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6-4




 ――訓練場。

「――あ、霊王さま? 今日も試したいことが……」

 あたしがそう言うと、おお! と霊王さまは喜びの声を上げた。

「また何かを思いついたのか! よいよい! 好きにやってみるがよい!」

「それじゃあ……」

『――ああ、やるぜ、姉ちゃん!』

 そんじゃあまずは昨日と同じように、〝霊石〟から離れた位置に立ってくれ! そう言われて、霊王さまに不審に思われないようすぐにあたしは行動に移し、昨日ギリギリ〝マナ〟が届いた位置に立った。

『次に、昨日はテファイを使う要領で〝赤いマナ〟を使ってやってみたが、今日は〝ウォム〟を……つまり、〝青いマナ〟を使って、やってみてくれ』

 ? 〝青いマナ〟で〝鳳仙花〟を??? それに何の意味が……

 いや、とあたしは小さく首を振った。ここはとりあえず、言われたとおりにやってみよう。昨日だってそれであんなにホメられたじゃないか。

 あたしはすぐに指先に〝青いマナ〟を集中させる。そして、それをゆっくりと、〝霊石〟に向かって慎重に伸ばしていく。……さすがに、こちらのスピードは昨日と大差ない。いや、むしろテファイと違って慣れていない分、今日の方が幾分か遅かった。

 しかし、それもほんの二~三分。ぴとっ、と遂に、あたしの〝青いマナ〟は〝霊石〟にくっついた。

『――おし! じゃあ後は昨日と同じだ。触ってみてくれ』

「……えいっ!」

 あたしはすぐに触った。

 すると……


 ――ぱちゃん!


 〝霊石〟は同じく爆発した――が、今回はその爆発の〝質〟が違った。というのも、普段の〝鳳仙花〟は爆発すると、一瞬炎のようなモノが見えて、爆発が届いた範囲内の床やテーブルには、若干の〝焦げ目〟がついてしまうのだけれど……今回はそれがない。代わりに、台の上は水でびしゃびしゃになっていた。

 ……何だこれ? 焦げ付かなくなっただけで、普段と何も変わらないじゃない。……え? 何? ハイジャはこんなのであたしに〝身体を貸して〟くれなんて言うつもりなの? これじゃあさすがに……

 ――そう思った、その時だった。

「素晴らしいの!!」

 また、霊王さまが声を上げたのだ。え? え? とあたしはほんの少し動揺してしまう。

 いったいこれの何がすばらしいのだろう? 混乱したままのあたしに霊王さまは話した。

「リムル! お前こんなことも思いついたのか! ――そうか、今まで〝鳳仙花〟といえば火の魔法だとばかり考えていたからの! 〝マナ〟の性質を変えればこんなこともできるのか!」

「ちょ! ちょっと待ってよ霊王さま!」

 あたしは思わず声を上げた。

「え? でもこんな、焦げ目がつかなくなって、代わりに水が残るだけなんて……何の意味もないでしょ?」

「? 何を言っておるんじゃ、リムル……おお! そういうことか!」

 と、なぜか霊王さまはそれからすぐに、エルさんと訓練用の剣で……そう、確か〝ゴム〟とか言う木の樹液からできてるらしい、この訓練場にいっぱい置いてある〝柔らかい剣〟だ。それを持って剣体術を習うシーダを傍観していたファナを呼び寄せ、説明し始めた。

「つまり、こういうことじゃな? ――制御方法を思いついたはいいが、それを何に役立ててよいのか分からない!」

「ああ、うん……?」

 それならば、と霊王さまは、呼び寄せたファナを捕まえて、突然くすぐり攻撃を始めた。ファナはそれに堪らず、「きゃははははは!! やめてー!」と笑い声を上げる。

 ……? いったい霊王さまは何をしたいのだろう? そんなことを考えていると、霊王さまは続けてあたしに問題を出してきた。

「リムル。では問題じゃ。――このように、妾は悪いヤツでファナを襲っておる。お前はこれを〝鳳仙花〟を使って助けなければならない状況になった……どうやって助ける?」

「??? そんなの、普通に触って……あっ!?」

 気づいたか……霊王さまはファナを離してから続けた。

「そうじゃ。今までのお前の〝鳳仙花〟では、お前自身はこの魔法の性質上、爆発のダメージを負わないとはいえ、しかしファナは違う……譬え悪いヤツを倒せたとしても、爆発のダメージは〝ファナの身体にまで〟及んでしまうのじゃ。これではファナを助けられん。――しかし、それが今やったように、〝水〟になるのならば話はべつじゃ。譬え爆発しても、よほど高速でその水滴が飛ばない限りはファナの身体はダメージを負わん。せいぜい濡れるだけじゃろう」

 な……なるほど!! 〝焦げ目がつく〟が〝水で濡れる〟に変わっただけで、そんなにも大きな違いが出てくるんだ!! 確かにこれなら、今まで〝壊す〟だけだったあたしの〝力〟は、もしかしなくても、〝人を助けることができる力〟に変わる!!

「すっごーい!」

 霊王さまの説明を聞いて、ファナもそのことを理解したらしい。満面の笑顔であたしに向かって拍手を送ってきた。

「これで私が危なくなってもリムちゃんが助けてくれる、っていうことになったんだよね? すっごーい! リムちゃん! その時はよろしくね❤」

「って、おいおい。ファナよ。助けてもらうこと前提か? お前もリムルを〝見習って〟、より精進に励まねばならんのじゃぞ? また壁に〝大穴〟空けたんじゃろ?」

「え……あ、はい……が、がんばります。えへへ……」

「…………」

 どうだい? と、思わぬ成長にあたしが、ぽかーん、としていると、ハイジャが話しかけてきた。

『ベタボメじゃねーか♪ 良かったな! ――あ、で、一応確認しておきたいんだけどさ? 昨日と同じに、〝交換条件〟をオーケーとしてくれんなら、〝バンザイ〟で以って合図を出してくれると、おれっちとしてはうれし……ッッ!? やべっっ!!』

 ……??? どうしたのだろう? 急に変な声を出して? これだけ良いことを教えてくれたんだから、身体をちょっと貸してあげることくらい、あたしは構わないのに?





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