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――訓練開始から七日目、資料室前廊下。
――皆さんで訓練を始めてから、今日でちょうど一週間……シーダさんは随分と身体の動きに無駄がなくなってきましたし、ファナさんも空けた〝穴〟を逆に〝塞ぐ〟魔法を覚えたおかげで、何度壁を貫いても自分で直せるようになりました。
その中でももっとも驚くべきなのは……やはり、リムルさんで間違いないでしょう! 初日こそ何の成果も上げられませんでしたが、訓練二日目からはまるで別人! それこそ、まるで〝誰かに教わっている〟かのように、次々と新しいことを思いついてはそれを成功させています! リムルさんにはきっと、そういう才能があるんですね♪
ふふ♪ と私は、日々成長していく子どもたちにうれしさというものを感じ、もしかしたらこれが〝お母さんの気持ち〟なのかな? などと、実際お母さんになったこともないクセに、勝手な想像を膨らませながら歩いていた。――ちょうど、その時だった。
「……ん? あれは……〝リムル〟さん???」
そう。目の前には、資料室……そこにかかった鍵を、いったいどこで覚えたのか? 針金を使って――しかも手を使わずに、わざわざ歯で針金をくわえて――こじ開けようとしているリムルさんの姿があった。
おやおやぁ? とそれを私は、子どものするイタズラだと思い、なるべく静かに、バレないように近寄って、声を上げた。
「――コラ! ダメですよ!」
「――ッッ!!?」
――刹那、だった。
ゾクゥッッ!!
私の身体を、〝殺気〟が貫いたのだ。
ばっ!! その瞬間、思わず私は跳び退いて翼に手をかけた――しかし、
「――わ、わっ!! エルさん!?」
私の目の前にいたのは……そう、リムルさんだ。他の誰でもない、リムルさん本人……。
「あ……れ……???」
そんな間の抜けた声を漏らしながら、私は慌てて辺りを見回してみたけれど……やはり、ここには私とリムルさんの二人だけしかいなかった。
今の……〝気のせい〟??? いや、でも、確かに…………
「ご……ごめんなさい!!」
と……その時だった。リムルさんは深々と私に頭を下げて謝ってきたのだ。
「……ここ、いっつも鍵がかかってるから、気になって……それで……」
「え……あ、ああ! それなら――」
私は、突然構えてしまったことに悪気を覚えながらも、慌てて答えた。
「ここは資料室ですよ? と言っても、あるのは商業系の記録ばかりで、重要なものは何一つ置かれてはいないのですが……あ! でも、ダメですよ? いくら気になったからといって、そんな方法でここに入ろうとしちゃ! ちゃんと大人の人に許可をもらわないと!」
「ご……ごめんなさい~」
「…………」
……やはり、何かの気のせいだったようですね。こんな正直で良い子が、あんな〝殺気〟を放てるわけがありませんし……。
きっと、私も疲れていたんですね。そう思って、ふぅ、と一度ため息をついた私は、リムルさんに向かって話した。
「――さ? そうと分かればもうこんな所に用はないでしょう? 部屋に戻ってファナさんたちといっしょに遊んではいかがですか?」
「あ、はーい!」
……うん。ふふ、元気いっぱいの良い返事ですね!
それを確認した私は、手を振ってそれを見送っ――
「じゃあ、エルさん! 〝私〟はこれで!」
――!!?
「――〝栄光の剣〟!!」
ジャキィッッ!!
〝ソレ〟を聞いた瞬間、私はリムルさんに向かって……いや!
リムルさんのフリをした〝ナニカ〟に向かって、剣を構えていた。
「うわわっ!? エルさん!??」
「黙りなさい!!」
私は〝ナニカ〟の言葉を遮り、続けた。
「貴様……いったい何者です? なぜ、リムルさんの格好をしているのですか? 答えようによっては――」
「エルさん違う! 〝あたし〟は〝あたし〟だってば!! 痛くないってわかってても怖いからそんなの向けないで!」
「……今さら口調を変えても無駄ですよ? リムルさんは今まで一度も、自分のことを〝私〟などと言ったことはありません。観念して白状しなさい。そうすれば命だけは――」
「だから違うってば!!」
――その時だった。〝ナニカ〟が……いや、〝リムル〟さんが静かに話した。
「……そ、その、あたしって、こんなだから……エルさんとか、ファナとか、みんな自分のことを〝私〟って、ちゃんと言ってるのに、あたしだけいつまでも〝あたし〟じゃ悪いのかな、と思って……あと、少しでも、エルさんやファナみたいに、〝女の子らしく〟なれたら……と思って……それで……」
「え……あ……???」
はっ!? ――次の瞬間、私は〝それ〟に気がつき、剣を引っ込めた。
〝それ〟とは……
「す……すみません、リムルさん! リムルさんがそんな〝悩み〟を抱いていただなんて、私気づかなくて……!!」
……そう。女の子独特の悩み……と言っていいかもしれない。
少しでも〝女の子らしく〟ありたい……リムルさんはそう思っていたのだ。
……自分だって小さい頃、一度はそう思ったはずなのに…………。
「あの、リムルさ――」
謝ろうと思った、とほぼ同時だった。
「――じゃ、じゃあそういうことでー!!」
「あ……」
リムルさんはまるで、私から〝逃げるように〟、そう言い置いて走り去ってしまった。
……しまった、と思った。
さっきの私の言葉……ただ〝女の子らしく〟なろうとしていただけのリムルさんを、私はこともあろうに〝侵入者〟と疑い、剣を向けたりなんかして……きっと、嫌われて……。
「……そ、そうだ! 今日は仕事が終わったら、リムルさんが大好きなシフォンケーキを買って、それで謝ればきっと――」
「――いや、その必要はねぇ」
「えっ!?」
慌てて振り向くと、そこにはいつの間にか……神王様と霊王様……それに、えっ!? 魔王様に冥王様まで!!?
何もない日に四界の〝王〟が勢揃い……こ、これはいったい何ごとですか!?
驚く私に構わず、〝王〟は話した。
「――〝緊急事態〟だ、エル……すぐに俺たちについてこい。話がある……」
「……は、はっ!! 仰せのままに!!」
すぐに返事をし、私は〝王〟の後に続いた。
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