6-11
――訓練場。
着いてすぐに、あたしはこの部屋のだいたい真ん中くらいのところに、持ってきた手の平サイズのヘルハウンドのはく製を置き、ハイジャに合図した。
「置いたよ、ハイジャ? じゃあ次は、元の大きさに戻す魔法を使えばいいんだよね?」
『ああ、そうなんだが……おい、〝後ろ〟』
〝後ろ〟? ――見ると、そこには……あ!
「ファナ! シーダ!」
「え? ――あ! リムちゃん!」
そう。訓練場の入口の一つ……どうやら訓練が終わったから遊びにきたらしい。大きなボールを片手に、仲良く手を繋いだファナたちの姿があった。
ファナたちはあたしに気づくと、それからすぐにいっしょに駆け寄ってきて話した。
「……こんなところで何してるの? ――あ、もしかしてまた新しいこと思いついて、それで独りで練習にきたの? 偉いな~……私たちなんか訓練の時間以外はいっつも遊んでるのに? ね、シーダ?」
「うん! あ、ねぇ? どうせならリムちゃんもたまにはいっしょに遊ぼうよ! 最近リムちゃんっていっつも独りでどっかに行っちゃうから……ね? たまにはいいでしょ?」
「あ! いや、そ、それが……」
チラリ、と思わずあたしは床に置かれたヘルハウンドのはく製を見てしまう。
……と、やはりと言っていいだろう。細かいことに真っ先に気がつくファナが、それに気がついた。
「ん? 何それ? 犬のお人形?」
「あ! いや、これはその……!!」
……ど、どう説明しよう、これ!? まさか、ヘルハウンドだよ☆ なんて言って信じてくれるわけもないし……いや? 待てよ? ここはむしろ、小さくしたり、大きくしたりする魔法を練習していたんだよ? って答えた方が自然なんじゃ……?
そんなことを考えていた、
――次の瞬間だった。
「――そやつから離れるのじゃ!!」
突然の大声……再びあたしは入口の方を見ると、そこには霊王さま……どころではない! なんと、エルさんに、それから他の〝王〟たちが全員揃っていたのだ!
「あれ? 〝王〟さまたち何でいるの? みんなで遊びにきたの?」
「そんなわけがあるか!」
ファナ!! ――霊王さまはのん気な弟の声を跳ね除け、ファナに向かって大声で叫んだ。
「よいか! これは〝命令〟じゃ!! 絶対にシーダから〝手を離すな〟!!!」
!!?
「――は、はい!!」
あたしと同じように意味もわからずに、だろう。しかし慌てて返事をしたファナは、すでに握られている弟の手にさらに力を加え、絶対に離さないようにしてから改めて霊王さまに聞いた。
「あ……あの、霊王さま? いったい何が…………」
ふぅ、と一度ため息をついて、自分自身を落ち着かせてから霊王さまは話した。
「……よいか、よく聞け? これも〝命令〟じゃ。今すぐ、そやつから……〝リムル〟から離れて、こっちへくるのじゃ。そしてもう一度言うが、絶対にその〝手を離すな〟……わかったな?」
「え……わ、わかり、ました……ごめんね、リムちゃん? 何だかよくわからないけど、呼ばれてるみたいだから行くね?」
「あ……」
一瞬、あたしはファナのその後ろ姿に手を伸ばし、呼び止めようとしたけれど……霊王さまの〝命令〟では仕方がない。仕方なく手を引っ込めた。
――それから数秒。
霊王さまはファナたちを抱き寄せ、後ろに下がると……代わりに、エルさんが前に出てきて話し始めた。
「……今一度問いましょう。〝あなた〟は何者ですか?」
「え……あ、あたし!?」
他に誰もいない。エルさんは間違いなく、あたしに向かって……いや、違う! 間違いなく、あたしの中に隠れている〝ハイジャ〟に気がついていて、そう聞いてきたのだ!




