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そう不思議に思ってあたしは前を向くと……? なぜだろう? 霊王さまが小首を傾げてあたしのことを見ていたのだ。
そして、さらには……
「……変じゃの?」
と、突然、唸り声を上げ始めた。……本当にいったい、どうしたというのだろう?
「あの……霊王さま? あたし……何か変なの???」
ああ、いや……と首を横に振りかけた霊王さまではあったけれど、しかし――
「……ふむ。念のために調べておくかの? ――リムルよ。悪いが、安全のために手袋をはめて、気をつけをしてくれ。少し調べたいことがあるのじゃ」
「??? 調べる? ……いいけど?」
とりあえず、あたしは言われたとおり手袋をはめて、気をつけのポーズをとった。
そこに、動くなよ? と呟いてから、霊王さまは何やら呪文を唱え始める……すると、何だろう? 霊王さまの瞳が、きれいな緑色から、白ぼけた緑色に変わった。
……??? 本当にホント、霊王さまは何をしているのだろう?
そんなことを考え続けること数秒……ふぅ、とため息をついた霊王さまは、あたしから離れた。――その時点で瞳の色は元どおり、きれいな緑色に戻っていた。
いや、な? と霊王さまは何をしていたのか? それをあたしに説明した。
「何か……まぁ、ただの〝感覚〟的なものじゃったから、何とも言えんのじゃが……リムル。お前の〝中に〟妙な〝気配〟を感じた気がしての? 念のために妾の魔法で身体を調べさせてもらったのじゃが……ふむ。どうやら妾の勘違いであったようじゃ。気持ちの悪いことを言ってすまんの。許せ」
「!!? あ――ああ! 何だ! そうだったの!? もう! 霊王さまってばびっくりさせないでよ~!」
「かかか、すまんすまん。――おお、そうじゃ。そんなことより今の制御方法を紙に記録しておかねばな? えーと、紙はどこに置いたんじゃったかな?」
「あ、霊王さま! 紙ならさっきそこに置いてありましたよ?」
「ん? どこじゃ?」
「そこそこ!」
…………。
霊王さまとファナはあたしから離れて行った。
その後、心臓が、バクバク、鳴ったままになっているあたしに、ハイジャはよりいっそう声を潜めて話しかけてきた。
『……あ、あっっっぶねー! もうちょっとで見つかるところだった! いや、マジ死んだと思ったよおれっち! 一度死んでおいてアレだけどさ!?』
「……ねぇ、ちょっと!」
と、あたしは霊王さまたちに背を向けて、同じく小声で話した。
「どういうこと? 霊王さまは何であんたに気づきかけたの?」
『詳しくはおれっちにも分からねぇ! ただ、今のおれっちは例えるなら……そう! 大量の落ち葉の中に落ちた、〝一枚の葉っぱ〟みたいな〝マナ〟しか持ってねぇ状態なんだ! 普通に考えたら肉眼でなんか見えるわけもないし、譬え魔法を使ってたとしても、おれっちの存在に気づくのなんてまず以って〝不可能〟ってやつなんだよ! それをあのロリバ……霊王さまは気づきかけたんだ! さすがは〝王〟って感じだぜ! だてに世界の〝王〟をやってねぇな!』
そ……そうなんだ。やっぱり、霊王さまってすごい〝王〟さまなんだ……。
『へい! 感心してる場合じゃねーぞ? 今調べられた時、おれっちはお前の手の〝力〟がギリギリ発動しない、〝手首〟に隠れて何とかやりすごしたが、もうあとほんの数センチ霊王さまが踏み込んで調べていたら……いや~! 死ぬ! マジで死ぬ! ホント、お前に〝力〟があってよかったぜ! 霊王さまもそれに触れちまわないように、手首の一歩手前で調べるのを止めてくれたからな! ――と! とにかくだ! おれっちはもう、訓練中は隠れて絶対出てこないようにするから、返事はまた後で! じゃあな!』
「あ、ちょっと!?」
………………。
……ダメだ。どうやら本格的に隠れることにしたらしい。何も返事は聞こえてこなかった。
しかし言いたいことだけ言って逃げるって……まぁ、いいか。返事は後でいいって言ってるんだし?
そう考えたあたしは、気にすることを止め、霊王さまたちの下へ駆け寄った。




