くことすらできていなかったのだ。精々横目で、チラリ、と見る程度……。

 ……当たり前だ。身体を乗っ取られていたせいとはいえ、あたしは一度、弟を〝殺した〟のだ。これでまさか〝恨まれない〟というわけがない……きっと、弟はあたしのことを相当に恨んでいることだろう……話すのが、すごく怖かった……。

 ……そして、誰よりも……そんな弟のことを誰よりも心配していたファナは、あたしのことを、いったいどれほど〝憎んで〟……

 ――ガチャ。

 その時だった。突然医務室の扉が開き、そこから大量のゴハンを籠に入れたファナが……

「「――あ」」

 ばっちり、と目が合ってしまった。思わず、あたしは目を逸らしてしまう……。

 ……どうやら、と言うまでもなく、その手を見れば一目瞭然。ファナはゴハンの調達から戻ってきたようだった。

 ファナはそれから、何も言わずに真っ直ぐに弟のベッドの方へと進み、弟にゴハンを届けた。

 ……。

 ……あたしは、ファナに声をかけることはできなかった。

 当たり前だ。ファナが誰よりも大切に思っている弟に、あたしは……あんな…………

「――はい、リムちゃん!」

「え――」

 突然、目の前に出てきたのは……いつだったかエルさんにもらって食べたことがある。人間界でたくさん採れるらしい、〝リンゴ〟とか言う果物を焼いたものだった。

 甘くておいしい! ……あたしは初めて食べた瞬間それを気に入り、エルさんにそのうちまた買ってきてくれるようにねだっていたもの……それを唐突に、ファナはあたしに渡してきたのだ。

「あの……これ……?」

「ん? 焼きリンゴだよ? リムちゃん好きだって言ってたじゃない? ……嫌いになっちゃったの???」

「いや! 好きだけど……その……どうしてあたしに? だって、ファナは……」

 あたしのことを〝恨んで〟いるんでしょ? ――その一言が、あたしにはどうしても聞けなかった。

 〝怖かった〟のだ……頭ではすでにわかってはいても、面と向かってそう言われることが、あたしは〝怖かった〟……。

 ――だけど、ファナの反応は、予想していたものとはまるで違っていた。

 ファナは満面の笑顔で、あたしに言い放った。


「――ありがとう、リムちゃん。〝助けて〟くれて!」


「え……?」

 いったい何のこと? そう聞く前に、ファナは続けた。

「だって、ほら! 最初腕を振り上げた時……あれを止めてくれたのはリムちゃんなんでしょ? リムちゃんが止めてくれなかったら、今頃私たち――」

「――い、いや! ちょっと待ってよ!」

 あたしは慌てて叫んだ。

「止めたって……でも止められたのは最初の一回! 片手だけだよ!? 二回目はどうやっても止められなくて、シーダが……!!」

 でも、止めてくれたんでしょ? ――ファナはそう一言置いてから続けた。

「リムちゃんは私たちを悪いヒトから〝守って〟くれようとした……実際、最後には自分で倒しちゃったじゃない。それだけで充分だよ?」

「そんな! でも……あたしは……」

「リムちゃん……じゃあ、聞くけど、リムちゃんはあたしのこと……〝友だち〟だと思ってくれてる?」

「!? あ……当たり前じゃない! あたしは――」

 じゃあ、シーダは? とファナはあたしの言葉を遮るようにして、弟に聞いた。

 弟は、モグモグ、未だに食べ続けながら、元気いっぱいの声で答えた。

「うむぅ! ぼふ、りむふぁん……ごくん……うん! ボク、リムちゃんのこと〝大好き〟だよ! リムちゃんは……ボクのこと〝嫌い〟なの???」

「そ、そんなわけ……!!」

「――じゃあ、リムちゃん?」


 ――これからも、私たちと〝友だち〟でいてくれる?


 ……その言葉を聞いた、瞬間だった。

 あたしの瞳からは、いつの間にか大粒の涙があふれ出していたのだ。

 あたしはそれを止めることもできずに、何度も、何度も、それを手で拭った。

 そして……あたしは、〝感謝〟の思いと共に、その言葉を呟いた。


「あり……がと……ぐす…ファナ……シーダ……ずっと…ずっと、〝友だち〟だよ……」


「「……うん!!」」


 ――こうして、此度の〝秘王の卵〟による騒動は、幕を閉じた。


「……いやいや、まだ終わってはおらんぞ?」

「ふえ……? な、何が……???」

 あたしが聞くと、霊王さまは満面の笑顔で答えた。


「――こんな大事件を引き起こした、お前の〝お仕置き〟がな……!!」


「え゛……!?」


★★★★★★★★★★







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