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 霊王さまは腕組みをしながら話した。

「……うむ。やはりそうとしか考えられんな。――〝マナ〟とは生きているだけで消費し、妾たち精霊以外の種族の者は身体を休めることで回復するものじゃが、取り込んだ〝マナ〟があれば必ずそちらから使用するのが全種族共通の身体の仕組みというものじゃ。――〝霊石〟をどれくらい食ったのかは知らんが、すでに体内から消えておるということは何かしらでそれを使ったのじゃろう。……もっとも、魔法もまだ使えんような者が、いったいそれを〝何に〟使ったのかが一番の問題じゃが……エルよ? 人間族は何か、こう……〝マナ〟を吐き出すような、そんな習性があったりはしないのか?」

「いえ、いくら獣人についての資料が少ないとはいえ、そんな習性は今まで聞いたこともありません。――また、シーダさんがファナさんと共に唯一使える魔法……〝F・D〟も、個人的にすでに何度か検証いたしましたが、あれはどんなに強い魔法を無効化したとしても、消費する〝マナ〟の量は変わりません。一日中手を繋いでいたとしても、恐らく〝霊石〟一粒分の消費量にもならないかと……」

「では他に何があるのじゃ? まさか獣人は、魔法を使わずとも〝マナ〟さえあれば身体能力を強化できると…でも……」

「「…………あ」」

 ……? どうしたのだろう? 突然、霊王さまとエルさんは、そんな声を上げて固まった。

 ……それから、数秒。

「……よし、試してみよう」

「……了解いたしました」

 頷いたエルさんは、それからすぐに弟の前でしゃがみ、話しかけた。

「――シーダさん? すみませんが、もう一度走ってみてはもらえませんか? そして走り終わったら、またここに戻ってきてください。」

「え? もう一回あそこ走るの? ……べつにいいけど……?」

 そう答えた弟は、小走りでもう一度スタート地点に立ち、そして……

「よーい、どん!」

 たったったったったっ――いつもの速さで……って、あれ??? 何で? さっきよりも全然…遅い???

「――やはりそうか!」

 走り始めて数秒。もうちょっとで折り返し、という所にまで弟が走って行ったところで、霊王さまはエルさんに指示を送った。

「エル! 今じゃ! 〝配給〟を使え!」

「承知いたしました!」

 ……え? ぎ、ギフト? 何で今???

 その時だった。呪文を唱えたエルさんの身体からきれいな白い光が出たと思いきや、それは弟の身体に向かって一直線に飛んで行った。

 ――瞬間、だった。


 ――バフォウ!!! 「――ただいまー!」


 ――突然の、〝突風〟……今の今まで折り返し地点にいたはずの弟が、突然……そう、本当に突然だ。ぱっ、と私の目の前に現れたのだ。

 これって……もしかして!

「やはりな……」

 ようやくそのことを理解できた私の隣…霊王さまは確認するように呟いた。

「つまり、こういうことか……獣人は最初から、体内に元からある〝マナ〟以外の〝マナ〟を取り込むと、ほぼ自動的に…それこそ身体を動かすような時に、それを身体能力に変換できると……じゃから八百年前に〝秘王の卵〟が孵った際、その〝マナ〟を送られた獣人はとんでもない〝力〟を得てしまったんじゃな? シーダがエルの〝マナ〟を受け取っても暴走しないところを見ると、暴走の理由はやはり〝秘王のマナ〟という普通には存在しない〝異質なマナ〟を受け取ったせいじゃろうが……」

「……あれ? でも、霊王さま? それじゃあファナにも〝マナ〟を送れば……」

 ――はっ!! リムちゃんの呟きによってシーダ以外の全員がそれに気がついた。すぐに霊王さまは声を上げる。

「エル! すぐに送れ!」

「了解いたしました!」

 頷いて、僅か数秒……再びエルさんから白い光が出て、今度は私の身体にそれは入った。

「――では、ファナさん……お願いします!」

「は……はい!」

 力強く頷いて、私はスタート地点に向かった。

 これで、私もシーダみたいに速く!!!

「――よーい、どん!」

 瞬間、だった。私の身体はまるで神馬のごとく、すさまじい速さで……


 たったっどたっ…たったっ……べしゃっ…ゴツン! …………。


 ……………………………………痛い……。


❤❤❤❤❤





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