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――訓練場の端っこ。木の箱が積み上がった場所。
「……あ、あの…だ、だいじょうぶだって! きっと、男の子と女の子で、成長の仕方が違うんだよ! ファナだってあと何年かすれば、きっと……!!」
ずーん……と、膝を抱えて座ったまま壁から離れようとはしないファナに、あたしはそう声をかけてみたけれど……ダメだ。あれはもう、帰ってこれないかもしれない。だって、エルさんに〝マナ〟を送られても何にも変化はなかったし、相変わらず遅かった……だけでなく、転び、おでこを打ち、それをおもしろがって数秒遅れてその後を追いかけていった弟にも追い抜かれ…いや、みなまでは言うまい……とにかくファナの心はもう、ズタズタ、になってしまっていたのだ。
……さて、どうしよう? あたしはそんなファナの後ろで腕組みをして考えていると……どうやら先に答えが出たらしい。霊王さまたちが声を上げた。
「ファナ! いつまでもそんなところで沈んでいるでない! いい加減こっちにこんか!」
「あ…あの、霊王様……お言葉ではございますが、ファナさんはまだ子どもです。もう少し優しく……」
「お…おお、すまんすまん。神王や魔王をかまっていると、どうもその辺がな……あいつら中身はガキで形は子どもじゃし……。あー……ふ、ファナよ。すまんかったな? しかし、お前のことで少し〝気になること〟があっての? こっちにきてはくれんか?」
「ぐす……〝気になること〟?」
ようやく顔……おでこが真っ赤な顔を上げてくれたファナに、霊王さまは続けて話した。
「そう、〝気になることじゃ〟。――よいか、よく聞け? 人間族だの精霊族だのに関わらず、〝全種族に共通して言えること〟がもう一つあるんじゃ。それこそが……えーと……し……そう! 〝身体能力が低い者、魔法が強いかもしれん〟…法則じゃ!」
「「「「…………」」」」
……は?
「……そんな、今つけたような名前……私にだって、ウソだって、わかるもん…………」
ぷい、とファナは顔を背けてしまった。……まぁ、当たり前か。
「ああ! いや! 違うんじゃ!」
と、慌てて霊王さまはそれを弁解した。
「名前は確かに存在しない! 今妾がてきとーに付けたモノじゃ! そのことに関してはスマン! 悪かった! ――しかし、そういう〝法則〟があるのは嘘ではない! 実際に身体能力が低い者ほど、魔法の才能があったりするのじゃ!」
「……ホント?」
「ホントホント!!」
霊王さまは必死に首を縦に振り、本当だということをアピールした。
すると、ようやく……
「…………わかった」
……ほ。あたしはやっと立ち上がったファナを見て、思わず安堵のため息をついた。そのまま手を繋いでいっしょに霊王さまの所まで歩く。
それを見て、同じように安堵のため息をついた霊王さまは、緑の板に書かれた、魔法の種類を指しながら話した。
「――よいか、とりあえず分かったことをまとめると、エルは主に光魔法が得意で、リムルは〝鳳仙花〟の性質上、火魔法が得意。そしてシーダは……例外中の例外じゃが、スピードが極めて速いことからおそらく雷魔法が得意と思われる。……そして、ファナ…お前じゃ。お前はおそらく、〝水魔法〟が得意なのではないかと、妾は考えておる」
……水?
「何で?」あたしが代わりに聞くと、「消去法じゃ」と霊王さまは即答した。
「力、速さ……その他もろもろ苦手な分野を除き、得意な分野を絞っていくとそういう結論に至るのじゃ。特に人の細かい仕草など、そういうことにすぐ気がつくような繊細な者は、この水魔法が得意なことが多い。……まぁ、使ってみんことには何とも言えんのじゃがな?」
とにかく実際やってみようではないか! そう声を上げた霊王さまは、すぐにエルさんに指示を出した。
「エル、手本として〝ウォム〟を見せてやれ」
「了解いたしました」
……うぉむ? と首を傾げるファナに、あたしは説明した。
「ほら、さっき霊王さまがあたしに問題を出した時、テファイを消した水の魔法だよ」
「ああ、あれがウォムって言うんだ」
納得して、ファナはすぐにエルさんの方を向いた。
それを確認したエルさんは、すぐに、
「では、使いますね? ――水よ、集え…〝ウォム〟」
ぽよん、ぽよん、とエルさんが突き出した指差しに、小さな水の球ができた。エルさんはそれを壁にかけてある的に向けると……瞬間、ぴゅう、と勢いよくそれは飛び、見事命中した。
「……これが、ウォムという魔法です。――水を飛ばせるようになるのには練習が必要となりますが、この魔法は呪文さえ知っていれば、〝マナ〟を操ったことがない人でも〝必ず〟使える魔法なので、さっそく実際にやってみましょう」
「え……誰でも使えるの?」
はい、と笑顔で頷いたエルさんは、そこに補足を付け足した。
「実際、神界の魔法学校ではこれを翼があってもまだ飛ぶことができないような、そんな小さな子どもにも教えていますが、成功確率は、およそ二万人中〝二万人〟…つまり、100%です。必ず成功するので、自信を持ってやってみましょう」
へ~? と、100%と言われても、ファナはまだほんの少し心配な様子だ。
それなら……と、あたしは的に指を突き出し、あえて一番最初に呪文を唱える。
「――水よ、集え…〝ウォム〟!」
すると……
ぽたぽたぽたぽたぽた……手袋越しの指先から、水が滴り落ちた……。
「……何か、すっごく弱そうだね?」
「う…うっさい!」
弟に言われ、恥ずかしくなってあたしはすぐに指を引っ込める。……しかし、それを見ていたエルさんは、ふふ、と微笑みながら話した。
「最初は誰でもそんなものです。私も、初めて使った時はそんなものでしたから」
「そうなの? ……ほら! こんなもんなんだってよシーダ!」
「ふ~ん……」
「ほれ。そんなことはどうでもよいからファナとシーダもやってみよ。神王のマネをするわけではないが、話が進まんではないか」
「あ、はい!」「はーい」
……少しは自信がついたようだ。ファナとシーダはいっしょに的に向かって指を突き出し、同時に呪文を唱えた。
「「――水よ、集え…〝ウォム〟!!」」
すると……




