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5-15




 ――翌日の訓練場。


 ……ムリッッ!!!!!


 ……心に誓ってから僅か一ページ。あたしはその誓いを今すぐなかったことにして逃げ出したい気分だった。

「だ…だいじょうぶ、リムちゃん?」

 一応の休憩時間。床に突っ伏すあたしを心配して、ファナはそう声をかけてきてくれた。

「だ……だいじょうぶ……〝じゃない〟」

 あたしは、正直に答えた。

「い、いくら霊王さまがすっごい〝王〟さまだってわかってても、あたしはこの手の〝力〟以外、普通の女の子だよ……? こんな辛い訓練……も、もう……ムリ!」

「う…………あ……い、いや! でもほら! そんなに辛い訓練してるんだから、昨日よりは〝何かしら上手〟にできるようにはなったんでしょ!?」

 ……え? あたしが顔を上げると、ファナはうれしそうに話した。

「シーダも昨日よりは……たった三メートルくらいだけど、長い距離を速く走れるようになってきたし、私も、空ける〝穴〟の大きさがちょっとは小さくなったんだから! ……今度から訓練場が崩れると悪いから、その〝穴〟に向かってやることになったけど……ね、ね! とにかくほら、一応は〝上達してる〟んだから! リムちゃんもがんばろうよ!」

 ……じょう……たつ…………。

「……ん? どうしたのリムちゃん?」

 ――その時だった。霊王さまが遠くであたしたちのことを呼んだ。

「ほれ、お前たち何をしておる! 訓練の続きをやるぞ! 早ぅこい!」

「あ、はーい! ……ほら、リムちゃんもいっしょに行こ?」

「…………」

「……? リムちゃん???」

 ――はっ! あたしはすぐに返事をした。

「う、うん! ……あ、でも待って。その前にちょっとトイレに……」

「おトイレ? うん、わかった。霊王さまに言っておいてあげるね!」

「うん……お願い…………」

 ・

 ・

 ・

 ――訓練場前の廊下。

 ……どうしよう?

 あたしは、真剣に悩んでいた。

 何を? とは、もちろん……ファナが言った〝上達〟という言葉について、だ……。

 ……ファナたちは昨日よりも少しは上達〝した〟と言っていたけれど……正直に言うと、あたしは全く、これっぽっちも、上達など〝していなかった〟のだ。

 ……昨日の今日で、そんな、目に見えて上達するわけがない。ファナたちだって、上達したのはほんの僅かだ……でも、それでも、僅かではあるけれど……確かに〝上達している〟のだ。あたしみたいにゼロではなく、たった一か二くらいだけど、〝上達している〟のだ。

 ……これがずっと続いていった場合、どうなるのだろう? ――と、あたしはほんの少しだけだけれど、〝恐怖〟を覚えてしまっていた。

 一ずつでも積み重ねれば、いずれは十にも百にもなる。……だけど、〝ゼロ〟は、いくら積み重ねても〝ゼロ〟でしかないのだ。

 ……もしも、このまま……〝ゼロ〟のままだったら…………。

 …………。

「――って! 止め止め! こんなくだらないこと!」

 あたしは独りそうほんの少し叫び、手袋を付けた手を、ぎゅっ、と握り、見つめた。

 ……そうだよ! 今は確かに〝ゼロ〟かもしれないけど、でもまだ始めたばっかりなんだ。明日にはもしかしたら、意外や意外! 〝十〟とかになってるかもよ? そしたらみんな、あたしのことをすごいって……ほめ、て…………。

 ……………………。

『――何だぁ? 自分に自信が持てねぇのか、悪魔の姉ちゃん?』

「……え?」

 ――突然、だった。

 唐突に、何の前触れもなく聞こえた〝誰かの声〟……あたしは辺りを見回してみたけれど、誰も……いない……???

 ……気のせいかな? そう思って、とりあえずは訓練場に戻ろうとした、その時だった。

『ここだよ、ここ!』

 !? ――気のせいじゃない! どこ……!?

 あたしはもう一度、しかし今度は目を凝らして隅々まで捜してみたけれど……声の主は見つからなかった。

「――誰!? いったいどこにいるの!?」

『だからここだって! 〝姉ちゃんの頭の中〟だよ!』

 頭……〝頭の中〟!!?」

「ちょっ……どういうこと!? あんたいったい……!!」

『あー、うるせぇな……ちょっとは落ち着けよ。……って、勝手に頭ん中に入ったヤツが言うセリフじゃねーわな? ――ともかくだ。とりあえずは自己紹介といこうか? おれっちの名前は〝ハイジャ〟。姉ちゃんたちが言うところの……何だっけ? ほら……そう!』


 ――〝秘王の卵〟から生まれた、〝分身〟ってやつさ!






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