おまけ #5
おまけ #5,勝利と栄光の横側。
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――リムルさんとファナさん、シーダさんの〝力〟の名前が決まってから数分後の私の部屋。
『――〝予言の子〟同士、同じ部屋の方がより友情が育まれて良いじゃろう』
という霊王様のご命令により、今まで一人で寂しかった部屋……かわいい同居人たちが増えて賑やかになったその場所で、唐突にファナさんが私に聞いてきた。
「――そういえば、エルさんの〝力〟の名前は神王さまが付けた、って言ってましたけど、その時も今回みたいにみんなで集まって決めたんですか?」
「え? ……ああ、そうですね。その時はおか…フレイア様もいっしょでしたけど。……それが何か?」
「うん、えっと……その時はどんな名前が〝候補〟に挙がったのか、気になって……」
「〝候補〟ですか? え、えーと、ですね……何分かなり昔のことなもので……すみません、今がんばって思い出してみますので、少々お待ちいただけますか?」
「はーい! わくわく!」
ふふ、そんなに楽しみにされては思い出さないわけにはいきませんね? ……えーと、確かあの時は…………
――私は、もうかれこれ百年以上も前になるその時のことを、ゆっくり思い出してみることにした。
※エルは現在〝百二十歳〟です。神族の平均寿命は〝五百年〟ですが、人間族とは歳を取るスピードが違うため、実際の人間族の年齢に換算すると、現在のエルはだいたい二十~一、二歳ということになります。
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――百十年前の、〝穴〟の空いた部屋。
――エルです。十歳になりました。今日はお母さん(※フレイアのこと)といっしょに、私の特別な〝力〟に名前を付けてもらうために、〝王〟さまの所にきました。
……のは、いいんですけど、
「――ああっ!? やんのか白髪ジジイ!!」
「――上等だこのニワトリ頭(※当時の魔王はモヒカンがカッコイイと思っていました)が!! 串に刺して焼いてやる!!」
……誰? あの子たち? 〝王〟さまの子ども……でしょうか?
すると、突然でした。
「――止めんかこのクソガキ共がっっ!!!!!」
ズンッ! 「――ごはぁっ!?」
ドゴォ! 「――げふっ!?」
ズドォ! 「――あっふん!! イイ!! すごくイイ!!」
…………。
――以下、省略です。
「――というわけで、この形じゃし、信じられんこととは思うが、妾はお前の母の〝師〟であり、精霊界を治める唯一の〝王〟、〝霊王・ナチュア〟じゃ。よろしくの、エルとやら?」
「……」
ぎゅっ……私は、お母さんの後ろに隠れました。
「こ、コラ! ――も、申しわけございません霊王様! この子、とっても恥ずかしがり屋なもので!!」
「かかか! よいよい! むしろかわいいではないか! ……っと! そんなことよりさっさと名前を決めてやらねばな! このままではまた〝文字数制限でおまけが二つ〟になってしまうかもしれん! ――お前らも構わんじゃろ?」
――ずぼっ! 「く……ああ、まぁ文字数制限じゃ仕方ねぇからな。我慢しといてやるよ」
――ぐぼぉ! 「ち……仕方ねぇ。俺様も今回は黙っててやる」
――にゅるん! 「……え!? 私ももう登場していいんですか!? もっと〝焦らして〟いただいても構わないんですよ!? 文字数制限さえよければ!」
「……」
……文字数制限って……何???
私の疑問は、ぽいっ、とどこかに捨てられ、そしてさっそく魔王さまが、
「――っしゃあ!! それじゃあ俺様からいくぜ!!」
と、わざわざ机の上に立ち、私の〝力〟の名前を叫びました。
「――ウルトラ・ファイヤー・グレート・キュウキョク・デリシャス・〝ハンバーグ〟!!」
「「「「「…………」」」」」
……〝ハンバーグ〟???
……あー、おい、魔王? と神王さまが堪らず聞きました。
「はん……〝ハンバーグ〟って、言った…よな、今??? 何か……理由があんのか?」
「あ? 何言ってんだよ神王? 腹が減ってはどーのこーのって言うじゃねーか! んなことも知らねーのか? つーか〝ハンバーグ〟だぞ? 俺様の次に〝無敵〟だろーが!」
「「「「「…………」」」」」
「……そ、そうか。えっと、じゃあ次は――」
「――よし! では意味の分からん魔王に代わって、妾が発表しようかの!」
答えたのは霊王さまでした。霊王さまはそれからすぐに、大きく息を吸いました。
……この〝王〟さまはお母さんの先生らしいですし、魔王さまの、あんな〝ハンバーグ〟なんて料理みたいな名前よりも、もっとステキな良い名前を――
「――【紅姫竜胆~強い正義感~】鏤めた蒼い宝石は、アナタを束縛する甘い罠……悪いことをしちゃダメよ? 私の〝愛〟は、正義のコ・コ・ロ★ にしか届かないんだから❤❤❤」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……え?
――え???
「かかか! どうじゃ皆の者! これが妾の実力じゃ! 驚きすぎて声も出せんじゃろ!」
いや……え?????
「――エル!」
――その時でした。お母さんが……
「あなたは〝何も聞かなかった〟……いいわね?」
「…………………………はい」
……私は、〝聞かなかった〟ことにしました。
「……よ、よし! そそ、そんじゃまぁ、ももも、文字数も辛くなってきたことだし、ここここ、今度は、おおおおお、俺が、いいいいいい、言うぜ!」
……がんばってください。神王さま。私は……〝何も聞いていません〟ので…………。
「…………しょ、勝利と……栄光の、つ、つる……ぎ……」
……あれ? どうしてでしょう? すごくぴったりな……それこそ、最初からそういう名前だったとすら思えるのに、べにひ……〝聞いてない〟ことの後だと、印象が全然……。
「……ど、どうだ……?」
「ん~……そこそこじゃな。やはり、妾の足元にも及ばんかったが」
「……で、でもよ? 何かすっげぇまともな名前じゃねぇか? 俺様の次に……」
「「「…………」」」
――さぁ、エル! と突然、霊王さまは私を名指しして聞いてきました。
「どれにするんじゃ? まぁ、フレイアの子ともなれば、当然妾の考えた名前を選ぶとは思うがの? かかかかか!」
……じゃあ、とさっそく、私は霊王さまの言葉を〝聞かなかった〟ことにして、神王さまが考えてくれた名前を呟こうとした、
――瞬間でした。
「あいやいやー!! お待ちくだされ霊王様!!」
と真っ黒いカーテンを羽織った変な人が、変な声を上げたのです。きっと〝ヘンシツシャ〟ってやつです。お菓子をくれるって言ってもついて行っちゃダメって、お母さんが言ってました……。
あ? 何じゃ? と霊王さまはその〝ヘンシツシャ〟の声に、ものすごく嫌そうな顔で答えました。
「邪魔するでない二代目。今大事なところなんじゃ。構ってほしいなら後で少しくらい構ってやるから」
「え!? それは本当……いえ! そうではなくて! 私とて二代目とはいえ、一世界の〝王〟でございます! ならば、厚かましくも私にもエルさんの力名を命名させていただける権利があるのではないかと思いまして!」
「ふむ……言われてみれば、それもそうじゃのう? ――うむ、よかろう。ならば言ってみるがよい。ただし変態的なモノじゃったら許さんぞ?」
「はい! ご安心ください! ではさっそく――」
ば! ばばっ!! ――〝ヘンシツシャ〟は突然、魔法で小さな光の球を宙に出現させ、無駄に光り輝きながら、無駄にカッコイイポーズをとりながら、言い放ちました。
「――〝創聖天翔刃〟」
「ぐっはあああああああああああああああっっっッッ!!!!!!??????????」
……唐突に、〝ハンバーグ〟の人が叫び声を上げて床にひっくり返りました。そのままうめき声を上げるように話します。
「か……完敗……だ…………お、俺には……勝て、ねぇ…………」
……確かに、ちょっとカッコイイです。けど、〝ハンバーグ〟さん。あなたは最初から負けていると思いますよ?
「お気に召していただいたようで何よりでございます、魔王様……霊王様もいかがでしょう? 神族の天使科である彼女の、〝聖なる者〟というイメージから考えた自信作なのですが?」
「むぐ……な、なるほどの……バカは最初から論外じゃが、中々やるではないか……」
……霊王さまもどうやらそう思ったようです。ごほんごほん、と未だにポーズをとり続ける〝ヘンシツシャ〟から逃げるように咳払いをしてから、改めて続けました。
「――さ、さて? エルよ……どれがよいかの? ……や、やはり女の子は〝花〟が好きじゃよな? 遠慮せずに〝一番好きな〟ものを選ぶがよいぞ? ――妾たちが何と言おうと、結局は〝女の子〟であるお前が〝一番気に入った〟名前を選ばねば意味がないからの?」
「……」
……私は、とりあえず頭の中を整理してみることにしました。その結果がこちらです。
一、魔王さま 〝ハンバーグ〟
二、霊王さま 〝私は何も聞いてません〟
三、神王さま 〝勝利と栄光の剣〟
四、 ?? 〝ヘンシツシャ〟
「……三番で!」
「――ん! エルさん!」
「……はっ!!」
ファナさんに身体を揺すられ、ようやく記憶から戻ってきた私に、ファナさんは心配そうに声をかけてきた。
「あ、よかった~……エルさん、何度呼びかけても返事しないし、びっくりしちゃった~」
「ご、ごめんなさい! つい、思い出すのに夢中で……」
そうなんだ~! と私の説明を聞いて納得したのか、んぱっ☆ とファナさんは笑顔になった。
それから、若干興奮気味に聞いてくる。
「――あ! それで、エルさん? いったいどんな〝候補〟があったんですか?」
「〝候補〟? ……ああ! その話をしていたんでしたね。えーとですね? その時は――」
『――エル! あなたは〝何も聞かなかった〟……いいわね?』
……………………。
「……? エルさん???」
ああ! すみません! 謝ってからすぐに、私は満面の笑顔で言い放った。
「そうですね、私は……〝何も聞いていません〟♪」
「……え?????」
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