6-18
……。
……。
……。
…………ここ、は……どこ……? 何か……〝聞こえる〟……???
「ぐあっ!? ――くそっ! こんなの〝殺す〟以外にどうしろってんだ!?」
「ダメじゃ! 絶対に殺してはならん! 何としてでも助け出すのじゃ!!」
「ぐぬぅぅ!? おい!! だったら何か指示出しやがれ! 俺様はまだまだ余裕だが、このままじゃ他のやつらが持たねぇぞ!!」
「確かに! このままではマズいを通り越して激マズですぞ、霊王様!! 私を含め、皆様の体力が徐々に落ち始めております!!」
「いえ!! ――くっ! 私たちより、問題なのはリムルさんの身体の方です! このような姿になってしまったとはいえ、身体はやはりまだ子どものままのはず! ……これだけの激しい、しかも長時間の戦闘は、今のリムルさんには負担が大きすぎます!」
「そんな……!! お願い、リムちゃん!! 目を覚まして!!」
「そうだよリムちゃん!! そんなやつなんかに負けないで!!」
……みん……な? 何して……はっ!!
「――おっと? お目覚めかい、リムル?」
目を覚ましたあたしの視界……そこから見えたのは、傷だらけになったエルさんや〝王〟さまたち……そして離れた場所で指示を送る霊王さまと、あたしに向かって叫び続けているファナたちの姿だった。
『これは……そうだ、確かあたし……ハイジャ! あんた、まさかっ!!』
驚くあたしに、ハイジャは笑って答えた。
「くくく……そうさ! おれっちがやったんだよ! お前の〝怒り〟〝恨み〟……そんなのが詰りに詰まった、この〝身体〟でな!!」
『か、〝身体〟……!?』
「おう! ……って、何だ? 〝身体〟の記憶も見せたはず……ああ、そっか。あまりにもショッキングなできごとだったから、全部見終わる前に気絶しちまったんだな? ……しょーがねーなぁ……今は忙しいから、ちょっとだけだぜ? ――ほらよ」
す……と、ほんの一瞬だったけど、ハイジャは視線を下げて、あたしに自分の身体を見せた。
――瞬間、あたしは驚愕することとなった。
『な……何これ!? これ……あたし!? 何でこんな……これじゃあまるで〝魔獣〟じゃない!!』
そう、そこにあったあたしの……いや、もはやあたしの身体だと言われてもとても信じることはできなかったその〝身体〟は、まさに二足歩行の〝巨大な魔獣〟……ギラギラ、と光沢のある、針金のように硬そうな〝赤い毛〟に全身を覆われ、鋭く尖ったその爪からは、数えきれないほどの、幾本もの〝赤いマナ〟が伸びている。――それは範囲こそ狭かったものの、変わらず身体全体に渦を巻くように巻かれていて、床にも蜘蛛の巣状に広がっていた。
『こ、こんな……いったい、あたしはどうなって……!?』
「おら死ねぇッッ!! ……って、え? 何? おれっち今ホント忙しいから後にしてくんないかな? しつこいこいつらを何とかしてころ――」
「よそ見してんじゃねーぞテメェェ!!!!!」
「うおっと!?」
ハイジャの一瞬のスキを捉え、剣を持った神王がハイジャの腕に斬りかかってきた。
しかし――
バキィィンッッ!! 「くぅぅ!?」
全身を覆う毛は、やはり相当に硬いようだ。練習用としてその辺に置いてある薄鋼の剣では全く斬ることはかなわない。
「くそっ!! 硬ぇな!!」
「それだけじゃねぇぞ神王! 毛皮と同じで〝弾力〟までありやがる! さっきから腕をへし折ってやろうと思ってぶん殴ってるのに効きやしねぇ! 槍や弓も全部弾かれるぞ!」
『そんな……!!』
危ね~硬くて良かった~……呟いてから、ハイジャは戦いながら続けた。
「……しゃーない。戦闘中だが、説明してやるからよく聞けよ? ……まぁ、何はともあれ、だ。これがお前の、おっと危ない! ……身体だってことは分かっただろ? つか、状況的にそれしか考えらんねーよな? ――一応それも説明してやると、お前は村人に向かって叫んだ後、突然この姿に〝変身〟して村人を〝襲い〟始めたんだ。結果は言わなくても分かるとは思うが、全員〝爆死〟よ。服を着てよーが鎧を着てよーが関係ねー。この〝手〟を見れば分かるとおり、この姿での〝鳳仙花〟は手の平で発動するんじゃなくて、〝爪〟で発動するんだ。つまり、こんなふうにな……!!」
ぶんっ!! ハイジャが腕を振ると、爪から伸びていた〝マナ〟が鞭のようにしなって伸びた。
狙われた魔王はそれを難なくかわすことには成功したものの、それが壁に当たった瞬間だった。
ズドン!! ――どうやら壁にもハイジャの〝マナ〟は貼り付いていたらしい。大きな爆発音と共に壁が大きく焼け焦げた。
「ちっ、また外しちまったか……ともかく、こんな感じよ! その頃のお前じゃまだこんな芸当はできないだろうが……ズバッ!! と一発切り裂けばそれで〝即死〟よ! ああ、もちろん、〝鳳仙花〟が効かねえファナたちでも、今ではこの爪で切り裂けば一発だぜ? へへ♪ マジで最強なんだけどこの〝力〟! こんなスゲー〝力〟をおれっちなんかにくれてサンキューな!」
『……!!?』
そんな……あたしが、村のみんなを……!!?
『――!? 待って! じゃあ、お母さんは……お母さんはどうなったの!? まさか……お母さんもあたしが、〝殺した〟の!!?』
「むんっ!! ……あ? 母親だ? おいおい、さっきおれっちが言ったことを聞いてなかったのかよ? ――〝殺した〟よ。お前がな。――どうやらこの姿になると正気を保っていられなくなるらしくてな? 頭に石をぶつけられて、フラフラ、になりながらもお前のことを止めようとした母親を、ズバッ!! っと一発、どっかーん!! よ! いや~! あの記憶はぜひとも見てもらいたかったね~!」
『……ッッ!!?』
あたしが……あたしが、お母さんを……!!!!!
『うわああああああああああああああぁぁぁああぁっっっッッ!!!!!!!!!!』
「おっ!!? ――へへっ! さらに〝マナ〟がハネ上がりやがった! やっぱりこの身体はリムルの〝怒り〟や〝不安〟、〝絶望〟によって強化されるらしいな! いいぞリムル! もっとだ! もっと〝怒れ〟!! もっと〝絶望〟しろ!! この世界そのものを〝破壊〟できるくらいにな!!」
『お母さん!! ごめんなさいお母さん!! あたし……あたしが……!!!!!』
「「――リムちゃん!!」」




