6-12
「ま、待ってよエルさん!」
それを確信したあたしは、すぐにエルさんに向かって弁解した。
「誤解だよ! その、ハイジャは確かに〝秘王の卵〟から生まれた〝分身〟だけど、全然悪いヤツじゃ――」
「〝秘王の卵〟……だと!!?」
驚きの声を上げたのは神王だった。
神王はそれからすぐに、エルさんに向かって大声で指示を出す。
「エル! 〝栄光の剣〟だ! 絶対に逃がすんじゃねーぞ!!」
「了解いたしました!」
「ちょっ!? みんなあたしの話を――」
「――〝栄光の剣〟!」
――次の瞬間だった。
エルさんから放たれ、あたしの周りに渦を成して展開されたのは、数十本の〝光の剣〟……エルさんが持つ〝力〟。突き刺すことで相手の身体と〝マナ〟を〝完全拘束〟することができる、無敵の拘束魔法だった。
「あぁ! ……は、ハイジャ!」
それを見せつけられたあたしは、すぐにハイジャに向かって叫んだ。
「だ、だいじょうぶ! これは刺されても痛くないし、死ぬことはない魔法だから……だから絶対に抵抗しようとは思わないで! 大人しくしていれば、きっと……!??」
刹那、
「――てぇッッ!!!!!」
神王の掛け声と共に、数十本の〝剣〟はあたしに向かって同時に放たれた。
――しかし!
「くくっ♪ バァーカ!!」
――ズドドドドドドドドーン!!!!!
「なあっ!?」
巻き起こったのは、突然の〝爆発〟……どうやらそれは空中にあったエルさんの剣を素に次々と引き起こされているようで、あたしの周りにあった木箱や、的など、あらゆるものがその爆風に耐え切れず、次々と吹っ飛ばされていってしまった。……その被害は遠く離れた場所にいた〝王〟たちの下にまで届き、フィールドを張っていたファナたちと共にいた霊王さま以外の全員がその風にあおられ、身体を吹き飛ばされそうになっていた。
――そして爆心地。当然のことながらその被害を最も受けるはずだったあたしは……しかし、なんと〝無傷〟だった!
これだけの爆発が巻き起こる中、普通に考えれば無傷でいられるわけがない……つまり、もはや考えられることは一つしかなかった。
そう、この爆発は〝鳳仙花〟によって引き起こされたものだったのだ。――〝鳳仙花〟はその魔法の性質上、あたしには一切のダメージはない!
「――おー! こりゃあ便利! なるほど、爆発や爆風は基本的に本体を中心とする〝外側〟に向かって発射され、さらには跳ね返ってきた分も身体の表面で〝弾かれる〟から、爆風に乗って飛んできた破片とかでもケガをしねぇわけか!」
……どうやら、ハイジャもそれを理解したらしい。
しかし、問題はなぜ、使ってもいない〝鳳仙花〟が……それこそ、あたしはずっと手袋を付けたままだ。素手でなければそれは絶対に発動できないはずなのに、なぜ発動してしまったのか? あたしはその理由を確かめるために視線を自分の手へと動かし……あれ?
と、その時気がついた。視線が〝動かせない〟……いや、違う! 〝勝手に動いていた〟のだ! あたしの〝意思〟を完全に無視して!!
これは……まさかっ!!?
「――お? 気がついたか?」
『ハイジャ!?』
くくっ♪ といつもの調子で笑うハイジャ〝の〟中……あたしはハイジャに向かって大声で叫んだ。
『ちょっ……ちょっと!! あんたいったい何やってんの!? 早くあたしに身体を返しなさいよ!』
「あー? 嫌に決まってるだろ? んなことしたらおれっち、とっ捕まって殺されちまうじゃんか?」
パチン! ハイジャは手袋が外れないようにするために取り付けられていたボタンを器用にも歯でかじって外し、同じように手袋自体も指先をかじってそこから手を引き抜いた。……気がつけば、ハイジャの視線から見えた床にはもうすでに手袋の片方だけが落ちていた。
やっぱり! それを見てあたしは確信した。
先ほどの〝鳳仙花〟……やはりあれは、ハイジャがあたしの身体を使って使用したものだったのだ!
しかし、一目見ただけでもわかる。〝遠距離鳳仙花〟でのあの正確な〝迎撃〟……ハイジャはあたしなんか足元にも及ばないほどの実力を持っているようだった。
それを確認したあたしは、だけど……このまま抵抗を続けていたら、本当にハイジャは退治されてしまう! そう考えて、慌ててハイジャを説得しにかかった。
『本当に止めて、ハイジャ! このまま抵抗を続ければ、どんな言いわけをしても信じてもらえなくなる! そうなったらハイジャの〝目標〟が……!!』
「あ~ん? 〝目標〟??? それならもう〝達成寸前〟だぜ?」
……え?
『ど……どういうこと? え? ハイジャ……だって、ハイジャはただ、静かに暮らしたいだけなんじゃ……』
「……あー……悪ぃ、それ――」
嘘なんだわ。




