6-15
次の瞬間だった。魔王の足下……いつの間にか蜘蛛の巣のように複雑に〝床〟に張り巡らされた〝鳳仙花〟が、魔王の履いていた靴を登り、皮膚に触れて爆発を起こしたのだ!!
「魔王!!」
「っぐぅぅ!! うっせぇ! この程度で俺様がやられるわけがねぇだろ!!」
吹き飛ばされた魔王は、それを食らってもかろうじて軽傷で済んだようだったけれど……でも、これは……!!
ん? おかしいな? それを見て首を傾げたハイジャが呟いた。
「いくら複雑に地面を這わせて伸ばしているとはいえ、〝鳳仙花〟の性質上〝即死〟のはずなんだけどな? 何で死なねーんだ?」
「ッッ!! この、よくも!!」
「――!? 待ちなさい、エル殿!!」
それを見て飛び出したエルさんに、ハイジャは――
「――よし、実験♪」
ぐんっ!! ――突然だった。ハイジャがエルさんの方を振り向いたその瞬間、身体に巻き付けていた〝鳳仙花〟をエルさんの方に向かって〝伸ばした〟のだ。
「なっ――!?」
それに瞬時に反応し、エルさんは翼を大きく広げて急停止したけれど――ダメッ! 間に合わない!!
「捨て身バリアー!!」
ドンッ!! 「――ぐうっ!!」
しかし、その間に入って守ったのは、なんと冥王だ。言葉どおりの身体そのものでの防御。こちらも爆発自体は小規模なものではあったけれど、その反動によって冥王は守ったエルさんごと吹き飛ばされてしまう。
「――思ったとおりだ」
それを確認して、ハイジャは頷いた。
「この〝鳳仙花〟とか言う魔法……〝離れれば離れるほど威力が落ちる〟のか。だから魔王も冥王も殺せなかった……」
!? 〝鳳仙花〟にそんな〝特性〟が!?
驚いたあたしではあったけれど、しかし同じくそれを見ていた神王の反応は、あたしとは全く違うものだった。
「――っ!? てめぇ……今の〝服の上〟からだぞ? どうやって爆破させやがった!!」
『あっっ!!!』
そうだ! 冥王は確かに今、〝服の上〟から〝鳳仙花〟を受けて……距離を云々言う前に、いったいどうやって!!?
「ん? ああ、そんなの簡単さ!」
ハイジャは突然、赤く光る、〝光の粒〟を身体の周りに……えっ!? これってまさか!!?
「――そう! 残り少ないおれっちの〝マナ〟で作った、高密度の〝小型爆弾〟よ!!」
「なっ!!?」
こいつも気づかなかったか? そう呟くとハイジャは、〝光の粒〟に息を吹きかけて飛ばし、そこに〝鳳仙花〟を伸ばす……すると、瞬間!
――ぱんっ!
先ほどよりは威力が数段弱かったものの、確かに爆発した。つまり――
「こういうこと……おれっちは最初、巨乳の天使ちゃんが放った剣を爆破した時、すでにお前らの身体に無数のこの〝小型爆弾〟をくっつけてた、ってわけさ! ――まぁ、〝誤算〟があったとすれば、この爆弾は小型でも十二分にお前らを殺せるくらいの威力は確かにあったはずなんだが……ちっ、まさか〝鳳仙花〟にそんな特性があったとはな。魔王は直に触ったのに殺せない……どころか、かすり傷で終わるし……」
な……なるほど、あたしは普段、〝鳳仙花〟を自分の〝マナ〟を使用して放っていることから、爆発させるためには必ず〝自分以外のマナ〟が必要になってくる。しかし、ハイジャは元から他人。持っている〝マナ〟がそもそも違うため、このように自分の〝マナ〟を相手にくっつけることで、それを爆弾として〝鳳仙花〟を服の上からでも使えるようにしたんだ!
……ハイジャやあたし自身が知らない、〝誤算〟というものがあったおかげで今はことなきを得たけれど、もし、〝鳳仙花〟に〝離れるほど威力が弱まる〟などという特性がなかったとしたら……考えただけでも恐ろしい。
「――で? んなことよりどうするよお前ら?」
ハイジャは未だ余裕の笑みを浮かべながら、くるくる、とその場を何回か回り、最後に神王の方を向いて聞いた。
「死ぬ確率は幾分か低くはなったが、お前らはこれでもうおれっちには〝近づけない〟。魔法も単発じゃ効かねぇし、かといって連発式の爆風を上回るような強力な魔法を使えば、よほどうまく使わない限りは、恐らくリムルが死ぬ……まぁ? 捕まりそうになったらおれっちもろとも、〝自殺〟してもいいしな? ――つーことは、だ……へへへ。〝詰んだ〟かな?」
「くっ……!!」
……再びの形勢逆転……確かに、これでは……!!
この場にいた誰もがそう思ったことだろう。
――たった〝二人〟を除いては!!
「――まだだよ! まだ、終わってない!!」
――声を上げたのは、ファナだった。
ファナは弟と手を繋いだまま、手に持っていたボールを投げ捨てて、霊王さまの下から離れてこちらに向かって歩いてくる。
――そうか!! それとほぼ同時に、あたしはファナの言葉の意味を理解した。
〝F・D〟だ。ファナたちが持つ、
〝フィールド内に入った魔法を消し去り、使っていることにする魔法〟!!




