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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――神界への帰り道。上空、神馬の馬車の中。

「……ふふ、どうやら、はしゃぎ疲れてしまったようですね」

 メイミルの町を出発してからおよそ六時間。すっかり日も暮れてしまったその時間帯にはもう、二人はすでに夢の中へと旅立ってしまっていた。

 やはり子どもなんだな、と改めて思った。何しろ二人は眠ってしまうその直前まで、馬車の中が思っていたよりも広い、だとか、窓から見える景色が綺麗、だとか、そんなことでずっとはしゃいでいたのだ。そして夕ご飯に用意したパンとカボチャのスープ……それを食べたと思ったらもう、ぐっすりだ。

 私は名残惜しくも思いつつも、今一度、すーすー、と可愛い寝息を立てているそんな二人の頭を優しくなで、ベッドから立ち上がった。――ここからは、私の、神としての仕事の時間なのだ。

 私は、そこから少し離れたところにあるテーブルに報告書の束を置き、椅子に座ってある魔法の呪文を唱えた。

 ――その魔法というのが、

『……エルだな?』

 〝遠話〟……離れた場所にいる相手と会話ができる魔法だ。

 これは使い方によっては周りにいる全ての人へ同時に声を届けることもできる魔法であり、私は使い勝手の良さからこの魔法をちょくちょく使用している。

 私は応答があったその声に、二人を起こしてしまわないようにできるだけ静かに話した。

「……現状をご報告いたします。現在、〝予言の子〟と思われる二人の人間の子どもは…遊び疲れて眠っております。おそらくは、初めて乗る神馬の馬車に興奮して――」

『……あー、んなもんどーでもいいから、さっさと本題を言え。結局、どうなんだ?』

「……失礼いたしました。では、本題の〝二人の能力〟について、ですが……」

 私は、そのことをまとめた紙を報告書の束から抜き出して、それに目を通しながら話した。

「……これは本日あったことのまとめになりますが……まず、私が自身の目で確認した、盗賊団の男が放った魔法を〝一部分だけ消滅させた〟ことについてですが……これは間違いありません。実際に魔法は消滅していたということが分かりました」

『ほぉ? と言うと?』

「はい、先ほど二人が起きていた時に色々質問をした結果、以下のことが分かったのです」


 一つ、男は大きな魔法を使う前に、何度も小さな魔法で〝失敗〟したこと。

 二つ、二人が炎に呑み込まれている間、通常どおり〝呼吸〟ができ、またその炎の熱さ等を全く〝感じなかった〟こと。

 三つ、二人が着ていた〝衣服〟にすら、一切の魔法的損傷がなかったこと。


「――以上です」

『ふむ……なるほどな』

 つまり…と続けた。

『もし、ただ単にその盗賊の男が魔法に失敗していただけならば、魔法そのものが発動しないはずだし、発動していたとしても〝暴走〟を起こしてその男もまず無事では済まない……だが、魔法は実際に発動し、しかも目標である二人に完全に命中…しかし、二人は身衣共に全くの無傷。おまけに魔法による〝影響〟……あー、今回の場合は〝熱風〟か? それすらも感じていないとなると……なるほど確かに。そんなに証拠が盛り沢山とあっちゃあ、〝消滅した〟というお前のその報告…信じるしかねーな?』

「はい。現状では、私もそう報告する他ありません」

『……分かった。――他に報告はねぇか?』

「他には……特に、これといったことは……あ、だだ……」

『何だ?』

「……はい。その魔法が〝一部消滅〟するという現象なのですが、炎を消して以来、一度も確認ができておりません。少し前にもご報告したとおり、メイミルの町で二人に通行証を身体に固定化させる魔法も使用しましたが、両名共に有効でした」

『……つまり、魔法を消去するためには何かしらの〝発動条件〟がある…と?』

「……おそらくは」

 ……そう。おそらく、としか言いようがない。だけど、魔法を二人が…またはどちらか一方が消去させたことは事実だ。

 ……もし、この〝魔法を消滅させる〟という特殊な能力を二人が自由自在に使いこなすことができたとしたのなら、もしかしたら……。

 そんな微かな希望を思いながら、私は寝ている二人の方を、ふと、振り向いた。

 ――と、目の前にはシーダさんの姿が……

「ッッ!!?」

 がっしゃーん! 驚いて、私はテーブルに置いてあったコップを落としてしまった。

「――んあ!? 何!?」と、その音でまだ寝ていたファナさんまで起きてしまう。

「あ! お、驚かせてしまってすみません……そ、それよりシーダさん、いつからそこに!?」

 ばっくん、ばっくん、と大きな音を立てて動く胸を押さえながら、私は直立不動のまま、微動だにしないシーダさんに聞いた。

 ……だけど、

「……」

 ……私の言葉にすら、反応しなかった。……これは、ひょっとしなくても…寝ぼけて……?

「……こ」

「え?」

 唐突に、何の前触れもなくそうシーダさんが言った。

 ……こ? 何のことだろう?

 とっさに、私はシーダさんの口元に耳を近づけてみた。

 すると、

「…おしっこ~……」

「おしっこ……」

 ……。

 ……。

 ……!!?

 おしっこ!?

 気がつけばシーダさんはすでにズボンに手をかけて…

「ああ! 待ってください! こっち! トイレはこっちです!」

 もはや手を引いている暇なんてなかった。私はシーダさんを抱きかかえ、そのままトイレに走った。

 ……その後、当然のこと、私の仕事…報告はまた夜が明けてから、ということになり、私は再び眠ってしまったシーダさんをベッドに寝かせ、割れてしまったコップの後片づけをした。

 ……それにしても、シーダさんは本当に心臓に悪い。ファナさんも大変だな……。

 ――なんてことを考えながら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







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