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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――訓練開始から七日目、資料室前廊下。

 ――皆さんで訓練を始めてから、今日でちょうど一週間……シーダさんは随分と身体の動きに無駄がなくなってきましたし、ファナさんも空けた〝穴〟を逆に〝塞ぐ〟魔法を覚えたおかげで、何度壁を貫いても自分で直せるようになりました。

 その中でももっとも驚くべきなのは……やはり、リムルさんで間違いないでしょう! 初日こそ何の成果も上げられませんでしたが、訓練二日目からはまるで別人! それこそ、まるで〝誰かに教わっている〟かのように、次々と新しいことを思いついてはそれを成功させています! リムルさんにはきっと、そういう才能があるんですね♪

 ふふ♪ と私は、日々成長していく子どもたちにうれしさというものを感じ、もしかしたらこれが〝お母さんの気持ち〟なのかな? などと、実際お母さんになったこともないクセに、勝手な想像を膨らませながら歩いていた。――ちょうど、その時だった。

「……ん? あれは……〝リムル〟さん???」

 そう。目の前には、資料室……そこにかかった鍵を、いったいどこで覚えたのか? 針金を使って――しかも手を使わずに、わざわざ歯で針金をくわえて――こじ開けようとしているリムルさんの姿があった。

 おやおやぁ? とそれを私は、子どものするイタズラだと思い、なるべく静かに、バレないように近寄って、声を上げた。

「――コラ! ダメですよ!」

「――ッッ!!?」

 ――刹那、だった。


 ゾクゥッッ!!


 私の身体を、〝殺気〟が貫いたのだ。

 ばっ!! その瞬間、思わず私は跳び退いて翼に手をかけた――しかし、

「――わ、わっ!! エルさん!?」

 私の目の前にいたのは……そう、リムルさんだ。他の誰でもない、リムルさん本人……。

「あ……れ……???」

 そんな間の抜けた声を漏らしながら、私は慌てて辺りを見回してみたけれど……やはり、ここには私とリムルさんの二人だけしかいなかった。

 今の……〝気のせい〟??? いや、でも、確かに…………

「ご……ごめんなさい!!」

 と……その時だった。リムルさんは深々と私に頭を下げて謝ってきたのだ。

「……ここ、いっつも鍵がかかってるから、気になって……それで……」

「え……あ、ああ! それなら――」

 私は、突然構えてしまったことに悪気を覚えながらも、慌てて答えた。

「ここは資料室ですよ? と言っても、あるのは商業系の記録ばかりで、重要なものは何一つ置かれてはいないのですが……あ! でも、ダメですよ? いくら気になったからといって、そんな方法でここに入ろうとしちゃ! ちゃんと大人の人に許可をもらわないと!」

「ご……ごめんなさい~」

「…………」

 ……やはり、何かの気のせいだったようですね。こんな正直で良い子が、あんな〝殺気〟を放てるわけがありませんし……。

 きっと、私も疲れていたんですね。そう思って、ふぅ、と一度ため息をついた私は、リムルさんに向かって話した。

「――さ? そうと分かればもうこんな所に用はないでしょう? 部屋に戻ってファナさんたちといっしょに遊んではいかがですか?」

「あ、はーい!」

 ……うん。ふふ、元気いっぱいの良い返事ですね!

 それを確認した私は、手を振ってそれを見送っ――

「じゃあ、エルさん! 〝私〟はこれで!」

 ――!!?


「――〝栄光の剣〟!!」


 ジャキィッッ!!

 〝ソレ〟を聞いた瞬間、私はリムルさんに向かって……いや!


 リムルさんのフリをした〝ナニカ〟に向かって、剣を構えていた。


「うわわっ!? エルさん!??」

「黙りなさい!!」

 私は〝ナニカ〟の言葉を遮り、続けた。

「貴様……いったい何者です? なぜ、リムルさんの格好をしているのですか? 答えようによっては――」

「エルさん違う! 〝あたし〟は〝あたし〟だってば!! 痛くないってわかってても怖いからそんなの向けないで!」

「……今さら口調を変えても無駄ですよ? リムルさんは今まで一度も、自分のことを〝私〟などと言ったことはありません。観念して白状しなさい。そうすれば命だけは――」

「だから違うってば!!」

 ――その時だった。〝ナニカ〟が……いや、〝リムル〟さんが静かに話した。

「……そ、その、あたしって、こんなだから……エルさんとか、ファナとか、みんな自分のことを〝私〟って、ちゃんと言ってるのに、あたしだけいつまでも〝あたし〟じゃ悪いのかな、と思って……あと、少しでも、エルさんやファナみたいに、〝女の子らしく〟なれたら……と思って……それで……」

「え……あ……???」

 はっ!? ――次の瞬間、私は〝それ〟に気がつき、剣を引っ込めた。

 〝それ〟とは……

「す……すみません、リムルさん! リムルさんがそんな〝悩み〟を抱いていただなんて、私気づかなくて……!!」

 ……そう。女の子独特の悩み……と言っていいかもしれない。

 少しでも〝女の子らしく〟ありたい……リムルさんはそう思っていたのだ。

 ……自分だって小さい頃、一度はそう思ったはずなのに…………。

「あの、リムルさ――」

 謝ろうと思った、とほぼ同時だった。

「――じゃ、じゃあそういうことでー!!」

「あ……」

 リムルさんはまるで、私から〝逃げるように〟、そう言い置いて走り去ってしまった。

 ……しまった、と思った。

 さっきの私の言葉……ただ〝女の子らしく〟なろうとしていただけのリムルさんを、私はこともあろうに〝侵入者〟と疑い、剣を向けたりなんかして……きっと、嫌われて……。

「……そ、そうだ! 今日は仕事が終わったら、リムルさんが大好きなシフォンケーキを買って、それで謝ればきっと――」


「――いや、その必要はねぇ」


「えっ!?」

 慌てて振り向くと、そこにはいつの間にか……神王様と霊王様……それに、えっ!? 魔王様に冥王様まで!!?

 何もない日に四界の〝王〟が勢揃い……こ、これはいったい何ごとですか!?

 驚く私に構わず、〝王〟は話した。

「――〝緊急事態〟だ、エル……すぐに俺たちについてこい。話がある……」

「……は、はっ!! 仰せのままに!!」

 すぐに返事をし、私は〝王〟の後に続いた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







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