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❤❤❤❤❤


「……で、それで何で、いきなり訓練場を〝走る〟ことになったんだっけ?」

 ――訓練場内。

 なが~い白い線が何本も引かれている、そのスタート地点。そこに私と弟は立たされていた。

 えっとね? と弟は私の呟きに答えた。

「とりあえず、大人の獣人がそんなに強いんだったら、子どものボクらでも多少は強いんじゃないかって、霊王さまが……」

「……」

 ……あ、あ…れ……? そんな理由? え? 確か私たち……〝魔法使い〟になるんじゃ?

「……あの、霊王様?」

 と、黄色い旗を持って、霊王様といっしょに私たちの後ろに立っていたエルさんが聞いた。

「……確かに、現代でも獣人は普通の人間よりも身体能力が高い、という報告が何件も上がってきてはいますが……以前にもお話ししたとおり、その時は魔法を使われていたとはいえ、この子たちは人間の盗賊団……大人の人間に手も足も出せなかった、普通の子どもです。……身体能力を測るにしても、もう少し大きくなってからの方がよろしいのではないかと……」

「――ん? ああ、いやいや、妾とてそのようなことは当然分かっておるわ」

 ではなぜ……聞くエルさんに、かかか、と笑って霊王さまは答えた。

「安心せぃ。これはただの〝適性検査〟というやつじゃ。――例えば、身体を動かすのが得意な者であれば〝雷の魔法〟を。力が強い者なら〝火の魔法〟を…といった具合に、重視して教える魔法を決めるためじゃ。……もっとも、ただ単に獣人のことも気になる、というのもあるにはあるんじゃがな?」

「なるほど、それで〝鳳仙花〟の性質上、赤の〝マナ〟とすでに判明しているリムルさんを除く、ファナさんたちをまずは調べようと……考えが及ばず、失礼いたしました」

「かかか! よいよい。聞くは一時、聞かぬは一生の恥と、精霊界でもよく言われておるしな」

「ねー! れーおーさま~!!!」

 ――と、その時だった。白い線の終わり…ゴールの所で、記録係を任されていたリムちゃんが大声で話した。

「なんでもいいから~! はやく~! はじめよーっっ!」

「おお、そうじゃったな。……では、エルよ」

 かしこまりました。頷いてから、エルさんは私たちにも見える位置に歩いてきて、黄色い旗を大きく振りかぶった。

「――では、始めさせていただきます。ファナさん、シーダさん。位置についてください」

「は…はい!」「はーい」

 言われて、私はスタートの線の前に立ち、きゅっ、と足に力を入れた。

 ……まぁ、何はともあれ、だ。これも魔法を使うための訓練であるらしいし、いっしょうけんめいやらなきゃ!

 ……と言っても、普段の私は、走るのはシーダよりも全然遅いんだけどね? シーダを怒るために追いかける時はなぜか、速いけど……。

「よーい……」

 ――っと! そんなことを考えてる場合じゃない! 集中集中!

「……スタート!」

 瞬間だった。エルさんの黄色い旗は勢いよく振られ、私と弟は同時にス――


 ちゅどっっ!!!!! 「――ごーる! やったー! ボクの勝ちぃ~♪」


 ――タートし……

 ……。

 ……。

 ……。

 ……えっっ!!!!!??????????

 ――スタート地点。

 私はまだ、たったの〝一歩〟しか進んではいないそこで、慌てて隣を振り向いた。

 すると…そこには弟の姿はなかった! いや! 前にいるんだから当たり前だけど! とにかく……えっっ!!??????????

「…………」

 あー、えーと……と、弟が〝消えた〟スタート地点。代わりに残された、弟の〝足の形〟に踏み砕かれた床を見ながら、霊王さまは呟いた。

「……こ、こんなに脚力がある者が手も足も出んとは……よ、よほど、その人間の盗賊は手練れの魔法使い…じゃったんじゃ…な……???」

「…………」

 ……はっっ!! 旗を振りおろしたまま数秒。そのままのポーズで固まってしまっていたエルさんは慌てて答えた。

 ……しかし、

「も、申しわけございません霊王様! 今何と…あれ? え? あれ……?????」

 霊王さま、そして弟を交互に見回しながら、エルさんは普段の冷静な表情からは一転。あわあわ、と……まるで慌てた時の私みたいに、意味もなくデタラメに旗を振り回していた。

「あー…もうよい。ならばファナよ?」

「え…あ! はい! 何ですか!」

「うむ、弟は普段……いや、それも今はよい。実際に比べてみれば文字どおり一目瞭然じゃろう。――とりあえず、予定どおりゴールまで全力で走ってみよ」

「あ…は、はい! じゃあ……」

 よーい、どん! ……心の中でそう言ってから、私は全力で走った。とにかく全力で走った。がむしゃらに全力で走った。けれど……

「……おねーちゃんおそーい!」

 ……弟は、まだ遥か先で固まったままになっているリムちゃんのほっぺを突っついて、遊んでいた…………。





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